佐久間 作太 1
結局のところ、僕達はいつもの場所に戻った。
亘君は場に置かれたカードをジッと見つめたまま動かない。
「どうしたの?降参?」
「は?そんな訳ないだろ」
「だって全然動かないじゃん」
「……あの人ちゃんと連れて来るかなって思ってたんだよ」
「あれ?そういえばあの人の名前何だっけ?」
「……聞いてなかったな」
「任せて下さいって言ってたけどどんな作戦でいってるのかな」
「もう信じるしかない。アイテムも持たせたんだ」
「大倉煎餅?それも未知のアイテムだね」
「おいどういう事だよ」
「ねぇやらないの?」
「え?あぁ、やってるよ、考えてるんだよ」
「遅いな~」
「はぁ、使うかじゃあとっておきのー」と言って手持ちカードの中から一枚取り出した亘君は「失敗したら?」と続けて言った僕の言葉にピタッと動きを止めた。
「しねぇよ。お前が持ってないドラゴンだぞ?」
「違うよ、ホワイトドラゴンの方。もし、失敗したらどうする?」
「……。そうだな、約束の時間までに此処へ来なかったらー、例のアイテム持って俺が行く」
亘君の鞄に目がいった。そんな小さな、しかも使った事も無いであろうアイテムでどうにかなるとは思えない。第一、亘君は絶対的に足が遅い‥‥はず。例え上手く出れても捕まって奪われてゲームオーバーだ。
「お前は何かあったら直ぐ警察に通報出来る様にな」
けど何処からか湧いてくるこの亘君の正義感はなんだか安心する。
「今しちゃってもいいんじゃない?」
「まだだ。丸く収まるなら通報しない方がいい。成真の為にも」
「丸くって、既に人が埋まってるんでしょ?」
そう言ってふと周りを見ると他のプレイヤーやゲームを見物している人達が入店した時よりも増えてきていたのが分かった。
「……やっぱり亘君の家で話した方が良かったんじゃない?」
「馬鹿言うな、またあの親父が付いてきたらどうする。もう引っ越したくねぇよ」
「……」
「いいよ別にお前は無理に関わらなくて」
「亘君はなんでそこまで成真君の事を思うの?」
「え?あー、俺はアイツに借りがあるから」
「借り?」
「借りって言うか。恩人っていうか」
「恩人?」
「何年か前に煎餅屋の跡継ぎの事で親父と大喧嘩しちゃってさ、勘当されたんだよ。それでちょうどその頃あいつと出会って、で色々考えさせられて。おかげでまたちゃんと親父と話す事ができたんだよ。それで期間決めて今やりたい事目指せてる。」
「……なんだっけ、亘君のやりたい事」
「え?クリエイターだよ」
「……クリ?え?」
「知らねぇの?クリエイターだよ。創っていくんだよ、新たな物を」
「……うん、何を?」
「俺の分野はアニメクリエイターだな」
「アニメーター?」
「アニ?あー、そうそうアニメ―、ター?うん」
「……へー」
「ほら、このカードに描かれている絵とかデザインしたり?そーよーことよ。てか何で覚えてないんだよ、前に話したぞたしか」
「え?そうだっけ?でも普段そんな話全しないじゃん。いつも此処にいるし」
「……、これも一種の勉強なんだよっ」
「ふーん」
「おい、前回もそんな反応だったぞ!お前もっと人に興味持てよ!」
「持ってるよ。ただ亘君に関しては薄かったかもしれない、ごめん」
「……いや、ごめんって」
「だってあまりここ以外で遊んでくれないし」
「まぁ、…そうか。え、成真とは違うとこで遊んだりするの?」
「うん、たまに。それに僕も成真君には恩人みたいなところもあるし」
「お前も?そ、そうなんだ」
「恩人の前に、……友達かな」
「そうだな、恩人だけど、先ずは友達だからだよな。よく考えたら俺、あいつしか友達いねぇわ。はは」
「ふふ、僕も。あ、でもなんか今日で亘君とはちょっと深くなった気がするよ、一緒に外に出たり、カード以外の話もいっぱいしたし」
「そ、そうか。それはーよかった」
「うん。で、いつまでなの?」
「はい?」
「期間って、どのくらい?」
「ああ、35歳まで」
「35?あれ、今年35じゃなかった?」
「そういうのは知ってるんだな。あと半年あるから」
「……」
「お前、もう無理だろって思ったろ?」
「ちょっと」
「ちょっと?でもちょっとってことは7割くらいは可能性があるって―」
僕が“ちょっと”と言ったのは亘君の夢に対してじゃなかった。
「ねぇちょっと」
「あ?なに」
亘君は店の扉に背を向けているから分からいけど僕にはわかった。ホワイトドラゴンが扉を開け、こちらへ向かってくるのが。




