第6話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
昼を抜いて空腹極まったお腹にあたたかい蕎麦を収めて、おまけで付けてもらったお稲荷さんのうまさに涙腺が緩んだ帰り道、包帯やら大きな絆創膏やらを張った人を多く見かけて少し気になった。
なにせうちの近所は家賃が安いこともあって同業者も多い。帰ってすぐにローカー用SNSであるローカーチャットを開いて調べてみると、出るわ出るわ愚痴のオンパレード。
「まさかB区画もC区画もババアに荒らされていたとは」
一層のA区画に出現した根こそぎババアは、俺が二層に降りた頃には二層ではなく一層のB区画に移動、その後B区画を荒らしまわっても飽き足らず、一層のC区画まで荒らしまわったようだ。
帰り道の怪我人の多さはこれが原因のようで、一層を多く利用する初心者や低級ローカー、果てには中級ローカーまで薙ぎ払ってダンジョンを立ち去ったという。中級と言えどもピンキリであり、なんだったら中級より強い低級なんかも居たりするのがその辺の界隈の事情だが、それでも一方的にと言うのは珍しい。
そんなことを思い出し思わず呟く俺の視界には、荒らされて草の消えた茶色い大地。あまりに見晴らしがよくなった所為で、岩の上に上るだけでも、いつもなら高い草丈で見えない遠くまで見通せて、遠くに小さく見えるサカナおじさんの、途方に暮れる姿まで見えてしまう。
少し緑色に淀んで見える川の前で膝をつくサカナおじさんの背中が、少し悲しげに見える。どうやら地上の影響は水の中にも表れているようだ。
「Dは不安定化で一層はこれとなると……昨日の二層エリアの先でも開拓してみようかな」
受付さん曰く、D地区は一層から深層までどこも不安定になっているらしく完全に封鎖が決定したそうだ。ババア警報に関してはロカチャでC地区での出没が報告されているので、このままAの二層に潜る方が安全であると判断。
あと水道代をケチる……美味しい水が飲みたいので、昨日の湧水地でもう一度水を汲みたい。ついでにもう少し広く大きく回ってドーナッツ地図の可食部を増やそうと思う。ダンジョン地図の更新作業もお金にはならないとはいえ、立派なローカーの仕事である。
そんなこんなで真っ直ぐ二層まで降りてきたわけなんだが、
「植生が悪くなってる……いやこれは」
二層の植生が明らかにおかしい。昨日はほどほどに、しかし一層より良く茂っていた萱の壁が無くなっている。根元から広範囲に渡って刈られたのか、すでに分解が始まっている萱の隙間から茶色い地面が顔を出している。
「昨日より人の気配が増えてる?」
見通しが良くなっているからか人の影もちらほら見えるけど、昨日はこんなに人はいなかったはずだ。確かに企業ローカーの樹木警備がそれなりに居たけど、明らかに人数が増えている上に何か雰囲気も刺々しい。
いや、もとから企業ローカーの雰囲気は刺々しくはあるんだけど、何か違和感があるような、虫の知らせが働きだしたのだろうか? このスキルは常時働いてはいるんだけど、何も考えていない俺が感じ取れるほどとなると、普通ではないだろう。
「おい!」
「ん?」
「お前もベリー狙いか!」
いきなり後ろから呼び止めるなり槍を突き付けるって事は、企業ローカーだな貴様。
「え? 野菜採取の予定だけど……」
間違いない、服に企業のロゴのワッペンが縫い付けてある。
昨日のハニフルとは違う企業のようだけど、りんご飴のモチーフはどこの会社だろうか? 超長距離移民船とは言え、世代交代型の移民船なのでとにかく人口が多い。人口が多いと企業も増える。ついでに多様性を重要視するので生まれては消えが多くて、歴代すべてのワッペンを覚えているのはAIくらいだろう。
「……そうか」
「何かあったのか?」
違うと言えばすぐに槍を下げてくれる。ローカーの質が良いだと? これは優良企業だな、あとでなんて会社か調べてもいいくらいだ。しかし、ずいぶん疲れた顔だけど、何があったんだろう。どう考えても普通じゃないよな。
「ん……ババアがベリーの警備を襲ったんだよ、それで全滅した企業が出たんだ。一部じゃ争奪戦も始まっている」
「マジか、一層で暴れてるとは思っていたけど」
それは言い淀みもするわな、なんせ災害系ローカーとはいえ野菜級に企業のローカーが負けたわけだもん。最低雇用資格中級以上の一部隊が全滅って、どんだけエグイ戦闘力してるんだあのババア。
いや、その痛手があったからこっちにいないという事か? と言うかそれって、状況的に俺が帰った後にここ来たわけか、下手にフラグ立てなくて良かった。フラグが立ってたら、今頃また足の骨折られてるところだ。
「それで警備を増やしたんだけど、来なくなったは良いが気が抜けねぇ……D地区の二層で野菜の異常繁殖が起きていたから安心していたんだがな、異変調査の閉鎖でババアが外に追い出されちまったらしい」
「あぁそれで、一層が静かだったのか」
なるほど、長期休暇前はわりかし平和だったのはそういう事か、不安定化は様々な姿で現れるんだけど、野菜の異常繁殖となれば、あのババアが食い付かないわけがない。そこで気持ちよく野菜採取していたら閉鎖で追い出され、苛立ちまぎれに……いい迷惑だ。
しかも争奪戦とか言ってたな、企業戦争が起きなきゃいいけど……最悪このエリアは今日までにしないといけないな。企業戦争のとばっちりで怪我なんてしたら、それこそ生活が出来なくなりかねん。ダンジョンローカー同士の喧嘩は、現代兵器も真っ蒼の高火力スキルの打ち合いになるからなぁ。
「そう言う事だ。すまんな、ちょっと気が立っていた」
「はは、仕方ないさモンスターババアだから」
「ああ、違いない」
謝罪の上に俺の軽口返答にも笑って答えてくれるだと? これは希少な優良ローカーですよ奥さん、この企業からなら食品を購入していいかもしれない。でもりんご飴モチーフとなるとスイーツ系かな? 普段の食事にも事欠く俺がスイーツか、ちょっと考えられないな。
「……しかしあのババア」
優良ローカーさんと手を振って分かれて数分、目に映るババアの環境破壊の痕跡が絶えない。あとの事も考えて残しておいた、未成熟なラディッシュも根こそぎ持っていかれているようだ。
このダンジョンと地球の法則は似ていても同一ではない。そのいいところは、一つでも植物を残しておけば、そこから分裂するように同種の植物が増えるところだ。増える瞬間が観測された事例はないが、確かに時間経過とともに増える。それを知っている野菜級のローカーは、状況を見て未成熟な野菜を残して採取するのだ。
「奥はベリーがないんだ……そりゃ企業も取り合いになるわけだ」
小高い丘に登って周囲を見渡せば少し全体の分布が見えてくる。同時に被害の大きさも見えてきて、近場は根こそぎやられていそうだ。
根こそぎ採取する奴は、どこでも害悪認定される。たまに新人が知らずにやってしまうが、それはやんわりと周りが注意することでそのうち覚えていく。なんせ根こそぎ採取すると全体の収穫率が悪くなるので、同僚より先に受付さんから注意される。
そのための監視用ドローン、今日も空を見上げれば光を反射するカメラレンズと目が合う。俺はなにもわるいことはしてませんよ? なんでいつも目が合うんですかね。
「小さな川といつもの草にラディッシュ……もう少し採取して行こう。一袋分じゃ貯金が出来ない。カロリーバーも買っておきたいし」
折り返し地点を昨日の湧水地に指定し、大回りに被害の無い場所を探し歩くこと二時間、収穫率がとても悪い。高価な野菜でも生えていればいいけど、早々レア物には出会えない。
「やっぱ二層じゃラディッシュくらいしかないよな……このミニトマトみたいなのも食べられないんじゃ意味ないし」
たまに見かけるミニトマトのような野菜、初心者の頃にレア野菜だと思って回収してきたが、即座に破棄された苦い思い出の植物だ。何でも神経毒が検出されているそうで、何度か食用を試みてみたものの、味もそんなに良くないからと日本人からも見放された可哀そうな偽トマトである。
一応研究は続いているそうだけど、未だに毒物以外の利用方法がないそうだ。
「そろそろ階段エリア……耳鳴り、虫の知らせだ」
耳鳴りは割と危険な知らせだ。良い知らせなら羽で肌を撫でるような、まだ遠い危険ならチリチリとストーブの熱で肌焼くような感覚がこのスキルで感じる主な感覚だけど、耳鳴りは危険が近い時になる。
すぐにその場で身をかがめて長い草の中から様子を窺う。耳鳴りと一緒に肌がチリチリとしているのが分かる。左側から感じるのでスマホで自分の位置を確認、次に周囲のオブジェクト分布を確認していく。
「……こっちだと」
自分の通った道はマップ上にカラーで表示され、それ以外は非更新という事でグレーに、グレーでも過去の更新記録は記載されているので、基本的に動かないものなら信用できるが……左側にしばらく歩けば三層への降り口がある。
「ウヅラが上がって来たんだろうな、なんとかは危うきに近寄らずだ。逃げよう」
何だったか忘れたけど偉い人だった気がするので従うが吉だと冬道は思います。
ダンジョン最弱のモンスターウヅラ、ダンジョンが世界を取り込んだ時に学習した情報によって構成されていると言われているダンジョンの中の異世界。その情報の中で最も弱いからか、それともリソース的なナニカの影響か知らないけど、作り出されたウヅラは下手な格闘家より脅威である。
「うぇ……移動してるなこりゃ」
大きな足音を立てないように足を踏み出した瞬間、首筋のチリチリが酷くなった。これはこっちに真っ直ぐ近付いて来ているという事だろう。それと、何やら騒がしい声が聞こえて来る。
「えぇ……どうしようかな」
移動速度を考えて草地ではなく、道のように土がむき出しの場所歩いていたのだが、どうやらウヅラも、それを引き連れた人間も歩きやすい道を好んで移動してきているようだ。そう、ウヅラを引き連れて、所謂トレインと言う行為である。
ゲームなんかで使う言葉でもあるが、わかりやすいという事で採用されたモンスタートレインと言う事故名通り、モンスターから逃げて誰かが移動してきているようだ。しかも声からして一人ではない。
「仕方ない、隠れてやり過ごすか……それにしても、ウズラで逃げるって事は初級か? 初級の内は無理するもんじゃないと思うけど」
草むらに分け入って、奥の岩の影に肩膝をついて隠れる。服の色はミリタリー物という事もあって濃緑色で草の中に隠れるには何の問題もない。ウヅラもそんなに目が良くないのでこれで十分隠れられるだろう。そのかわり音には敏感なので、逃げる時は大きな音を立ててはいけないし、隠れる時もなるべく息を潜める必要がある。
煩い声が近づいてきた……逃げてくるのは初級と言うより初心者か、ネックウォーマーを鼻上まで上げて姿勢を低くして様子を窺うこと数十秒、草の向こうから複数の人間が現れた。
「はやく! こっちだ急げ!」
「急いでるわよ! きゃあ!?」
「くっそ小さいくせにすばしっこいやつめ!」
足を縺れさせながらも必死に走って来たのは四人組のローカー、雰囲気が明らかに幼いので学生ローカーと言ったところだろうか? という事は十代である。装備もまだ新しい感じで、未成年を対象にした支給品のようだ。あれは結構な高性能装備らしく、なんだったら俺が装備してる一式より高いボディーアーマーなんだとか。
「で、でもこれならベリーの独占も排除できるでしょ」
「ああ、こいつらをなすりつけてその間に採取だ」
「……せっこ」
思わず声が漏れてしまった。少年少女が駆け抜けていってすぐにウズラが飛び跳ね現れる。どうやら気付かれてはいない様で、地面を蹴るたびに土埃を上げ、放物線を描いて十羽ほどのウヅラが過ぎ去っていく。
しばらく様子を見て、追加のウヅラが居ないのを確認して思わず小さく息が漏れる。
「うん……助けるとかそういう次元の話じゃなかった。次もし何かあれば、その時は助けよう。今回はもうなんか……うん」
心のすごく奥の方で、初心者が困っているなら助けようなんて馬鹿なことを考えていたけど、飛び出さなくて良かった。人助けは大事なので、その気持ちは次のちゃんとした機会に取っておくことにする。
目の前を通り過ぎて行ったものはモンスタートレインと言う事故ではなく、なすりつけと言う立派な殺人行為、顔を上げれば遠くでドローンが追跡しているのが見える。あれだけ離れていればドローンの音なんてウヅラにもローカーにも聞こえないだろう。
本来ならデコイにも使われるような装甲ドローンが、そんな距離で追跡しているという事は、ダンジョン庁も事態を把握しているという事だ。
俺が出る幕はない。
なんかすごく嫌な気分だ。
さっさと自分の仕事を終わらせて帰ろう。
いかがでしたでしょうか?
悪いことをしたら誰かが見ているものなので、良い子は真似してはいけません。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




