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四の姫お菓子を作る  作者: 十海 with いーぐる+にゃんシロ
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ちびの一日3


 夕方。

 ちびはぴょこっと干し草の中で耳を立てた。聞きなれた重たい重たい蹄の音が近づいてくる。大好きなにおいがする! もぞもぞと抜け出し、かぱっと口を開けた。


「とーちゃん!」

「お、ちび来てたのか」


 とーちゃん帰ってきた!

 ばさっと飛びつき、ぐりぐりと顔をすり寄せる。


「とーちゃん、とーちゃーん」

「よしよし、いい子だな」


 大きな手が抱きしめて、撫でてくれる。頭や顎の下、背中、羽根のつけねとまんべんなく。

 嬉しい、嬉しい、とーちゃん大好き! 目を細めて、咽をごろごろ鳴らしていると。


「ちびさーん」

「しゃーる!」


 ほっそりした白い手に抱きしめられた。

 銀髪に青緑の瞳のシャルダンは、女神のごとき端正な顔を、とりねこの毛皮に埋めてうっとりご満悦。


 シャルはちびがすき。ちびもシャルがすき。


「ああ、お日様のにおいがする……」

「んっぴゃ!」


 行き交う騎士たちの動きが止まる。

 ふわもこの小動物と乙女(男だが)の組み合わせは、男所帯の騎士団ではどうしたって注目の的になる。


「飯食ってくか、ちび」

「ぴゃあ!」


 とーちゃんの肩に乗っかって、食堂に行く。食べるのはテーブルの下。上には決して乗らないのがお約束。


「ソーセージ食うか?」

「ぴゃあ」

「パイもありますよ、ちびさん」

「ぴぃ!」


 もらったご飯を食べていると、食堂のおばちゃんがやって来た。お皿の上に大きな焼き魚を載せて。


「ちびちゃん。隊長から聞いたわ。ネズミとってくれたんですって?」


 とんっと目の前に魚が置かれる。何て素敵、新鮮なニジマスが丸ごと一匹だ!


「はい、ご褒美」

「ありがとうございます」

「んぴゃーっ」


 目を輝かせてちびはニジマスに飛びかかる。あむあむあぎゅあぎゅ、がつがつ、ごりごり、ぼーりぼり。大きなニジマスがみるみる骨も残さず消えて行く。


「いい食べっぷりですね、ほれぼれします」

「俺は胸焼けがしてきた……」


 シャルはにこにこ、ハインツはげんなり。

 ネズミを捕るとご褒美がもらえる。この条件づけのおかげで、ちびはいっぱしのネズミ捕り名人になりつつあった。


     ※


「気をつけて帰れ。フロウによろしくな」

「ぴゃっ」


 本当はとーちゃんと一緒に寝たいけど、ここは兵舎だから我慢する。さすがにロブたいちょーも、ベッドで一緒に眠るのまでは許してくれないから。

 思いっきり体をすりよせ、とーちゃんのにおいをいっぱい嗅いで。仕上げに鼻をくっつけてちゅーをして、窓から飛び立った。


 金色の瞳をきらめかせ、月の光の中をまっすぐに、夜空を過る影一つ。北へ北へと向い、茅葺き屋根にふわりと降り立った。

 かたんっと窓をくぐりぬけ、薬草香る店の中へと滑り込む。


 ひこっと鼻をうごめかせる。台所からとってもいいにおいがした。梁を伝って歩いて行き、すたんっと飛び降り、足にすり寄る。


「ぴゃっ、ふーろう。ふーろう!」

「おう、お帰り」


 フロウがこっちに笑いかけ、頭を撫でてくれる。


「晩飯できてるぞ」

「ぴゃああ」


 テーブルの下で、ふろうと一緒に夕ご飯。今日の献立は厚切りベーコンと豆とキャベツの煮込み、味付けは塩でシンプルに。茹でたジャガイモとニンジンを添えて、パンは小さめの丸パンを二つずつ。

 料理を並べ終わるとフロウは腰に手を当て、ふっと短く息をついた。


「一人だと、どーしても作るもんが簡単になっちまうなあ」

「ぴゃっ」


 口にスープをくっつけたまま、皿から顔を上げて。赤い口をかぱっと開けて呼びかける。


「うまーい」

「……そうか、美味いか」


 ちびの言葉はとーちゃんの口まねが基本。だからちょっぴりワイルドで、時々ダイナミック。


「今日はどこ行ってきた?」

「にーこーら、えみる、なでゅ?」

「魔法学院か」

「ろぶたいちょー、とーちゃん、しゃる!」

「砦にも行ったのか。そーかそーか」

「ぴぃううう」


 しっぽを高々と上げ、ぴょんっと膝に飛び乗り、得意げな顔をしてらっしゃる。

 ふわふわの絹のような毛皮を撫でた。


「どんな冒険してきたやら……」

「んぴゃっ! んぴゃぴゃっ!」


 ひょいっとのびあがると、ちびはフロウの頬にんちゅうっと鼻先をくっつけるのだった。


「ふろう、すき!」

「ははっ、ありがとさん。俺もだよ」

「ぴゃあ!」


     ※


 今日はいっぱい『お仕事』したから、夜の散歩は省略。フロウと一緒にベッドに入っておやすみなさい。


 本日ちびが食べたのは、朝ご飯、クッキー、サマープディング、クラッカー、ネズミにニジマス、夕ご飯が二回分。

 食べ盛りの一日でした。


(四の姫お菓子を作る/了)

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