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ミチアナ  作者: Hekuto


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10/15

第10話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「二層は思ってたより静かだな……蔦でまわりの状況が全然わからないけど」


 じわじわとであるが、目に見えて枯れていく蔦の壁を見上げる。


 耳に入ってくる乾いた葉擦れのような音は、急激に枯れてしぼんでいる蔦の音だ。見上げれば空が小さく感じるほどの蔦の壁、足元をに目を向ければ焦げた地面、この辺りは強力な火のスキルで焼き払ってできた道のようである。


 道と行っても獣道なんてレベルでは無く、車両がすれ違う事が出来るくらいに広い。これで蔦が真っ白なら、いつか見た日本の豪雪地帯の道ようだ。実際に見たことは当然だがないけど、一度だけ施設のVRで見た気がした。


「お、ラディッシュの芽だ」


 緑の壁と焼け焦げた地面の境目に希望が見え隠れしている。草をかき分ければ、もう少しで収穫出来るところまでいきそうなラディッシュの葉が焦げていた。たぶん買取り値は下がるだろうが、草を奥までかき分ければ綺麗なラディッシュも出てきそうだ。


「これならすぐにラディッシュ祭りが始まりそうだな」


 だいたいパニック後は一斉に植生が快復するので、今日は無理に採取しない方が良いかもしれない。まぁ収穫できるようなラディッシュを見つければ、ご飯のために少しは収穫するわけだけど、なんだったらいつもと違う状況だけあって、変わった野菜がみつかるかも。


「もう少し高い野菜か、楽しみだな」


 大根、人参、玉葱、ベリー系も、もっと深い場所に行かないと生えてないようなものも見つかるかもしれない。そう思うと少しだけ歩みが軽くなった気がする。


「……そうか、豊作だと今のボーナス報酬が無くなるかもしれないのか、それはそれで……うーん?」


 今は買い取りの時に少しだけ割増しで買い取ってもらっているわけだけど、それは需要に対して供給が追い付いてないからで、豊作になった場合供給過多で逆に安くなる可能性もある。とは言え、最近のラディッシュ不足はババアの所為だと思うので、あれがどうにかされるまでは野菜の稼ぎ時は続くだろう。


 痛し痒しと言うか、俺たちの買い取り価格の時点で割り増しが発生してるんだから、市場の価格はもっとすごいことになってるだろうし、何か手は打つと思うんだよな。


「ちゃんと生えてるな」


 第一ラディッシュ発見である。しかも枯れた蔦をかき分けた先で群生していた。少し煤けている様に感じるけど二層だけあって質は良さそうだ。やはり階層を一つ降りるだけでも品質は目に見えて変わるな。


 ツタの中に上半身を入れたまま作業すること数分、数束のラディッシュを袋に仕舞うと頭上から音が聞こえて来る。


「ん? ドローン?」


 音はたぶんドローンだけど、何かすごい音がしてくるので、蔦の壁から出て少し離れると空を見上げた。


「凄い量だな」


 異常な数のドローンが空を飛んでいる。しかも一種類じゃなく複数種類、特に目立つのは大型のドローンだけど、あれは輸送用のドローンじゃない。明らかにドローンの下部に武装が施されている……攻撃用ドローンだ。


 さっき見たばかりの白兵戦隊が持っていた、大きな銃を彷彿とするカバーがされた銃なので、エネルギー弾タイプかもしれない。大きいせいか、近くでモーター音が聞こえてくるようだ。


「うお!?」


 ちげえ!? 真後ろにドローンが居たからモーター音が大きかったんだ。


 振り向いた先に居たのは静穏タイプの小型監視ドローン。空を見上げると目が合ういつものドローンである。とは言え、いくら見慣れているからと真後ろでホバリングされて驚かないわけがない。何かカメラの横の光がカラフルに瞬いてるけど、こんな目の前でじっくりカメラを向けられるなんて初めての経験だ。


 なんだろう……。


<……一般ローカーと確認>


「え、一般? 一般だけど、何かあったのかな?」


 聞いて答えてくれるのか分からないけど、思わず聞き返してしまってもしょうがない。それくらいに驚いてるし、驚きすぎて心臓が痛いくらいドキドキ言っている。どう考えでもこの脈拍は心臓に悪いやつだ。


 ホラー物を見た時に近い感覚である。


<ターゲットの接近を確認>


「え?」


 ターゲット? 俺の事は一般ローカーと言ってたから俺の事じゃないよな。なら何が? モンスター? モンスターに間違われたとしたら、心外である。


「キエエエエエエアアアアア!!!」


「モンスター!?」


 モンスターだ! てかあれ化物ババアだ!? ええ……いつも以上にモンスターじみている。なんだあの動き、手足を大きく広げた四つん這いの姿でなんであんな素早く動けるんだ。四足の獣……いやクモか何か虫のような動きだ。


 ツタの壁から飛び出してきたかと思えばまた飛び込み、飛び込んだ先で悲鳴が上がると数人のローカーが飛び出してくる。どうやら蔦の中に入っていたパーティのようだが、ババアに驚いてひらけた場所に逃げ出したみたいだ。


 そりゃ驚くよな。


「ドケエエエエエエエエエ!!」


「モンスターババアだ!?」


「誰がババアだあああ!!」


 そっちなんだ。


 枯れた蔦の壁を一瞬で切り裂いて飛び出してくる姿はどう見てもモンスター、そしてシワシワの見た目はババアである。


 そっと蔦の影に隠れたけど、あまり意味はないかもしれない。蔦を薙ぎ払う勢いで何人かのローカーが吹っ飛ばされている。割と周囲にも俺と同じように二層に降りて来たローカーが居たようだ。蔦が多過ぎて気が付かなかったけど、やっぱり迷子が怖いし、みんなひらけた道の近くに集まるよね。


「げっ……」


 やべぇこっちに近付いてきた……地面の匂いを嗅いでいる? まさか匂いでラディッシュの位置を? やばい、今足元にはラディッシュの群生地がある。逃げるか? いやしかし、動物の前で急に動くのは危険だと、何かの番組で見た気も……どうしたら。


<警告、低級ローカー “金子 コヅル” 直ちに出頭しなさい>


<あなたは7件の法令に反し、また82件の被害届が出されています>


<これ以上の逃走はより重い罰が課せられます>


<直ちにローカー支援事務局、または最寄りの警察署に出頭しなさい>


 おお、ドローンがババアを囲んで一斉に警告を発し始めた。そのおかげでババアの動きが止まった。てか被害届の量よ……。


 ん? ババアに跳ね飛ばされた男性の仲間が救助に向かっている。半数は逃げてしまったけど、チャンスは今しかない。


「うるうせえんだよばあああかあああ!! あたしはアンチエイジングでいそがしいんだあああ!!!」


「え? それでラディッシュを根こそぎ? いや無理だろ」


 は? 流石に無理だろ、アンチエイジングって、いやいや、は? 流石にラディッシュだけで若返るって誤差なんじゃないか? もっと良いものいくらでもあるだろうに……タダだからか? いや、でも効果は―――。


「むりじゃねええ!!」


「ひぇ」


 やべぇ聞こえてた!? こっち来た!! 殺される。


「見ろこの目じり!! 皺が二本消えたんだ……わかがえってるんだああああああ!!!」


「こわいこわいこわい! こっちくんな!?」


 うおおおおお!? 全力で後退ってるのに鼻先から皺くちゃ顔が離れねぇ!? いま止まったら事故っちまう! 事故ってファーストなチッスがピンチで窮地だよ。窮地に一生なんてレベルじゃねぇ尊厳が、俺の尊厳がががが。


<一般ローカーへの危害を確認、現行犯で捕縛します>


<捕縛します>


<捕縛します>


≪捕縛します≫


「うえぃ!?」


 ドローンの声が聞こえたかと思ったら体が宙を舞っていた。いや、体がドローンの大型アームで固定されて持ち上げられている。どうやら助かったみたいだけど、宙ぶらりんの状態でマイサンがキュンってなってる。


 これが……恋?


「な、なんだいこれは?」


 そんなどうでもいい事を考えているうちに地上が大変なことになっていた。何が大変て、ババアの四方を大型の武装ドローンが囲んでいるのだ。しかも半人型タイプでさっき飛んでいた完全飛行型と違う。


 要はドローンに手が生えているのタイプで、なんとこのタイプは近接戦闘が可能と言う高性能機、ダンジョンでも滅多に見ない治安維持なんかで大活躍……良く見たら警察のマークがついてる。


<スタンロッド展開、突撃!!>


 右手首から飛び出すスタンロッド、そしてそのロッドを掴む人の手と変わらないマニピュレーター、掴んだ瞬間ロッドが伸びて紫電が飛び散る。左手には丸く透明な盾、完全に警察装備のドローン版だ。


 重力制御駆動と言う高性能なドローンは、自由に振り回せる腕を振り上げ、


「ひぃ!? ウビュアエエエエエエエエ!!?」


「う、うぅわぁぁ……容赦ねぇ」


 一斉にババアへとスタンロッドを突き刺す。汚い悲鳴が響き渡った。


「ギュビョビョビョビョ!? ンベベベベベベ!!?」


 刺すと言ってもロッドの先端は丸いので、刺さりはしないけど力いっぱい押し付けているからか腹やら胸やらケツやら顔にめり込んでいる。


 一般人相手にこれならだいぶ問題だけど低級とは言え中級も倒せるよな化物ローカー、それだけ強ければどんなに攻撃特化なローカーでも耐久性は一般人の比ではない。あのくらいやらないと、多分無力化は難しいだろう。


 それにしても、何か私怨すら感じる捕縛劇である。


「アババババババ!?」





「恐ろしいものを見てしまった……」


 その場に居合わせた誰しもが動きを止め、何も言えずにその場でドローンとババアの姿を眺め続けた。


 その後、大型ドローンで海苔巻き運送されるババアを見送った俺達は、奇妙な連帯感のような、いや……共通の恐怖体験による何かを得た気がした。怪我をした男性ローカーを起き上らせるのを手伝い、礼を言われ、帰るという彼らを見送る時まで、俺達は同じ表情を浮かべ続けていた気がする。


「あのドローンの制御って、受付さんと一緒のAIなんだよな」


 あのいつもにこやかに心配してくれるAIさんが、あれをやったのである。統括型である以上、その行動ルーチンは同じである。そして警察のドローンもダンジョン内でよく見るドローンも、その制御AIは同じである。正確には違うらしいけど、常に情報の統合と並列化が行われているので、戦闘時の行動は変わらない。


 考えれば考えるほどに恐ろしくなる。もしアレが、俺だったら……そう考えてしまう。


「いや、普通に……普通に接していれば問題ないはず」


 大丈夫だと言う俺と、まかり間違ってアウト判定された日には、そう囁く俺が頭の中で頭を抱え合っている。


「よし、気持ちを入れ替えてラディッシュを探そう」


 十分くらい深呼吸していただろうか、座るのにちょうどいい岩から立ち上がると、抱えられて乱れた髪の毛を手櫛で後ろに掻き上げる。


 へにょりと力なく前髪が垂れ下がった。いつもと変わらない髪質だけど、なんだか今の自分の心を表している様で鬱陶しい。


「とりあえず、湧水池を目指す方向で……ん?」


 くせ毛で顔のラインに沿って流れる前髪を指先で払った瞬間、視界の端で緑色が揺れた。


「ピヨ……ピ?」


「……あ」


 緑で小さくて丸っこいそれは、可愛らしい声で鳴きながら焼き払われた大地に飛び降りる。どこから現れたのか分からないが、視線が合った瞬間、時が止まった気がした。


 恋に落ちる音はしない。



 いかがでしたでしょうか?


 目と目があった時、恋がはじまぁ……?


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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