大倉 亘 9
そこはまるで映画の世界へ紛れ込んだ様な空間だった。
数えきれない程の人形が壁中に飾られ、吊るされ、打ち込まれ、俺達を招かれざる客かの様に睨みをきかせてくる。
……これはホラーだ。
「これ全部作ったんですかー?」と部屋を見渡しながら作太が女の背中へ投げかける。
「作った物と、修理した物と」
女はそう言いながら奥の部屋へ向かっていった。
「どうぞ、こちらへ座って下さい」
その部屋には小さな卓袱台ちゃぶだいと座布団が2枚置かれていた。
成真の姿は無かった。
成真はここへ来たのか?この女は何を知っているんだ…。
俺が部屋の様子を伺っている間、作太が会話を続ける。
「修理?」
「ネットで依頼を受けて、送られてきたもの新品同様に仕上げる作業です」
「そんな事出来るんですか?」
「ええ。似た生地や新しい生地さえあれば生き返ります。それと自分で作った物を売って生活してます」
「え?買う人いるんですか?」
“ゴォホッ!”と思わず咳が出た。馬鹿正直にも程がある、こういうところだ作太の悪い所は。
「ええ居ますけど?」
「すいません、こいつちょっとこういう所あって、はは」と、フォローになっているかわからないがとりあえず濁しておく。
“カタン、カタン”
とお茶っぽい液体が入った湯呑みが卓袱台に置かれた。
「いらないですか?」
「いえ、いただきます。な?」
作太の事だ、下手したら出されといて普通に“いりません”とでも言うかもしれない。
「はい、ありがとうございます」
ったく、今度は作太の方が怖くなってきたな…、そろそろ俺が話を進めなきゃダメそうだ。
「あ」
と、今度はガサガサと大きな白いビニール袋を出してきた。
「お菓子、どうぞ」
「……」
「……」
「あ、いらないですか?」
「いえ、いただきます。な?」
「はい、ありがとうございます」
どちらが毒味をするか、作太と目で会話する。
「……」
「……」
しょうがない、ここは人生の先輩として先に飲んでやるか。
とりあえずお茶っぽい飲み物からだ。
ゆっくりとグラスに口をつけ、“ゴクッ”と一口飲む。
「……」
漢方?ホットウーロン茶?
「…美味しいです」
その言葉を聞いて作太もお茶を飲む。
「人は嫌いじゃないんです、ただ寄って来ないだけで」
女が急に話し始めた。
「…はい?」
「私なりには努力してるつもりなんですが、どうも上手くいかなくて。私も友人を作ってオモテナシしたり―」
女が手に持っていた小さな人形相手に喋り続けている間、作太と小声で会話が始まる。
「(小声)何の話?」
「(小声)さぁ。久々に人と話してテンション上がってるんじゃないか」
「(小声)早くここから出よう」
「(小声)だから言っただろ、ただの…いや、変な隣人だって」
「(小声)あ、でも一回成真君の事聞かなきゃ」
「(小声)いいってもう」
“やっぱり怖いですよね?”
女はこちらを見ていた。
「え‥‥はい?」
「ワタシがオ・モ・テ・ナ・シ、するの。毒入ってるんじゃないかとか思います?」
「そ、そんな事無いですよ!お茶美味しいですし…なぁ!?」
「成真君ってどこに居るんですか?」
‥‥やはりこの場は作太に任せよう。
「あ、そうそう成真さん。今日にここに来てくれたんです」
「え?何時ごろです?」
「11時半頃でしょうか」
その時間だと俺達と別れた後だ。
「成真さんとは、お話したりする仲で。あ、お話って言っても声かけるのはいつも私なんですけど、なのであまりどんな人なのかは知らないんですけどー」
「……」
「……」
「でも寂しい人なんだなっていうのは知ってます。私もそうなので見たり話したりしてたらそうなんだなって」
結構お喋りな女だな…。
そんな事聞いてるんじゃないんだよ、俺達が知りたいのは―
「でー、成真君は何処へ?」
そう、それだよ。
「あ、今日は珍しく声かけてくれて、“お時間ありますか?”って。なので、ここでオモテナシしたんです」
そして女は淡々と成真との出来事を話し始めた。




