大倉 亘 3
ーー現在ーー
全然頭が働かない。
さっき自分が出したカードがどれだったかも思い出せない…。
〝父親に会った……お母さんが、居なくなったって……〟
成真があんな事言うからだ。
「亘君、本当に弱いね!今日!ははっ」
作太が嬉しそうにカードを入れ替える。
しかしこんな嬉しそうな表情の作太、初めて見るな。最初会った頃は表情筋がコンクリートかよってくらい固まってたのに、人って変わるもんなんだな…。
「どうする?ギブ?」
「……」
「え?怒ってる?」
「いや、あいつ行ってないといいけどなって」
「ん?成真君?何処に?」
「親父のとこだよ。あいつは真面目な分、何するかわからないところがあるからな」
「実家に行っちゃまずいの?」
「あれ、そうか、言ってねぇか」
「何を?」
「お前と会ったのは3年前の大会だもんな。……あいつー、何年か前にお母さん亡くしてんだよ」
「…え、でもさっき居なくなったって」
「ああ、亡くなったんだけどー」
―4年前―
「うわっ」
叩かれたドアのスコープを覗くと頭から血を流している人が立っていた。
「絶対ヤバい奴じゃん…、おい、成真の親父さんだろ?」
「血出てる?」
「出てるよ。服も汚れてるぞ」
「…じゃあそうだ」
「そうだじゃねーよっ、やっぱりつけられてんじゃねーかよ!」
“ドンドンドンッ”
「ひっ!」
“おい!ずっとそこに居るつもりか!?”
ドアの向こう側から声が聞こえる。
「おい~やめてくれ~近所迷惑だよ~」
「俺出るよ」と成真が横へ来てドアノブへに手を伸ばした。
「ばかっ!やめろ!」
「だってもうバレてるし」
「何してくるかわかんねーぞ?」
「でも…」
「……いい、俺が出る」
「え?」
「ここは俺んちだ。シラを切り通してやる。お前は奥へ行ってろ」
「そんな、格好つけなくていいんだよ」
「そういうんじゃねーから、いいから行ってろ」
「……わかった」
俺だって大人だ。男だ。長男だ。小学生の頃は相撲の地区大会で優勝した経験だってある人間だぞ。脂肪は多いが力には多少なりとも自信はある。見てみろこのオヤジを。ヒョロヒョロじゃないか。こんなん張り手一発でノックアウトだろ、凶器でも持ってなきゃ。
……凶器?
……刃物、
……ナイフ?
……え~~。
“ドンドンドンッ”
「はぁ、クソッ」
成真が部屋の隅に行ったのを確認し、俺はドアを開けた。
「……なんでしょうか?」
血を流した人間と見つめ合う。
‥‥なんとも不気味だ。
「うちの息子がさっきここに来たと思うんだが」
「息子?」
「成真だ」
「ナル…?いや、そんな人来てないですけど、何かの間違いじゃないですか?」
「そうか…。じゃあこれは何だ?」
「ん?」
視線の先には明らかに自分のとサイズの違う、泥だらけの成真の靴が置いてあった。
「‥‥‥‥」
……隠すのを忘れた。
信じられないミスだ。
ケアレスミスってレベルじゃないミスだ。
頭が真っ白になった。
あんな事を言っておいて数秒でノックアウトされた自分の失態に恥じ入り、次の言葉が出て来ない。
「おい、聞いてるのか?」
「え?あぁ、はい。な、何しに来たんで(すか)」
「成真ぁー!居るんだろ!」
「ち、ちょっと大きな声ださないで下さい!」
「俺が悪かった!」
そう言って成真の親父はその場で急に土下座をし始めた。
「え?」
「すまなかった成真、気が動転してしまった…。俺も自分で何してるのかわからなくなって」
「あの、俺に言われても」
“なんだよ、急に息子とか言って”
後ろから声がした。振り向くと成真は姿を現し遠くを見るような眼差しで親父を見ていた。
「……お母さんが言ったの?あそこに埋めてって」
「……あぁ」と俯きながら親父は答える。
俺は今さらながら耳を塞ぐふりをし、成真の後ろへ下がった。もちろんこの親子の会話が聞こえる範囲まで。
「でもやっぱり、そんな事したらダメだよ。捕まるし…」
「……そうだな、良くないな。掘り返そう。手伝ってくれるか?成真…」
「……」
「一緒に、母さんに謝ろう」
「……」
「そしたら、お前も家を出ていってもいい」
俯いたまま喋るその親父の言葉に俺は少し引っかかった。
ここまでして成真を連れて帰ろうとしていた理由はなんだったのだろうか?母親を掘り返す為か?いや、違うと思う。いざとなれば自分一人でもそれは出来る。一緒にまた住ませる為か?一度殺されかけた人間がまた戻ると思うか?
そんな事を思っていたら成真はゆっくりと靴を履こうとしていた。
「おい成真、どこ行くんだよ」と背中に声をかけた。
「……お母さん掘り返したら、また戻ってくる」
違う、違うぞ成真。その親父はさっきの成真の問いかけで明らかに雰囲気が変わった。そいつは嘘をついているに違いない。
しかし今それを言ったらどうなってしまうのかと恐怖を感じ、俺は何も言葉を出せなかった。そして躊躇している間に靴を履いた成真は親父と去っていってしまった。
「……」
今度は俺が後をつける番か‥‥。




