警視庁2〈後半〉
中央警察署・地下駐車場。
薄暗いコンクリート空間へ、一台のパトカーが滑り込んできた。
タイヤ音が静かに響く。
停車。
次の瞬間。
運転席から一人の男が急いで降りてきた。
荒木巧
警察用ジャケット
帽子
偽造警察手帳
完全に“警官”へ擬装していた
彼は周囲を素早く確認する
地下駐車場には数人の警官がいる
だが、誰も不審には思っていない
荒木はそのままエレベーター方向へ歩いていく。
すると入口警備の警官が声をかけた。
「すみません、所属を」
荒木は一切迷わず手帳を見せる。
「神奈川県警の清水です」
警官は軽く確認すると、すぐ敬礼した。
「失礼しました」
「どうも」
荒木は平然と通過する。
だが内心では。
(あっぶねぇ……通れた~...)
完全に綱渡りだった
エレベーターへ乗り込む
閉まる扉
表示灯が上昇していく
五階
取調室フロア
チン――
扉が開いた
すると同時に
目の前へ、水野相馬と伊藤勇作が歩いてきた。
二人は資料を見ながら会話している。
「築地の件、やっぱ内部犯の可能性も――」
「いや、それなら防犯システム突破が――」
荒木は帽子を深く被ったまま、顔を伏せる。
水野と伊藤も気づかない。
そのまますれ違った。
一瞬。
ほんの数十センチ
荒木の背中を冷や汗が流れる
だが二人は通り過ぎていった
荒木は静かに息を吐く
「……危ねぇ」
そして早歩きで取調室へ向かった。
――取調室
白石真帆は机を挟み、警官と向かい合っていた。
「だから、知らないって言ってるじゃないですか」
警官は苛立っていた。
「何回同じこと言わせるんだ」
その時。
コンコン
扉が開く。
荒木が入ってきた。
「失礼します」
警官が振り向く。
荒木は平然とした声で言った
「水野刑事がお呼びです」
警官は露骨に嫌そうな顔をする。
「今?」
「はい、急ぎらしいです」
警官はため息を吐いた。
「……あとで行くって伝えといてくれ」
その瞬間
荒木の目が変わる。
「……分かりました」
次の瞬間だった。
ドゴッ!!
「がぁっ!?」
荒木の拳が警官の腹へ突き刺さる。
さらに
肘打ち
回し蹴り
壁叩き付け
完全に容赦がなかった。
警官は抵抗する間もなく床へ倒れる。
「ぐ……」
荒木は帽子を脱ぎながらため息を吐く。
「あんま警視庁とは戦いたくなかったんだけどなぁ……」
彼は気絶した警官を椅子へ座らせる。
白石は目を潤ませながら荒木を見る。
「……遅かったじゃん!」
少し泣きそうな声だった。
荒木は苦笑する。
「悪い」
「急いで出るぞ」
白石は立ち上がる。
二人はすぐ部屋を飛び出した。
だが――。
最悪のタイミングでエレベーターが開く
そこから出てきたのは
水野相馬と伊藤勇作だった
二人とも資料を持ちながら会話していた
荒木と白石は反射的に身を隠す
ゴミ箱の陰
自販機の死角
水野たちは気づかない
そのまま取調室方向へ歩いていく
荒木は白石へ小声で言う
「今だ」
二人は即座に階段へ飛び込む
階段を駆け下りる足音
一方
水野と伊藤は取調室へ入った
そして
二人とも固まる
椅子に座ったまま気絶している警官
荒れた室内
そして――
白石が消えていた。
「……は?」
伊藤が絶句する
水野は無言で現場を見る
殴打痕
一撃で制圧された形跡。
その瞬間。
彼の脳内で、一つの映像が繋がった。
――エレベーター。
帽子を深く被った警官
水野の目が見開かれる。
「あの警官……!」
彼は取調室を飛び出した。
廊下最奥。
窓へ張り付く。
そこから見えたのは。
地下駐車場から出ていく一台のパトカー。
水野は壁を叩いた。
「くそっ!!」
「やられた!!」
伊藤も追いつく。
「まさか……荒木か!?」
水野は歯を食いしばる。
「あの野郎……!」
「警官に化けやがった!!」
二人は即座に走り出した。
エレベーター
非常階段
無線
署内へ緊急連絡が飛び交う。
『容疑者逃走!!』
『偽装警官を確認!!』
『地下駐車場封鎖しろ!!』
その頃。
中央警察署から飛び出したパトカーは、一般車両を縫うように東京の道路を疾走していた。
運転席
荒木巧
助手席には白石真帆。
そしてバックミラーには
中央警察署から次々と出動してくる警察車両の赤色灯が映り始めていた。




