第9話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「白兵第三部隊DP戦隊です。擾乱射撃を行いますので、ローカーの皆さんは指定ポイントに向かってください」
見た目ロボットにしか見えないフルアーマー装備の集団が手に持った大きな銃を構えて進み出ると、一斉にウヅラに向かって銃を撃ち始める。でも音は割と静かで、ローカーに指示を出す軍人の声は離れているここにも聞こえて来る。
「追い込み漁か、まぁ妥当だな」
追い込み漁らしい。俺にはさっぱりわからないけど、雰囲気的に軍が追い立て役なのだろう。音も静かだし低出力のエネルギー銃なのだろうか? 草むらの中からは痛そうな音が聞こえて来るけど、たぶん見た感じエネルギー結晶の燃費がいいタイプじゃないだろうか。
抱えるのも一苦労しそうなアサルトライフルだけど、その中身の大半はエネルギー結晶の変換機構だろう。まだまだ人類の技術では、ダンジョン武具のようなとんでも機能は小型化できないと、なにかで聞いたことがある。
「おいおい軍かよ」
「了解した」
「マジかぁ」
ローカーのやる気の減衰を感じる。まぁ強いスキル持ちにとってダンジョンパニックは稼ぎ時とも言うし、軍の出動は彼らにとって切り分けるパイが減るので不都合なのかもしれない。
俺としては早く終わって貰った方が稼げるので……どっちでもいいというのが本音である。そもそもダンジョンパニックを実体験しているのが初めてだから、どっちが良いとも言えないというのもあったりなかったり。
「珍しいな軍が出張るなんて」
「水汲みおじさん居たんだ」
「今来たとこさ……にしても第三か、訓練ついでかね?」
ひょっこり顔を出して岩の上に上って来たのは水汲みおじさん。今日も背中に液体保管用の保存ボトルを大量に担いでの登場だが、その中身は空っぽである。
水汲みおじさんは軍に詳しいのか、訳知り顔と言った雰囲気であるが、白兵第三部隊とやらがどんなところなのかよく知ってそうな感じだ。第一だ、第二だ、とたまに聞くことがあるけど、俺にはさっぱりわからない。
「さぁなぁ? まぁ暇してはいそうだけどな」
どうやら暇をしている人たちらしい。何をする部隊で戦隊なのか知らないけど、変身したり巨大ロボットに乗って戦う人達とは別なのだろう。
そんな事を考えていたら、何やらゴツイ銃を持った人たちが前に進み出る。どう見ても人が手に持って使うような銃ではないと思われる、銃口がいくつも付いた巨大なナニカ、確かガトリングとかそんな名前だった気がするが、なんで銃口が回転するのかは知らない。
ものすごくギュインギュイン廻っていて、それだけで何か恐ろしい銃が火を噴いた。
「う、わぁ……」
「おうおう、豪勢なこった」
先ほどまでのごつくても静かな銃とは違う。エネルギー銃ではなく火薬が爆発して発射するタイプである。迫力が違う。それが何十と横並びになって連射、そしてそのまま前進しながら進んでいく。
あんな恐ろしいもの持ち出されたら、低級ローカーなんて一瞬で消し飛ぶだろう。中級だって同様に消し飛ぶだろうとは思う。上級からはちょっと世界が変わるのでわからない。平気で音速超えたり、銃弾掴んだり、電撃を避けたりするからな。
「弾代馬鹿になんねぇだろうに……あれか、交換時期か」
「あぁ、ありそうではあるな」
隣でおじさん達が何か話しているがよく聞き取れない。エネルギー銃と違ってうるさすぎる。両手で耳を押さえていても貫通してくるが、よくこんな状況でおじさん達は談笑できるものだ。
「すげー音」
音が止んで静かになるけど、耳の奥で耳鳴りが止まない。耳のどこかでずっと連射音が反響しているような違和感がある。
「お、進むな……着いてくぞ」
おじさん達が立ち上がって大岩から飛び降り、俺を手招く。何を話してるかは微妙に聞こえないけど、どうやらついて来いと言っているようだ。
「良いのかな?」
「構わん構わん! はっはっは!」
俺も大岩から飛び降りて駆け寄ると、水汲みおじさんが豪快に笑う。
うん、このくらい近くて大きな声ならちゃんと聞こえるけど、なんだろう? 軍の人がおじさん達を見て敬礼している。おじさん達は敬礼をせず手を振ってるな? 軍の関係者だったのかとも思ったけど、ただの知り合いなのかな。
だからついて行って大丈夫という事だろうか? わからん。
ところでなんであの軍人さんは俺の事を凝視してるんでしょうか? おじさん二人もなんか笑ってるし……なるほどこれが疎外感と言うやつか。
「終わりみたいだな」
それから三十分と立たずに戦闘は終了、追い詰められたのであろうウヅラが、ローカーの全力スキル攻撃で消し炭になって、なんともあっけない終わりであった。
銃撃で追い詰められ、氷の壁に覆われ、最期は火災旋風に焼かれ悲鳴を出す暇もなく消し炭になったウヅラは、少し哀れな気がした。気がしただけで、俺もできればそうすることだろう。何せあいつら、目が合えばすぐ突撃してくるから、可哀そうとか可愛いとか思う暇もないのだ。
「あっと言う間ですね。いつも軍が出て来れば楽なのでは?」
「馬鹿言っちゃいけねぇぜ坊主」
「え?」
だめらしい。ローカーだけではこうはいかないだろう事は、最初の戦闘を見ていれば明らかである。なので軍の支援があればとも思ったのだが、水汲みおじさんもサカナおじさんも同じ表情で肩を竦めていた。
「主計課の前でそれ言うなよ? 血管きれちまうぞ」
「胃が壊れるかもしれんな。なんせこれだけの弾薬、しかもダンジョン仕様の特殊弾だろこれ、たけぇぞぉ?」
「そんなに?」
どうやら今回使われた銃弾は普通のとは違う弾らしい。主計課と言うのは良くわからないけど、多分そういった弾薬と言う物を用意する人たちなのか、そうなれば確かに高価な銃弾を大量に使う作戦は、とんでもない金額が動きそうである。
きっと前の会社の赤字より大きな数字が動くのではないだろうか? あれはあれで関係ないのに胃がきゅっとなった記憶がある。少なくとも俺の日常生活では見ない数値だったのは確かだ。
「ああ、しかもただの害獣駆除だからな、ウヅラも木っ端みじん、エネルギー結晶も一緒に木っ端みじんだ。なんの益もねぇ」
「あー……」
それは確かにしんどいかもしれない、使ったお金、コストに対して何も手に入らないとか普通に考えて骨折り損のくたびれ儲けと言うやつだろう。全体で見ればそれほどではないのかもしれないけど、軍単体で見れば損しかしてないように見える。
ローカーだって、今回のダンジョンパニックで手に入るのはダンジョン庁からの報酬だけで、エネルギー結晶などの収穫はほぼないだろうから、人によっては損していると思う。よくみると運良く砕けなかったエネルギー結晶もあるみたいで、さっきの虎柄ローカーたちが拾っているようだ。
「ローカースキルと違って弾薬はタダじゃねぇから、撃てば撃つほど大赤字だ」
「それじゃなんで……んお!? スライムだ」
足下からぬるっと湧き出て来た物体に思わず飛び退くと、さらに膨れ上がってぷるりと震えた。とても柔らかそうなボディをのそのそと動かし、ゆっくりと移動する謎の物体、スライム。
「お、出て来たか」
「なら終わりだな、ワシは魚の様子見てくらぁ」
このスライムが出現すると、その辺一帯のダンジョンパニックは終了だと言われている。なぜなら彼らは危険がある場所には現れず、危険が無くなると痛んだダンジョンの修復のために現れるのだ。少なくとも一区画くらいの範囲で安全が確保された段階でしか姿を現さない、比較的無害なモンスターである。
むしろローカーやダンジョンで活動する人間にとっては益の方が圧倒的に多いので、ローカー研修でも、スライムには危害を加えないようにと何度も言われた。多少つついたり、ぶつかったりしたところで何も起きないが、スライムが危険だと感じれば反撃をしてくるし、最悪居なくなってしまう。
そうなると、痛んだダンジョンは修復されず、そのまま不安定なまま長期間放置されることもある。結果、再度ダンジョンパニックが発生してしまう事もあるとか、過去に外国のダンジョンでそういった事故が起きて、国が傾きかける損害を出したのだと言う。
ならなぜ俺の足元から生えて来るのか、俺が全く危険じゃなかったから? ……あ、弱いからか、戦闘スキルも持ってないし、実際戦って勝てるかと言われると、うーん……。
「釣れんのか?」
「わかんね」
「わかんねぇのかよ……坊主も奥行くなら気を付けてな」
そんなスライムを撫でながら奥へと歩いて行くサカナおじさん、どうやら水汲みおじさんもそれについて行くようだ。
「あ、はい」
気を付けろと言われても何を気を付ければいいのか、すべてに気を付けなければいけないほど一層はごちゃごちゃしている。
これからどうするか、小さく息を吐く俺の足にスライムがぶつかり小さく震えた。それはぼーっと立っている俺を心配するような、そんな雰囲気だ。少なくとも邪魔だといった感じではないように思えるが気のせいだろうか? その柔らかさに癒された俺は、スライムを一撫でしてから先に進むことにする。
「よっと、おっとと……蔦が枯れて来てる。スライムも増えて来た」
ふらふらよたよたと、ぶっとい蔦をかき分けながら三十分ほど、目的地にはまだつかない。あっちも蔦こっちも蔦と道が塞がれていて進むに進めないのだ。それでもスライムがその強力な溶解液で蔦を溶かして出来た細い道や、枯れて倒れた蔦を登って進めば目的地が見えてくる。
「不思議な生き物だよなぁ」
見えてるだけで進めないでいると、スライムが俺を押しのけるように前に出て来て邪魔な蔦を溶かし始めた。本当に意思があるみたいな動きで、俺はスライムが結構好きである。出会うことは非常に稀だし、こいつらが居るという事はダンジョンが不安定な証拠なのだが、ついつい撫でてしまうくらいには気に入っている。
「やわらかい」
基本的に襲い掛かって来ないけど、敵対するとそこはモンスターで普通に襲い掛かってくるらしい。大きさにして人三人か四人分くらいの体にのしかかられて溶解されれば、人間なんてあっと言う間に骨なのだが、その恐怖心より可愛いが先に行く。
そんな彼らの蔦除去作業は素早く、あっという間に溶かされた蔦の向こうに進むと、見送ってくれるようにプルプルと震える姿が見て取れた。
たぶん日常における癒しが足りないのだろう。スライムにまで感情移入してしまうのは、割と重症なのかもしれない。一度メディックセンターに言って相談するべきか、でもローカー向けの格安病院とは言え、それなりにお金はかかる。早々お世話になるわけにもいかない。
「あれ?」
一度使えば癖になると、おじさんに言われたメディックセンターについて考えながら、目的地である二層降り口にたどり着くと、そこには宇宙軍の兵士が一人立っていた。見た目は先ほどまで一緒にいた人たち程厳つくは無いけど、俺の着ているミリタリー風ジャケットとは違って、しっかりした作りのフィールドジャケットを着ている。
ヘルメットとか無線とか、全部統一感があってかっこいい。俺のなんちゃって装備とは段違いだ。
しかし、そんな軍人さんが立っているという事は、まだ下層には降りられないのだろうか? 見た感じ一層でラディッシュは無理そうなので、二層に行ってみようと思ったのだが、とりあえず聞いてみるしかないかな。
「あのー?」
「はい? どうしました?」
振り向く動きもローカーと違うなぁ。
「二層は、まだ入れなさそうですか?」
思わず見惚れるキレのいい動きで振り向いた軍人さんは女性のようだ。今時女性の軍人は珍しくも無いけど、それでも異性相手だと少し緊張してしまう。
「大丈夫ですよ、蔦の状況観察をしているだけで、封鎖はしていませんから」
封鎖してないらしい。これは助かる。最悪今日はここまでで、本日の収入無しの可能性もあったので思わずほっと息が漏れた。
「あ、そうですか。それじゃ、通ります」
「お気をつけて」
「あ、ありがとうございます……」
びしっと敬礼されてしまった。顔はヘルメットとバイザーで見えないけど、何となく凛々しい姿を想像してしまう。それに比べて俺と来たら、ぺこぺこと頭を下げて何とも情けない。
いやまぁ、頭下げるのは普通の事だと思うけどね? ここで敬礼なんかで返せたら少しは格好がつくのかもしれないけど、素人の敬礼はかっこ悪いぞと昔おじさんズに言われたので、ちょっとやる勇気はない。
「ローカーが1名二層に降ります」
「!?……」
びっくりした。そういう報告もする必要があるのか、きっちりしてるな、ローカーとは世界が違う。いや、その辺の管理は、まとめてAIである受付さんがやってるんだろうけど、人がやってる姿をみるとやっぱなんか違って見える。
そんな風に考えながら階段を降りるが、降り口内部にも蔦が侵入しているようだ。
「うわ、結構残ってる……あ、でも枯れてく」
出口付近はさらにひどく蔦が侵入してきているけど、見ているうちに枯れていくので、多分二層もパニックは終わっているんだと思う。終わってるよね? 何か不安になるな。
「こちら通れますよ」
「え!? あ、はい……」
びっくりした。ちょっと不安になっているタイミングで蔦の影から出て来るからびっくりするじゃないか。いや、軍人さんは何も悪くないし、口元を見れば悪気はなく善意で声を掛けてくれたのも分かるけど、わかるけども……心臓に悪い。
「ありがとうございます」
「いえ、お気をつけて」
上は女性だったけど、下は男の人のようだ。アサルトライフルを肩から下げて、片手で保持しながら敬礼して笑みを浮かべている姿は、いかにも様になっている。
「……丁寧だな、ローカーに爪の垢煎じて飲ませた方がいいんじゃないか? 飲みたくないけど」
ローカーも、あのくらい丁寧な対応が平均的ならもっと楽しい仕事なんだけどなぁ。平均レベルがどのくらいか分からないけど、俺の周りの人間はだいたい睨んでくる方が多い。若ければ若いほどその反応が顕著だし、割かし普通に対応してくれるおじさん達はおじさん達で何かと荒っぽいから、やっぱりローカーは基本荒っぽい性格が多いのかもしれない。
二層を見渡す。濃い緑色にこげ茶のメッシュが入るような色合いが目に飛び込んでくる。パニックは終わったみたいだけど、視界も悪いしまだまだ気を抜けそうになさそうだ。
いかがでしたでしょうか?
ダンジョンパニックはあっけなく終わったようですが、今日の収入はいかほどになるのか。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




