三橋 成真 6
“ピンポーン”
数年振りだけど懐かしいっていう感覚はない。嫌でもこの家の姿は時折脳裏に浮かんでくる。
そういえばこの家のインターホンを押すのは初めてだ。
〝ガチャッ”
ドアが開いた。
「……よぉ」
進がゆっくりと出てくる。
「……」
進と目が合った瞬間、自分がここに来た事を少し後悔した。でももう引き返せない、ちゃんとこの目で確かめたい。お母さんの事を…。
「入れよ」
そう言って家の中へ戻る進。
「……」
俺はゆっくりと中へ足を踏み入れた。
玄関に立つと何か違和感を感じた。俺が居た時と何一つ景色は変わっていないが何かが違う。匂い…か?
“ギィ、ギィ”と床を鳴らし、居間へ行くと進は座って庭を見ていた。
「どうした?座れよ」
家具もあれから特に変わっている様子はない。けど何か…、他人の家に来ている様だ。住んでいた時とはまた違った居心地の悪さを感じる。
居間のテーブルへ向かい椅子に座った時だった。
“あら、いらっしゃい”
「!?」
奥の部屋から女性の声がした。
一瞬、
お母さんの顔が浮かんだがー、
もちろん違う人間だ。
「あほら、言ってたー、俺の息子」
洗濯物を畳んでいたその女はお母さんのエプロンをしていた。
「あ~そういえばこの前会ったって言ってたね。初めましてー、優里です」
……誰だ、この女は。
「何君だっけ?」
「……成真です」
会って数秒だがこの女に対して嫌悪を抱いた。
「あまり似てないのね、本当にあなたの子?」
「おい、変な事言うなよ。成真、この人は今一緒に住んでいる人だ」
身体が熱くなり、鼓動が早くなっていく。初めての感覚だ…。
「……は?」と思わず声が出たが二人は全く気にせず会話をし始める。
「じゃあ実家に来るのも久々なんじゃない?ねぇ?」
「優里、何か飲み物」
「うん、麦茶でいいよね?」
呑気に会話をしている横で俺は静かに進を睨んだ。
女が台所へ行くと進が庭を見ながら喋り出した。
「最近変な夢ばかり見てなぁ、お前と、お前の連れのデブが、庭を掘り起こすんだよ。それでー、母さんを出してな、今度は俺を埋めるんだ」
「……」
「何を今さらやってるんだって、そう思うと目が覚めるんだ」
「……」
“コトッ”
と女が麦茶の入ったコップをテーブルに置いた。
「成真君は今何やってるの?」
「……フリーターです」
「そう」
そもそもこの女は何処から来たんだ?
「あの、いつ…からですか?」
「ん?」
女とは顔を合わせない。エプロンをジッと見つめ続け俺は訪ねた。
「いつから一緒に…」
「あぁ、私達?1年位前かなぁ。私が前の旦那と別れてー、ひとりボーっと生活してる時に声かけてくれたの、飲み屋でね。そしたらその日にうちで住まないかって。会った初日だよ?変わった人だなーって。私も一人でずっと寂しかったし、じゃあお願いしますって」
「……」
女の言葉を聞きながら自然と庭へ視線がいく。
様子はだいぶ変わっていた。雑草が彼方此方に生い茂てお母さんの場所は変哲もない景色に埋もれていた。
“お母さんー”
「え?」
「亡くなって大変だったでしょう」
この人は、どこまで知っているんだ…




