第8話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
<残念ですが、穴見様の懸念は当たりました……>
翌日のダンジョン前受付にて嬉しくない知らせを受けた冬道です。人生は嬉しくない知らせの方が多いんだと思う。
「……うれしくねー」
スキルの虫の知らせもそうだけど、悪い知らせを受けて嬉しくなることはない。何かどす黒い赤褐色に色着いたダンジョンの大岩を潜って、受付で呟いた言葉をもう一度呟く。
周囲を見渡せば、いつもよりずっと少ないローカーが、俺と同じようにその場で立ち尽くしている。
「にしてもすごいな」
ダンジョンパニック、そう名付けられた現象によりダンジョン一層は混沌に陥っていた。
見渡す限り蔦、蔦、蔦、の濃い緑の世界。その一部を切り開いて進んだであろう跡には、スキルによる損傷があちらこちらに散見される。多いのは焦げ跡、ほかにはズタズタに千切られた蔦や、凍り付いてそのまま粉々に砕け散った残骸。
それらは全部、先に進んでいるローカーたちが道を切り開くためにスキルを使った痕跡で、俺では鉈を持って来ても、蔦一本刈るのに何十回も刃を振り下ろす必要があるだろう。たぶんこの道を切り開いて進んでいるのは特級とか上級のローカー、実力の違いがその切り開いた道だけで分からされる。
「何だかんだ3年目だけど、初めてパニックを見た気がする」
ツタが一番茂っているのはA 区画方面、他の区画はほどほどと言ったところで、まだ手を付け始めている段階のようだ。
何をしたらいいか分からないので、とりあえず処理が進んでいるであろうA区画へと足を踏み入れる。中級以下は特に指示を出されていないので、ダンジョンパニックの処理に参加するかどうかは自主的な判断にゆだねられている。
なにせローカーは基本個人事業主であり、局は強制権を持たない。上級や特急は、様々な優遇の代わりに非常時には依頼を受ける必要があるそうだが、それ以外の人間に指示を出せば、それに見合った優遇や補助を用意しないといけなくなり、ダンジョン庁の予算では不可能なのだそうだ。
「前に見た時はもう特級が焼き払った後だったからな」
そもそもダンジョンパニックという名前はあるものの、何が起きるかは毎回ランダムで、もし命を落としても自己責任である。だれも率先して鎮静化に勤めるわけがない。俺も前は家を出る前にパニックの情報を知ったので、その日は家に引きこもっていた記憶がある。
「道が出来てるけど、何というか雑だな……気を付けないとな」
いつもは腰くらいまでの草が密集している場所も、まるでジャックと豆の樹に出てきそうな太い蔦で埋まっていて、切り払い脇にどかされている蔦は細い丸太の位の太さだ、ちゃんと足元を見て歩かないと、中途半端に残った蔦で転んでしまうかもしれない。
「前線はどの辺りまで進んだのか、変に駆除中のエリアに入ると怒られるだろうなぁ」
一層で起きるダンジョンパニックはだいたいこの蔦の異常繁殖がベースであり、その原因の駆除がパニック鎮静化の主な仕事である。詳しくは知らないけど、駆除のポイントがあるらしく、その場所を目指して道を切り拓き、そして原因であるモンスターを駆除していく。
ある意味ロードメイカーらしい仕事とも言える気がしないでもない。
「ん? あ、これウヅラの卵だ」
原因の副産物を見つけてしまった。蔦によって押し潰された草地から転がり出たのであろう、石ころに見えるがそれはダンジョンのモンスターであるウヅラの卵。本来ならダンジョンの土壁や地面から突然生えてくるモンスターは卵なんて産まない。
しかしその卵を生み出し始めるウヅラが、今回のパニックを引き起こした原因だ。そのパニックがなぜ起きるか分からないけど、大抵はダンジョンに負荷を与えすぎる事でいろいろ起きると言われている。
「緑色だな……」
緑色の小さな卵にそっと近づきながら様子を窺う。右手は左の腰に下げたこん棒に添えながら。
その瞬間、
<キュピィーーー!!>
「うお!?」
卵が割れて耳の痛くなるような鳴き声を上げる雛に驚き、慌ててこん棒を雛に振り下ろして殺す。
ウヅラより弱い雛なので、その一撃で潰れてしまった。酷いようにも見えるだろうが、ダンジョンパニックの時だけ姿を現すこのウヅラはマジで危険なので、俺の行為は正しい。正しいのだが何とも後味が悪い。
赤く汚れたスパイク付きこん棒の先端を近くの蔦で拭う。ある程度拭うと、こん棒の先端にへばりついていた肉片と共に緑色の羽毛が地面に落ちる。
「びっくりした……緑ウヅラだ。初めて生で見た」
緑ウヅラ、どこからか現れて、一層まで上がってくると、体から種を落として大量の蔦を生み出し、さらに草の中に卵を産んでは移動を繰り返し暴れまわる凶悪なモンスターだ。
また卵から生まれた緑ウヅラも、一分ほどで成長して卵を産み始め、見つけた端から駆除して行かないと無限に増えていく厄介さがある。ただ、大本の親が死ぬと孵化することもできないそうで、卵を割っても中身が空なのだとか。
「あっち……前線はあっちみたいだな」
肌が少しざわざわする方向から人の声と爆発音が聞こえた気がする。草と蔦に音が吸収されてよく聞こえない感じだけど、多分あっちで間違いない。何せちょっと歩けば大きく焼き払われた広場と、無数のウヅラの死骸が転がっている。
低級が出て行って何か出来るわけじゃないけど、なるべく早めに今日の仕事を終わらせたいので、状況の確認はしておきたい。そろそろ水場があるあたりだと思うけど、この辺りは蔦の被害が少ないようで、見覚えのある草地が目に入る。
しかしラディッシュは見当たらない。
「おい! 坊主こっちだ」
「あ、サカナさん」
突然の声に少し驚いたけど、草地から顔を出していたのはサカナのおじさん。
手招きして進むその背中に少し悩んだけど、何かありそうなので着いて行くことにした。俺なんかよりずっとベテランのサカナさんのことだから、何かアドバイスでもくれるのだろう。所謂世話好きという賛否の別れるタイプのおじさんであるが、俺はそんなに嫌いではない。
そういう大人が、あまり周りにいなかったことも関係しているかもしれないな。
「いやぁ参った、こんなことになるとはなぁ」
「大丈夫ですか?」
「ワシが来た時にはもう駆除部隊が編成されとったからな、問題はないわい。後ろからついて行ってようやくここまで来たところだ」
招かれたのは魚が釣れそうな水場に半分浸かった大岩の上、おじさんの隣に座れば丁度視線の先で駆除作業が行われている。池とは反対側で行われている戦闘を、俺は蔦の影から頭を出して見ている状態だ。
火が巻き起こったり、氷が地面から生えたり、雷が落ちたりと派手ではあるが、真正面で大量のウヅラの突撃を受け止めているローカーの動きは繊細である。高火力で広範囲を焼き払えばら楽できそうなものなのにとも思うが、それをやると二次災害三次災害に繋がりかねないらしい。
耳をすませばドローンからそういった注意の声が聞こえて来る。ここだけではなくあちこちで駆除が同時並行的に行われているようだ。
「何時くらいからいるんです?」
そんな戦闘を肴に隣で酒を飲んでいるサカナおじさん。いつも携帯しているスキットルからちびちびと飲んでいる。なんでもかなり度数の高いお酒が入っているのだとかで、離れていてもアルコールを感じる匂いがした。
「3時だ! そのくらいから釣るのが丁度良いからな、15時あたりで引き上げて魚で酒! と思っておったんが……これだ」
「いつものルーティンですね」
すでに酒を飲んでいるがだいたいいつものルーティンのようだ。そんなルーティンが狂ったから酒を飲むことにしたのだろう。池に目をやるといつもは透明できれいな水が、今は緑色に濁ってとても魚が居るようには見えない。いや、何かの影は動いているので、ナニカはいるようだ。
「習慣だからな、お、こっちに近付いてきたな」
「え?」
サカナおじさんはよく習慣は大事だというが、毎日3時から釣りの為にダンジョンへ来れる体力が手に入るなら、確かに重要だと思う。そんな習慣の話を詳しく聞きたいところだけど、目の前の戦場がそれを許してくれない。
というか逃げなくて大丈夫なのだろうか? おじさんは楽しそうにお酒を飲んでいるけど、なんか小石とか飛んできてて不安ですよ僕は―――フォウ!? いま頭の上で風切り音したんですけど?? やばいやばい、頭引っ込めないと持ってかれる。
「纏まるな! もっと横に広がってやれ!」
火が舞う。特級であろうローカーの男が振るっているのは、たぶんダンジョン産のとんでも武器だろう。モノ的には、ダンジョンで拾った木で作った俺のこん棒と同じなんだろうけど、実態は全然別物である。振るうたびに炎を吹き出す刃、薙刀とか言うタイプの武器か、それともハルバードとか言えば良いのか良くわからない武器だ。
「後ろ! しっかり周りを見ろ! 回り込まれてるぞ!」
その後ろで、更に後ろの人間に指示を出している人の手には青い本。ハードカバーと言えば良いのか、ハードすぎるカバーと言えば良いのか、ところどころ金属光沢が光るその本からは、吹雪が漏れ出ている様に見える。これも同様にとんでも武器の類か、流石は特級と言うかもう次元が違う。
「てめぇらウヅラ程度でなに守りに入ってやがる! 攻めて攻めて攻めろ!!」
『ウッス!!』
巨大な楯をもった人が声を張り上げると、声を揃えて返事を返し、蔦の中から飛び出すウズラに向かって前進する盾と槍を持った男達、それは昔どこかで見た古代の兵士のような気迫がある。
というか、盾にぶつかるウヅラの衝突音がおかしい。普通のウヅラより強化されているとは聞いたことがあるけど、もうあれは銃弾と変わりないと思う。
「くそ、邪魔な蔦だな! 虎炎撃!!」
「馬鹿野郎! 広範囲の火は使うな!」
「ちっとぐらい良いだろうが!」
前に前に進む特級の後方を守っている一団から上がる不満の声、確かに蔦に囲まれてすすむ彼らの周りは狭い。狭い故にウヅラがすぐ近くから飛び出して来る光景は、とても俺では対処できない世界だ。
叫んだ虎柄装備の男もそう思って広範囲の炎スキルを使ってウヅラと蔦を纏めて焼いたのだろう。頭上から火の粉が降ってくるので個人的にはやめてほしい。背中のバックパックを持ち上げて頭を守っていると、隣でサカナおじさんがタオルを頬被りし始める。
耐火性能があるのだろうか? でもサカナおじさんもベテランだし、意外とタオルもダンジョン産のとんでも性能タオルなのかもしれない。
<広範囲に影響を及ぼす火系統スキルの使用を確認しました。パーティ名、深淵の虎にペナルティ1を付与します>
頭上からドローンによる注意喚起が降り注ぐ。よく見ると広範囲を焼いたことにより生まれた上昇気流に乗って広範囲に火の粉が落ちて行っている。これでは火が延焼して燃えた蔦の壁に囲まれかねない。最悪あの緑色の水の中に飛び込む必要も出てくるのだろうか? 周りは草だらけ、逃げ道はそれくらいしかなさそうだ。
おじさんは苦笑を漏らして酒をちびちび飲んでいる。まだ余裕そうなので、大丈夫なのかもしれない。
「ほらああ!」
大きな声、それも特大の不満が籠った女性の声が聞こえてきた。
「うっせうっせ!! 虎炎撃!!」
どうやら“深淵の虎”と言うパーティのようだが、虎柄装備の男性以外は女性のようで、彼女達の不満の声を打ち払うようにまた広範囲の炎スキルが、男性ローカーの手から吹き出す。
やけくそ気味の炎だけど、あれは上級ローカーだろうか? 特級ほどすごさは感じないけど、危険性は感じる。空を舞う火の子が増えるので、それ以上のスキル使用は勘弁願いたい。
「だから止めろって!」
<……ペナルティ2を付与します>
ほら、パーティのメンバーからも怒られるし、ドローンから聞こえて来る声も呆れが混じってるじゃないか。たぶんこの声って受付さんじゃないかな? ペナルティ2とか言ってるし、やばいんじゃないかな。俺は一度もペナルティ受けたこと無いから良くわかんないけど、あれって早々出される物じゃないと思う。
「このどぐされ中級共!! 余計なことすんじゃねえ!! っ殺すぞ!!」
「うげ、歩道連盟!?」
あ、中級ローカーだったのか……それにしても、あの大きな楯を持った人は“歩道連盟”の人だったんだな。たしか、特級ローカーがリーダーで結構大きめのローカーギルドだったと思う。
ローカーギルドと言うのは、互助会と言った意味合いが強い組織で、ダンジョン庁の公認が無ければ発足できない。作るのが結構難しい組織ではあるけど、その分色々な権限もあって、所属するのは一つの目標とされることも多いらしい。
まぁ俺みたいな戦闘スキル無しのローカーには関係のない話だ。昔は非戦闘系に特化したギルドもあったそうだけど、今は全て企業に吸収されて消滅している。魚釣り系のギルドの話は、サカナさんからよく聞いた覚えがあるな。
「荒れてるなぁ」
怒られて虎さんが火を吐かなくなったので、重い頭の上のバックパックを背中に戻す。するとサカナおじさんがタオルでバックパックを叩いてくれる。焦げてないといいけど。
「まったく、若いもんは元氣だねぇ? ウヅラが木っ端みじんだ」
「あー……もったいなぁ」
特級に上級に中級と、より取り見取りの火力で木っ端みじんになるウズラ一匹の値段は、だいたい3円から5円くらい、戦闘スキルがあれば簡単に倒せるのでとてもお金になる。しかも体内からはダンジョンエネルギーの結晶が出てくるのだが、それは一番小さな豆結晶でも30円するので、ラディッシュとはくらべものにもならない。
だが、十中八九ミンチや消し炭になっているウヅラは結晶も同様の道を辿っているだろう。大変勿体ないけど、そんな事言っている暇がないほど、今も草むらや蔦の壁の中からウヅラが飛び出して来ている。
「だな、それにこれだけ暴れた後じゃ魚釣れるかわからんぞ」
「やっぱりそうなの?」
緑色してるもんな、何か動く影は見えてるけど、それが何かは解らない。
「ああ、ダンジョンの川底は深いからな、しばらく上がって来なくなるかもしれん」
確かに、魚もこれだけ騒がしくして居たら水底へ避難してしまうよね。
「へぇ……ん?」
視界の端に、何かカクカクしたものが見えてそちらに首を回す。
「お? 宇宙軍の白兵戦部隊が来なすった。こりゃサクッと終わるな」
宇宙軍である。
「……軍が出たって事は、事態はよくないのか」
移民船 “フジ” 唯一の軍隊である宇宙軍。一応自衛隊組織の一部門? ってことだけど、地球を離れて活動する組織として、色々法的根拠が云々で、軍と呼んでいるらしい。そんな軍人が出てくるという事は、あまり良い状況ではないだろう。
個人レベルでは軍人よりローカーの方が強いまであるけど、集団戦では軍の方が何枚も上手だと思う。特にウヅラ相手であれば、ローカーのスキルは過剰である。それに比べて軍なら人数も多いし、ウヅラに合わせた兵装を持ってくればいいだけだ。
「どうだろうな、まぁすぐ終わってくれりゃワシとしては問題なしだ」
おじさんが言うように、軍が出て来たからすぐ終わりそうだけど、ダンジョン庁が軍に出動要請するというのは、大変珍しい。普段からいがみ合うとまではいかないけど、それなりに牽制し合っているはずだからだ。これ以上何も無ければいいけどな。
いかがでしたでしょうか?
日本宇宙軍、宇宙が付くだけで何かロマンがありますよね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




