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東京2038  作者: たくたく
第一章
14/18

警視庁2〈前半〉

東京都中央区――警視庁中央警察署。

署内には重苦しい空気が漂っていた。

廊下には取調室が並び、無機質な白色灯が静かに床を照らしている。


その一角。


自動販売機の前で、水野相馬が缶コーヒーを買っていた。


ガコン。


缶が落ちる。

水野はそれを取り出し、静かにプルタブを開けた。


その時。


背後の取調室の扉が開く。


「それじゃ、後は頼むぞ」


伊藤勇作が疲れた顔で出てきた。

ネクタイは少し緩み、取調べの長さを物語っている。

水野はコーヒーを一口飲みながら聞いた。


「……その感じだと、まだ吐いてないみたいだな」


伊藤はため息をつく。


「あぁ」

「すぐ折れると思ったんだけどな」


彼は取調室ドアの小さなガラス窓を見る。

その向こう。

白石真帆が椅子へ座っていた。

疲れた表情。

だが、まだ何も話していない。


伊藤は苦笑する。


「中々手ごわいぞ、あの女」


水野は壁へ寄りかかった。


「荒木巧」


その名前を静かに口にする。


「前の銀行強盗事件でも、最後まで追跡へ参加していた」

「理由はどうあれ、機密資料回収のため保安庁側から動いていた可能性は高い」


伊藤が腕を組む。


「財閥と繋がってる可能性も十分あるってことか」

「恐らくな」


水野は低く答えた。


「保安庁と財閥の癒着は、もう隠しきれてない」


伊藤は少し笑った。


「まぁ、あいつの場合、単純に報酬金目当てな気もするけどな」


そのまま二人は廊下を歩き始める。

伊藤は話を続けた。


「しかも今度は築地市場だ」

「重要資料が盗まれて、まだ回収できてない」

「二度もやられた財閥側も、保安庁に相当疑心暗鬼になってるだろうな」


その時だった。


ボボボボボボ――――。


重低音。

窓ガラスが微かに震える。

二人は同時に外を見る。

高層ビルの隙間を、堂田財閥の大型ヘリが飛行していた。


水野はその音を聞きながら呟く。


「……財閥が独断で動き始める時が来るかもしれないな」


伊藤の表情も少し険しくなる。


「最近は堂田だけじゃない」

「大山、津蔵、菅原……他の財閥も武装力を持ち始めてる」

「それだけは避けないとな」


警視庁が目指しているもの

それは単なる捜査ではない

財閥の極秘情報を暴き

保安庁との癒着を断ち切り

企業に支配された東京から、()()()()()()()()()()()()()だった。


だが。


それは同時に。


財閥そのものを敵に回すことでもある。


一方その頃――。


中央区外環道路

警察擬装車両が高速道路を走っていた。


運転席には帽子を深く被った荒木巧が、無言でハンドルを握っている。


助手席には警察用偽造ID

ダッシュボードには拳銃

そしてシート横には、小型通信妨害装置


彼の目は完全に本気だった。


「……待ってろ」


白石真帆


唯一、自分が普通の人間でいられる場所。


荒木はアクセルをさらに踏み込む。


中央警察署まで、残り数分。


だが彼はまだ知らない。


既に中央警察署周辺では――。


堂田財閥直属部隊

東京保安庁

そして警視庁公安部


三つの勢力が、水面下で動き始めていたことを。

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