元宮 美千代 2
成真さんがウチに来るのは初めてでした。
同日 ―11時35分―
「どうぞお茶。いらないです?」
「いや、ありがとうございます。……ん、美味しい。自分で作ってるんですか?これ」」
「はい、漢方のお茶です。蓮の実や棗の種など、それはもう色んなモノが入っています。これは私の曾祖母から代々伝わっている秘伝のお茶なのでこれ以上の素材は教えられませんが」
「そ、そうですか。……あのー、そういえばあの人形って……」
「はい?」
「以前、僕のポストに入っていた…」
「あ、すいません。突然お渡しして。日頃のご愛顧と言いますか、感謝と言いますか」
「感謝?何もしてないですよ、僕」
「いえ、成真さんだけです、こんな私に挨拶してくれたり、会話してくれたり」
「……」
「なので、何か私に出来る事はないかなって」
「そうだったんですか」
「あ、びっくりされましたか?」
「はい、とても。ちょっと怖かったです」
「あぁ。そうですか」
「でも、理由をちゃんと聞けたんで、今は嬉しい気持ちです」
「……」
――その時の成真さん、いつも挨拶する時とはまた違う笑顔を見せてくれました。
「それに僕も友達は少ない方で、というか2人だけしかいないので、いつも話しかけてくれて嬉しいですよ」
「え」
「元宮さん、お父さんっています?」
「……え?あ、はい、いますよ」
「仲、いいですか?」
「仲良くはないですよ。何です?」
「実は、僕も仲良くは無いんです。一度殺されかけた事があって、僕も殺しかけた事はあるんですけど」
「あ、待ってください、ちょっと話している次元が違い過ぎましたね。そういう意味で言ったらうちは仲いい方ですよ。口はきかないけどたまーにメールはしますし電話も2年に一回くらいは……」
「そうですか」
「……ちょっとお菓子でも持ってきますね」
「あ、ありがとうございます」
ーーそこから少しまた、成真さんの表情というかオーラが変わったんです。
「で、なんで殺されかけたんです?」
「あぁ、何年か前にー、親父がうちのお母さんを家の庭に埋めたんです」
「……」
「僕もちょっと手伝ったんですけど。親父も相当おかしくなってて、俺が警察とかに言うと思ったんですかね。首しめられて」
「……」
「それから家を出て、今日偶然親父と会ったんです。そして俺に言ってきたんです。〝母さんが居なくなった〟って」
「……え」
「俺を誘き寄せる為なのか、本当に庭から居なくなったのか……。どう思います?」
「……情報を処理して今の質問に回答する為に今物凄く脳みそ使ってます。ちょっと待って下さいね」
「すみません、突然。びっくりしましたよね」
「ええ、とても」
自分がどんな人間かは分かっているつもりです。生きづらい人間なんだろうなって、でもその分強い人間でもあると、そう自負していたんですが…。成真さんとの会話で思考停止してしまった自分の無力にまた昔の私に戻ってしまった感覚に陥りました。
「……そうですね。私にはー、……分から ないですね」
「……そうですよね」
「ただ、死体は自分では歩かないですよ」
「……親父の所に行ってみます」
「何しに行くんです?」
「たぶん俺の事を呼んでるのは親父じゃなくて、お母さんだと思います」
「……」
「もしもまだ庭に居たら、もっとちゃんとした所へ移してあげようと思います。……今までこんな俺に話しかけてくれてありがとうございました」
「……」
「元宮さん、また今度お茶しませんか?美味しい煎餅屋知ってるんで今度はそれ食べながら―」
「嫌です。だって戻ってこないつもりでしょう?だからそういう事言えるんでしょう?」
「……」
「せっかくおもてなしを出来るような人が現れたのに残念過ぎますそんなの」
「……戻ってくる、つもりですけど、どうなるか僕もわかりません。御馳走様でした」
「そのお友達は知ってるんですか?」
「え?」
「成真さんがそこに行く事を、そのお友達は知ってるんですか?」
「……いえ、言ってません」
「なんで私に言ったんです?」
「……なんでですかね、人形の所為かもしれません。ふふ」
「絶対危ないですよ、そこへ行ったら」
「……。わかりました。じゃあーもうちょっと考えてみますね。お邪魔しました」




