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東京2038  作者: たくたく
第一章
11/18

堂田財閥3

埼玉県さいたま市。

かつて「東京のベッドタウン」と呼ばれていたこの街は、今や別の姿へ変わり始めていた。

堂田財閥主導による超大規模再開発計画――。


その影響で、市内の中小企業のほぼ全てが堂田系ホールディングスへ統合され、街そのものが巨大経済圏へ組み込まれようとしていた。


さいたま新都心周辺では、超高層ビル建設が各地で進行中だった。

高さ六〇〇メートル級のビル群の建設予定地が乱立し、

地上では大型重機が絶え間なく動き、無人輸送トラックが建材を運び続け、

上空では、堂田財閥製大型輸送ドローンが空を埋め尽くしていた。


その中心にそびえるのが――。


「堂田ヒルズ・サイタマ」。


高さ六七〇メートル。

堂田財閥の経済力を誇示するように建てられた、関東最大級の超高層ビルだった。

その内部。


モダンデザインで統一された静かな廊下を、田中龍平が歩いていた。


ガラス壁の向こうには建設中の巨大都市が見える。


その時。


反対側から武装した集団が歩いてきた。


黒い装甲服。

自動小銃。

統一された足音。


堂田財閥直属部隊。


十名ほどの部隊が無言で通り過ぎていく。


田中が視線で追っていると――。


「やあ、田中君」


前方から声がした。


田中が振り向くと、

そこに立っていたのは、広瀬博一(ひろせひろかず)、56歳。


市議会議員であり、この再開発計画の中心人物だった。

高級スーツに身を包み、政治家特有の柔らかな笑みを浮かべている。


「あぁ、広瀬さん」


田中はすぐに頭を下げた。


「今回の再開発への資金提供、本当にありがとうございました」


二人は握手を交わす。


広瀬は笑った。


「いやいや」

「資金提供を提案したのは、御社の堂田さんじゃないですか」


彼は窓の外を見上げる。


「あなた方のおかげで、今回の再開発は上手くいきそうですよ」


その視線の先では、大型ドローンが鉄骨を吊り上げていた。


田中は静かに言う。


「工事完了は、どれくらいになりそうですか?」


広瀬は少し考え込む。


「まぁ……予想ではあと三年ほどですね」

「大型ドローンのおかげで、かなり作業効率が上がってるんですよ」


田中はわずかに笑った。


「我が社製ドローンに勝てる企業はありませんから」

「全くだ」


広瀬は満足そうに頷く。


「では私はこの後会議があるので」


そう言い残し、その場を去っていった。

田中は丁寧に一礼する。


広瀬の姿が完全に見えなくなると、ゆっくり頭を上げた。


そして小さく息を吐く。


「……政治家ってのは、本当に笑顔が上手いな」


田中はスマホを確認した。


着信


堂田財閥本社。

田中はすぐ折り返す。


数秒後。


『……田中か』


出たのは中津直樹だった。


「何かあったんですか?」


田中が聞く。


すると中津は短く答えた。


『ああ。少々、問題が発生した』


――場面は変わる。


東京都中央区・築地。


地下深くに建設された巨大市場施設――新築地市場。


旧築地市場を遥かに超える規模を誇り、現在では関東物流の中心地となっている。


もちろん、この施設も堂田系ホールディングス傘下だった。


地下通路では魚介類が大量に運ばれ、無数の業者たちが声を張り上げている。


……はずだった。


だが今日、その一角だけは異様な静けさに包まれていた。


黄色い規制線。


封鎖された通路。


並ぶ警視庁車両。


地下出入口前では、多数の警察官が捜査を行っている。


田中と中津は、その現場へ到着していた。


中津が歩きながら説明する。


「築地市場・資料管理部から重要資料が盗まれた」


田中の目が細くなる。


「警察も捜査中だが……妙なんだ」


「妙?」


「市場内の防犯カメラ全てが、犯行時刻の十分前から襲撃後五分後まで完全に砂嵐状態だった」


「電子攻撃……?」


「おそらくな」


二人は封鎖区域を歩いていく。


「警備員も全出入口へ配置されていた」


「だが、閉店後に侵入した形跡が一切見つからない」


田中は無言になる。


完全にプロの犯行だった。


彼は低い声で聞いた。


「……ちなみに、盗まれたのは?」


中津は少しだけ黙る。


そして答えた。


「財閥が過去に行ってきた再開発地域と、その投入金額一覧だ」


その瞬間。


田中の表情が変わった。


――ただの内部資料じゃない。


再開発地域。


資金流入

政治家

土地買収


もし情報が外へ流れれば。


財閥と政治界の繋がりまで辿られる可能性がある。


「……なるほど」


田中は即座にスマホを取り出した。


「直属部隊を動かします」


短く連絡を入れる。


『財閥直属部隊へ。資料紛失事件の捜査へ即時参加しろ』


送信完了。


その時だった。


規制線の向こう側。

現場検証をしていた二人の刑事がこちらを見ていた。


水野相馬。


伊藤勇作。


警視庁の二人だった。

伊藤が小さく呟く。


「……来たぞ、財閥側」


水野は黙ったまま、田中を見つめていた。

そして田中もまた、水野たちへ視線を向ける。


警視庁


堂田財閥


互いに笑顔一つ見せないまま。

地下市場の冷たい空気の中で、静かな睨み合いが始まっていた。

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