警視庁1
東京都千代田区・霞が関。
昼間の官庁街には、重苦しい空気が漂っていた。
警視庁公安委員会庁舎――。
地下作戦室には、捜査一課、公安部、SAT関係者など、多数の刑事たちが集められていた。大型モニターには、新宿区で発生した銀行強盗事件の映像が映し出されている。
爆走する大型トラック。
炎上するパトカー。
歌舞伎町で発生した爆発。
室内には緊張と苛立ちが混ざった沈黙が広がっていた。
その中で、一人の若い刑事が静かに椅子へ座っていた。
水野相馬、23歳。
警視庁直属の若手刑事でありながら、冷静な判断力で頭角を現し始めている男だった。
隣では、相方の伊藤勇作が腕を組みながらモニターを睨んでいる。
「派手にやってくれたな……」
伊藤が小さく呟く。
その時。
作戦室の扉が開いた。
一斉に空気が引き締まる。
入ってきたのは、警視総監・荒川総悟だった。
白髪混じりの髪に鋭い眼光。
都内警察組織の頂点に立つ男。
荒川はホワイトボード前へ立つと、周囲を見渡した。
「今日ここへ呼んだ理由は一つだ」
低い声が作戦室へ響く。
「二時間前、新宿区で発生した銀行強盗事件。犯人グループは大型金庫をそのままトラックへ積載し逃走した」
モニターに金庫の画像が映る。
通常なら運搬だけで数日かかる代物だった。
「現在も都内を逃走中。足取りは断続的に確認されているが、居場所は確定できていない」
荒川は続ける。
「本来なら東京保安庁との共同作戦を実施したかった」
その瞬間。
室内の空気がわずかに淀む。
誰も口にはしない。
だが全員が理解していた。
警視庁と東京保安庁は、もはや表向きだけの協力関係に過ぎない。
縄張り争い。
捜査権問題。
財閥との癒着疑惑。
両組織の対立は年々激化していた。
荒川は静かに言う。
「……現状、それはほぼ不可能だろう」
誰も反論しなかった。
そして警視総監は、ホワイトボードへ四人の顔写真を映し出す。
「今回の主犯は、都内唯一の女性A級指名手配犯――神崎玲子」
神崎の写真。
爆発事件、武器密輸、企業襲撃。
数々の凶悪犯罪歴が並んでいる。
「そして吉田和樹」
続いて表示された男は、荒っぽい笑みを浮かべていた。
「さらに、この二名に協力している若年メンバー」
「戸川和則」
「今坂優斗」
二人ともまだ学生だった。
「彼らは既に歌舞伎町周辺でタンクローリーを爆破。民間人に多数の死傷者を出し、警察車両五台を破壊している」
作戦室の空気がさらに重くなる。
荒川警視総監は全員を見渡した。
「これ以上、暴れさせるな」
短い言葉だった。
だが、それだけで十分だった。
「以上だ」
警視総監はそのまま部屋を後にする。
すると同時に、刑事たちが一斉に立ち上がった。
怒号。
無線音。
足音。
作戦室は一瞬で慌ただしくなる。
水野も静かに立ち上がった。
伊藤が隣で言う。
「嫌な予感しかしねぇな」
「いつものことだろ」
水野は短く返した。
だがその表情は硬い。
数十分後――。
警視庁捜査一課。
新たな情報が飛び込む。
「犯人グループ、港区方面へ移動中!」
「民間刑事事務所の連中と交戦してるらしい!」
オペレーターの声がフロアへ響く。
直後、無線が都内各所へ一斉送信された。
『警視庁本部から各局。現在、銀行強盗犯車両は港区にて移動中。武装済み。各員注意しろ』
東京中でサイレンが鳴り響く。
首都高速入口では封鎖が始まり、区境では検問が設置されていく。
街全体が戦場へ変わり始めていた。
水野と伊藤は急いでパトカーへ乗り込む。
エンジン始動
赤色灯点灯
伊藤がアクセルを踏み込む。
「港区だ。飛ばすぞ」
「了解」
パトカーは霞が関を飛び出し、高層ビル群の光る東京へ加速していった。
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