第六話 怪物の街
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食卓には温かそうな料理がいくつか並べられていた。その中には、私の好物のベーコンエッグがあった。母がよく作ってくれていた。
私は目の前の料理を見ながら、思わずマルファスの方を見る。
「これ、全部マルファスが作ったの?」
「ああ、そうだが。それがどうした?」
「いや、なんというか……マルファスって料理できるんだなーって思って。」
「俺がこの世界に来てから、一年ほど経っているんだ。これくらいはできる。」
そう言ってマルファスは何事もなかったかのように料理を食べ始めた。
私も目の前の料理を口に運んでみる。
「おいしい!」
見た目から想像していたよりもずっと美味しかった。久しぶりにちゃんとしたご飯を食べたからなのか、次々と箸が進んでいく。
「そういえば、この食材ってどうしたの?」
「街に残されていたものを持ってきている。人間がいなくなってから時間は経っているが、電気や水道などは今でも使えるからな。」
「そうなんだ……。」
人がいなくなったというのに、電気も水道も当たり前のように使える。
今までなら何も考えずに使っていたものなのに、人が誰もいないこの世界では、それすら少し不思議に感じた。
私たちはその後も少し話をしながらご飯を食べ、気づけばテーブルの上にあった料理はほとんどなくなっていた。
「ごちそうさまでした!」
久しぶりにお腹いっぱいまで食べられた私は、満足しながら椅子にもたれかかった。
「随分食べたな。」
「だって久しぶりのちゃんとしたご飯だったし、それにマルファスの料理、思ってたより美味しかったから。」
「思ってたより、は余計だ。」
「えへへ、ごめんごめん。」
こんなふうに誰かと一緒にご飯を食べたのは、いつぶりだろう。
さっき夢の中で見た、お父さんとお母さんと三人で食卓を囲んでいた頃のことを少し思い出した。
二人は今、どこにいるんだろう。
柚も無事なのかな。
楽しかった気持ちが少しだけ沈んでいく。
そんな私を見て、マルファスが立ち上がった。
「そろそろ行くか。」
「……うん!」
私は椅子から立ち上がり、マルファスと一緒に外へ向かった。
扉を開けると、そこには相変わらず暗い世界が広がっていた。
空を見上げても太陽は見えない。辺りは薄暗く、まるでずっと夜が続いているようだった。
だけど昨日とは違い、今日は少しだけ周りを見る余裕があった。
私はマルファスの後を歩きながら、辺りを見渡した。
「やっぱり……誰もいないんだね。」
店も、家も、道路も残っている。
なのに、そこにいるはずの人だけがいない。
道路には途中で止まったままの車があり、店の中を覗けば商品も残されたままだった。
「小雪。何か気になるものはあるか?」
「ううん……。今のところは何も。でも、やっぱり変だよ。こんなに色々残ってるのに、どうして人だけがいなくなったんだろう。」
「俺にも分からない。だからこそ調べる必要がある。」
「そっか……。お父さんたちの手がかりも見つかるといいな。」
そう言いながら、私は再び歩き始めた。
しばらく街の中を進んでいく。
昨日までなら、暗い道を歩くだけでも怖くて仕方なかった。
もちろん今だって怖い。
またあの怪物が現れるかもしれない。
昨日の戦いで感じた痛みも、怪物から流れ込んできた負の感情も、まだ忘れてはいなかった。
それでも私は進まなくちゃいけない。
お父さんとお母さん、それに柚を見つけるために。
そう思った、その時だった。
「小雪、止まれ。」
突然マルファスが足を止めた。
「え?」
私も立ち止まる。
さっきまで普通に歩いていたマルファスの表情が変わっていた。
「どうしたの……?」
「近くにいる。」
「近くって……まさか。」
その瞬間。
静まり返っていた街の奥から、何かが地面を引きずるような音が聞こえてきた。
私は昨日の出来事を思い出し、体に力が入る。
怖い。
できることなら、もう戦いたくない。
だけど――。
私は自分の持っている仮面に手を伸ばした。
「……怪物。もう負の感情なんかに飲まれたりなんかしないんだから!」
そして私は怪物へと立ち向かった。
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