三橋 成真 8
とりあえず中へ戻ることにした。
もしかしたらこいつらの罠かもしれない。進とユリ?だったか、2人の動きに警戒しながらまた居間の椅子に座った。
“お邪魔しますー”
ん?
この声…
居間のドアを開けて出て来たのは元宮さんだった。
!?
「あ、成真さんのお父様ですか?初めまして、美千代と申します」
「……あぁ、初めまして。まぁ、座ってくださいよ」
「はい」
……何で?
“コトッ”とお茶を置く優里、しかし元宮さんの視線は縁側に置かれてある土のついたシャベルに向かっていた。
「……」
「どうぞ?美千代さん」と優里が声をかけると元宮さんは俺の隣へ腰を掛けた。
「……」
部屋は不気味な沈黙で包まれている。
この場所は元宮さんには言っていない、一体どうやって、
……ん?
テーブルに置かれているお菓子に目が留まった。
元宮さんが持ってきたお菓子。あの家で出された雑な物ではなく、上品な袋で表紙には“大倉煎餅”と書かれていた。大倉煎餅は大倉亘の実家の煎餅屋だ。
亘君と作太の仕業か。けど何の為にこのとんでもないカードを使ってきたんだ……。
進と優里も椅子につき、4人でテーブルを囲んだ。
「……」
‥‥異様な光景だ。
進の顔が少し柔らかくなり口を開いた。
「成真、いつ入籍したんだ?」
「…あー」
“去年です”
進、優里、そして俺までもが元宮さんへと目を向けた。
「去年の7月7日、七夕婚です」
「……そうですか」
「……」
「失礼ですが、今おいくつですか?」
少し間があいた後、ニコッとした表情で「37です」と元宮さんは答えた。
それを聞いた進と優里はどこか気まずい顔で俺の顔を見た。
歳が13も離れてるんだ。そんな顔をするのも無理はない。そして何故か自分がかなりの年上好きとバレた様な感覚がとても恥ずかしくなった。
そうじゃないのに…、けど今はどうにか夫婦に見える様にしなくちゃいけない。 何か自分からも喋らないと余計不自然に見えてしまうが全然言葉が出てこない。
進と元宮さんが会話を続ける。
「さんじゅう、ななですか」
「はい」
「随分と離れてますね」
「はい、世の中には色んな形の愛がありますから」
「そうですか。どこで出会ったんでー」と進が話している最中に元宮さんは庭を見ながら呟いた。
“立派なお庭ですね”
一瞬で空気が入れ替わった。
年齢の事が気に食わなかったのか、元宮さんも何かを探っているのかはわからないが元宮カードの“攻撃”である事はわかった。それを聞いた進と優里の顔つきが変わる。
「何か植えるんですか?」と俺が掘りかけた穴を見ながら元宮さんは喋り続ける。
「あ、桜の木とか、柿の木とかですか?」
「いや、人でも埋めようかなと」
進は“バリッ”と煎餅を齧ってそう答えた。
「……」
全員が進の顔を見て固まった。
「…ん?…ふふ、ははは、冗談ですよ、ははは」
「ふふふふ」と元宮さんも笑い、「ふふ、何それ、ははは」と優里も笑い始めた。
「……」
「おい成真、どうした?体調でも悪いのか?」
「…いや、別に」
「大丈夫?今日はもう帰りましょうか」
そう言った元宮さんの顔を見て今日の会話を思い出した。
“元宮さん、また今度お茶しませんか?美味しい煎餅屋知ってるんで今度はそれ食べながら―”
“嫌です。だって戻ってこないつもりでしょう?だからそういう事言えるんでしょう?”
“おいどこ行くんだよ!”
……そうか、亘君達は俺を連れ戻しに来たんだ。
元宮さんまでもがこの家にまで来てしまっている。まさかこんな事になるとは思ってもみなかった。もうこれ以上皆に迷惑かける事は出来ない、そう思って俺もこの家を去ろうと決めた時だった。
「美千代さんー、でしたっけ」と進が煎餅を食べながら喋った。
「はい」
「うちのー、奥さんの話知ってますか?」
「……」




