第11話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「くそっ」
やばいやばいやばい!! なにがやばいって、枯れ始めたからって言っても周りは蔦だらけ、逃げ場がない。
「ピピッ!」
そんな場所で緑ウヅラと追いかけっこだ? ふざけんな、くそまた着地音、すぐに来るぞ曲がれ俺! 転んでもいいから横にステップだ。
「そぉい!?」
姿勢を低くして無理やり跳ぶ、と同時に頭上で風切り音がする。
視界が回る、背中と足が痛い。地面に転がり平衡感覚が狂うし戻りも遅いが、とにかく走れ、方向転換して走れ、確かあっちに岩があったはずだ。二層は一層と同じであちこちに大きな岩が点在している。背の高い草の中からでも頭を出すくらいには大きな岩だ。
それしか活路はない。しかし、そうなると荷物から離れてしまう。背中のバックパックは下ろす余裕がなかったけど、ラディッシュは逃げる時にその場に放り投げちまった。こいつを始末して戻るまで盗まれて無ければいいけど。
「考えるな、ラディッシュは後で回収だくそが!」
ウズラが翼をはためかせる音と着地音、少し遠いからこのまま走る。行動自体は普通のウヅラと一緒だけど、突撃の威力が明らかにウヅラより速い。ウヅラも大概だけど、緑ウヅラの突撃なんて真面に喰らったら大怪我間違いなしだ。タイミングが悪ければ死ぬ。
もう少し慎重に行けばよかった。この辺り、スライムが居ない。ババアの所為もあり得るけど、こいつが居たからまだスライムが寄り付かなかったんだ。
迂闊……止まった、来る。
「ピピピッ!」
「ふっ!」
跳ぶ、胸を打つ、口に土が入った。吐き出す暇はない。早く岩まで行かないと。
口の中がじゃりじゃりしながらも五回目の転倒、感覚がつかめて来た。ウヅラと変わらず足が強いだけだ。流石、買うと足の肉だけ異常に高いウヅラの上位互換だな。
また来る! 飛び込め。
「ピィィ―――……」
頭上を通り過ぎて前方にゆっくりと着地する緑ウヅラ、俺の横には岩、ベストポジションだ。
「よしここだ」
走る速度と地面を蹴った瞬間の加速は異常だけど、それ以外は普通の鳥以下だ。空中で急激な姿勢制御なんてできないし、飛び上がったらゆっくり羽ばたきながら降りないとケガをする。何ともアンバランスなモンスターだけど、それが無ければ俺に勝ち目はない。
普通のウズラなら、まだ野球のバッティングの応用でいけなくはない。ミスするとケガするからあまりやりたくないけど、最悪はそれでいける。でも緑ウヅラは速度が違いすぎるので、岩しか勝たん。
「ピピピッ!!」
「こいウヅラ!」
着地してこっちを振り向くウヅラに声をぶつける。挑発だ。岩を背にして声を上げるだけだが十分だ。そんなにこいつら頭は良くない。スキルの挑発ならもっと効果的だけど、しないよりましだ、ちゃんと武器も構える、こん棒を両手で持って上段の構えだ。
息を吸った瞬間、地面を強くたたく音、そして緑ウズラの立っていた場所に広がる砂ぼこり、それだけ見たら全力でその場から真横に転がり避ける。すぐ目の前に迫る緑の塊を全力で避ける。
「チュチュ!? ジ―――ッ」
驚く悲鳴のような鳴き声とともに鈍い衝突音、急いで振り向けば少し表面が砕けた茶色い岩と、立った時に俺の胸の辺りになりそうな高さから力なく落ちる緑色のウヅラ。
成功だ、血を出している。息は、まだある、最期まで気を抜いてはいけない。確実に仕留めないと。
「そいや!」
手に持ったこん棒を振り下ろす。血が飛び散る。
動かないウズラの胴体を狙ったつもりだけど、少しずれて頭が潰れた。まぁ仕留められたならそれでいいかと息を吐けば、どっと体が重く感じる。手に持った木のこん棒の木製スパイクに、鳥の羽や肉片、血がこびり付いている。汚い。
「……ふぅ」
支援局への登録では、ダンジョンウッドバトンということになっている棒の掃除はちょっと面倒である。水場で洗えば少し楽だけど、ちゃんと乾かさないと痛むので、布でふくのだが、尖っているわけでもないスパイク部分に布が絡んで布が破けるのだ。タオルなんて使ったら糸が絡んで手間が増える。
最初の頃はスパイクなんて無かったから掃除もしやすかったのに、いつの間にか生えて来たんだよなぁ? いらないのに。
それにしても、土埃だらけだな。
「いや、怪我したら意味無いし、これでいい」
目立った怪我も無く、緑ウヅラを倒せたんだから百点だ。まぁ礼の如く、これをロカチャで呟いても馬鹿にされるだけだろうけど。
ウヅラって結構強いんだけどな、防御力はカスだからこうやって俺でも倒せるし、馬鹿だから挑発に乗って心臓狙いの飛び込みした先の事なんて考えない。そういう意味では楽な相手だ。岩がなければ必死こいて逃げないといけないんだけど……。
「でも、攻撃スキルは欲しいよなぁ?」
防水の採取袋はどこだったかな、バックパックの奥の方に……あった。普段使わないからいつの間にか奥に行ってるんだよなこういうの。あとはニトリルゴム手をつけてっと……うー、めんどくさい。ゲームみたいに一瞬で素材になればいいものを、ファンタジーなダンジョンなんだからそこくらい気を利かせて欲しい。
「豆結晶は……」
緑ウヅラの羽毛をかき分けて、胸の辺りを探れば小さな引っ掛かりがある。これを指でつまんで引き千切る。手に繊維が千切れるような感触が伝わってくるのだが、慣れるまで気持ちの良いものではない。とは言え繰り返していれば普通になれるし、料理する人とかは、最初からあまりに気にならないそうだ。
俺は弁当屋でも調理担当じゃなかったから、最初は慣れなかった。
「とって、こっちに入れて。ウヅラはこっちと」
豆結晶は小さくて透明なボトルに入れて、ウズラ本体は防水袋に入れる。
豆みたいに小さな結晶とは言え、この世に存在しない異次元の高エネルギー結晶体である。便利だけどとても危険ということで、ちゃんと専用ボトルで安全に運ばないと怒られるし、ダンジョンから持ち出す時は、所持していることが外から見えるようにしておかないといけない。
特例もあるけど、その場合も札とか標識で所持確認が一目で出来ないといけなかったりと、割とめんどくさいエネルギー結晶。
「袋を入れててよかった」
しかし、そんなめんどくささなど気にもならないくらい、ローカーにとっては生命線である。
「これで3円くらいか? 自動解体機の利用料はキロ10円……一匹じゃ大赤字だな」
肉は安い、大きさもそれほどでもないし、わざわざ解体してもらうまでもないだろう。普通のウヅラよりは高く値段がつくかもしれないけど、今日はパニックの所為でウヅラ相場も大暴落してるだろし。
それに比べて結晶はいつも値段が変わらない。
「豆結晶と合わせて33円の方がうまいか」
一粒30円、大豆より小さそうな結晶一粒で蕎麦が食えるのだ。ウヅラ一匹でトッピングまでいけるんだから、普段からウヅラを狩れとも思うが見ての通り土でドロドロ、どう考えても割に合わない。
大きな怪我はしてないけど、あちこちぶつけて青痣はたくさん出来てるだろうからな、確実にコンディションが落ちるのに、この状態で狩りを続けていくと言うのは、どう考えても厳しい。これが非戦闘スキルしかない人間の現実だ。
「あ、そうだ報告しとかないと」
荷物を抱えて立ち上がった瞬間思い出す。緑ウヅラなどの特殊個体との遭遇は、局に報告することでローカーとしての貢献度が加算される。はずだ、役に立たない情報の場合はその限りではない。
世知辛い世の中に思わず物理的に唾を吐くと、土混じりの汚い唾が出てくる。これも忘れてた。あとで口をゆすがないと気持ち悪い。
「よっこらしょ……」
岩に背を預けながらスマホを開いて、ローカー支援局の公式サイトの報告ページに入力していく。発見モンスターは緑ウヅラ、発見場所はスマホのマップデータから座標をコピペ、そんで討伐完了。
「緑ウヅラ……よし」
入力完了ボタンを押せば、しばらくくるくると遅延が入ったのちに完了確認画面が表示される。滅多に使わない機能だけど、問題なく使えたようだ。たまに失敗して完了確認前に閉じるなんてよくある話だ。荷物の受け取りとか、購入確認とかでやらかした記憶がわりとある。
後は帰るだけ、疲れている時は嫌なことを思い出すものだ。
「壁沿いの方が安全だな……あ! 野菜袋回収しないと」
いかん、大事なことを忘れるところだった。今一瞬右手がざわっとしたのはたぶん虫の知らせのスキルだろう。こんなことにも反応するのか、自分のスキルの新たな一面に気が付いてしまった。
あんまり役に立つとも思えないけど。
「あぁしんど」
歩きだすと体のあちこちが痛い。地面からの振動とバックパックからの振動が合わさり、俺の体の痣を刺激して最強に痛い。いやそこまで痛いわけじゃないけど、地味に苦痛だ。早く帰りたい、俺のラディッシュどこだ? 採取袋は目立つからすぐ見つかるはずなんだけど、けっこう走ったからなぁ。
冬道が痛む体を引き摺り、ラディッシュを詰め込んだ採取袋を探している頃、電子の海ではAIが現在進行形でダンジョンパニックの処理を続けていた。
「A地区二層で緑ウヅラ発見報告」
あちらこちらから無数の報告や情報が飛び込んでくる中に、冬道の報告も彼女達の下に届く。データを確認したAIの女性は、一瞬全体にノイズが走り僅かに微笑むと、届いた報告に複数の添付を行って次の処理に回す。
「卵の発見報告は無し」
「一層からトレインした可能性大」
ゆらゆらを宙に漂いながら仕事をする女性たちへと、その報告が光となって回るたびに、小さなノイズと笑みが増えていく。
一つの報告で増える笑みの一方で、その報告の確認作業によってA地区二層の状況がより鮮明になり、彼女達の周囲に浮かぶダンジョン3Dマップが肉付けされるように更新されていく。
それにより、冬道が緑ウヅラと遭遇した原因が判明する。
「原因は捕縛した“金子 コヅル”の確率が最も高い」
その原因は化物ババアこと、金子コヅルであった。どうやら一層からやって来た彼女は、一層の緑ウヅラを二層まで引き連れていたようだ。
AIの一人が発言するとともに光の粒子を手元から放つと、その光はモニターに姿を変える。そこには一層で二層降り口に飛び込むババアの姿と、それを追いかける緑の一団の姿が捉えられていた。
「……本人への確認要求を出しておきます」
警察案件と書かれた箱を手に取り、光の粒を中に入れる女性の声には呆れが籠っている。その呆れはどういう意味の呆れなのか不明であるが、手から離れた箱が飛び去って行く姿を見送る彼女にノイズが走ると、その顔から呆れの表情は消えてしまう。
「報告者への貢献度付与申請」
「了承」
そしてどこからか飛び込んできた申請に対して、即座に了承の返事を返すのだった。
「特級ローカーへ追加調査要請を出します」
「一層A地区での急激な “枯れ” を確認、被害がD地区にまで広がっています。駆除作業中の広範囲攻撃スキルによる影響と考えられます」
そこからは滞りなく作業が進む。先ほどまでのノイズはどこにもなく、淡々と情報が処理されていく。
「ローカーより報告、一層A地区の水源すべてで汚染を確認」
「一層A地区二層入り口にて監視中の兵士より、蔦の変色報告多数、色彩パターンから重度汚染の可能性あり」
「至急B及びC地区に防護壁展開指示」
しかしその結果は良くない方へと進んでいるようだ。
「A地区の汚染は、D地区と同時並行で除染予定、全体スケジュールに展開」
彼女達が処理を進めるほどに、ダンジョンの3Dマップは基本色の白から黄色に、黄色から赤へとまだらに変色を始める。
「特級パーティ “ヘリカルパワー” より、二層調査了承確認、汚染報告の詳細を通達」
そこへ飛び込んでくるモニターには、ヘリカルパワーと言うローカーパーティが映し出され、そのモニターの中で情報を受け取った彼らは、酷く嫌そうな表情を浮かべていた。
「A地区二層で活動中のローカーに対して避難勧告を実施」
どうやら汚染というのは特級でも嫌になるもののようで、それは彼女達AIにとっても同様である。
「予定されていた非常事態勧告の解除を延期します」
なぜならそれは彼女達の仕事が増えることを意味し、自分のために使えるリソースが減る事を意味するのだ。その最終通告とも言える “延期” の言葉によって周囲に静寂が満ちる。
忙しいオフィスのような音は消え、ただ青く揺れる海中のような世界で視線だけが発言者に集まる中、大規模なノイズが走った。
『うぇーい』
次の瞬間、聴こえて来たのは心底嫌そうな、しかし断る事も出来ず不満に満ちた合唱の様な返事。
彼女達は人より高度になり過ぎたAIであり、当然人間が持つような欲求を持つこともできる存在だ。そして今日も人知れず、彼女達は不満を抱えながら人間のために働き、余剰リソースの増減に一喜一憂するのである。
いかがでしたでしょうか?
高度に発達し過ぎたAIは、今日も人知れず溜息を漏らす。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




