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東京2038  作者: たくたく
第一章
13/18

民間刑事4

午前11時23分。

東京都千代田区――東京駅。

休日ということもあり、駅構内は昼になっても異常な混雑を続けていた。


巨大ホログラム広告。

観光客。

スーツ姿のビジネスマン。

リニア中央新幹線利用客。


数年前に全面開通したリニア中央新幹線は、今や東京経済を支える巨大交通網となっており、休日ともなれば東京駅は人で溢れ返っていた。


山手線ホーム

その雑踏の中に、一人の若い女性が立っていた。


白石真帆


彼女はスマホを確認しながら、ホームに流れるアナウンスを聞いていた。


『まもなく山手線外回り電車が到着します――』


電車がホームへ滑り込んでくる。

白石が乗り込もうとした――その瞬間だった。


ガシッ。


右肩を掴まれる。


「っ……!」


全身が凍る。

白石は反射的に振り向いた。

そこにいたのは二人の男。


スーツ姿


だが、ただの会社員ではない。


「……ちょっといいですか?」


低い声。

白石の呼吸が止まる。

男たちは手帳を取り出した。


「警視庁の水野と伊藤です」


水野相馬。

その隣には伊藤勇作。

白石は一瞬だけ表情を取り繕った。


「あ、あぁ……どうもです」


だが伊藤はすぐ本題へ入る。


「少し聞きたいことがありまして」


「あなた最近、荒木巧という民間刑事と接触していますよね?」


白石の心臓が大きく跳ねた。

だが彼女は必死に平静を装う。


「えっと……急に知らない人の話されても困るんですけど……」


嘘だった

しかし


水野は無言で数枚の写真を取り出した。


「残念ですが、証拠はあります」


そこには

地下カフェで荒木と話す白石の姿。


別角度

別日


さらに、店外の植木鉢に隠されていた超小型カメラ映像まで写っていた。

白石の体温が一気に下がる。


――監視されていた。


それもかなり前から。


現在、警視庁と東京保安庁の対立は深刻化している。

民間刑事もまた、その争いへ巻き込まれていた。


伊藤が静かに前へ出る。

逃げ道を塞ぐように。


「他にも聞きたいことがあります」


水野が低い声で続けた。


「少し署まで同行願えますか?」


白石は一歩下がろうとした。

だが。


二人の警官に力で敵うはずもない。


数分後。


彼女は地下バス停留所へ連れて行かれ、停車していた警察車両へ乗せられていた。


一方その頃――。


港区。


後藤刑事事務所。


荒木巧はデスクへ向かい、ノートPCを操作していた。


カタカタカタ――。


偽造書類

調査記録

保安庁案件


そこへ後ろから男が近づいてくる。


後藤優斗(ごとうゆうと)、58歳。


後藤刑事事務所の実質的責任者だった。

後藤は資料を覗き込み、感心したように笑う。


「やっぱ、うちのトップは違うねぇ」


荒木は画面から目を離さない。


「資料偽造くらい楽勝ですよ」

「そもそも、この事務所、自分以外ほぼ情報屋じゃないですか」


後藤は腕を組む。


「目上への態度は気に食わんが、仕事ぶりは本物だ」


その時だった。


ブブッ――。


荒木のスマホが震える。


「……失礼」


画面を見る。


送信者――白石真帆。


荒木は少し不思議そうに再生した。


だが聞こえてきたのは。


東京駅ホームの雑音。


そして。


『警視庁の水野と伊藤です』


荒木の表情が固まる。


その後も。


白石が連行されるまでの音声が全て録音されていた。


再生終了。


荒木の頭が真っ白になる。


「……なんでだ」


どうして白石との関係がバレた。

なぜ自分ではなく白石を狙った。

状況整理が追いつかない。


すると再び通知音。


白石から二件目の録音。


今度はノイズが多い。


ガタッ。

カンッ。

スマホを叩くような音。


荒木はもう一度再生した。


そして二回目で気づく。


「……これ」


彼は即座にPCのAI解析機能を起動した。


音声波形を解析。


断続音


AIが解析結果を表示する。


――モールス信号。


後藤が荒木の顔を見る。


「どうした」


荒木は険しい顔のまま答えた。


「知人が警視庁に連れていかれた」


後藤は眉をひそめる。


「……保安庁関連か」


荒木はさらに音声を聞き返す。


その途中。


ある単語に気づいた。


『中央警察署所属の――』


荒木の目が変わる。

場所が分かった。


彼は立ち上がる。


「後藤さん」


「あの前使ってた例の服、残ってる?」


後藤は少し驚く。


「擬装用か?」


「バレないか?」


荒木は即答した。


「バレてもいい」


その声に迷いは無かった。


「とにかく白石を助けに行く」


「警視庁だ。絶対に保安庁関連の情報を吐かせようとする」


荒木は拳を握る。


「……あの人、俺の唯一の癒しなんだ」

「そんな人を取られてたまるか」


後藤は数秒黙る。


やがて小さく笑った。


「……分かった」


ロッカーから警察用擬装装備を取り出す。


帽子

ジャケット

偽造ID

後藤は帽子を荒木へ被せた


「行ってこい」


そして低い声で続ける。


「ただし――絶対に取り返して来いよ」


荒木は静かに頷いた。

その目には、今までにないほど強い殺気が宿っていた。

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