元宮 美千代 1
「出来た、赤ちゃん」
たかが5センチ程の布人形なのにこんな時間がかかるなんてやっぱり凄いね、赤ちゃんは。
玄関に並んでいる男女の番つがいの間へ赤ちゃんをそっと置く美千代。
「子供が出来ちゃいました~。ん?」
玄関に置いてある段ボールが目に入る。
「…忘れてた」
段ボールを持ち部屋を出る。
“瑠美るみ―、アイスでいー?”
“10個ね!”
“そんないらねぇよ~~”
“いいからはーやーくー”
「……」
2つ隣のバカップルが上と下でバカみたいに大声でバカみたいな会話をしている。
パシリにされている男の背中を見て「フッ」と息が漏れた。私には随分なイキリ様なのに自分の女には弱いんだね~ああいう男は。
「なに、おばさん」
留美がこちらを睨んでいる。
「……」
「なに見てんの」
このおませ、蹴り飛ばしてやろうかしら。
「私の視界にあんたが入ってるだけ」
「気持ち悪っ」
そう言い捨て部屋へと戻っていく留美。
「……」
目の前のフェンスを“ガンッ”と蹴り、下へ降りていく美千代。
アパートを見上げると錆さび付いたフェンスの棒の至る所が歪んでいる。
「……」
あれ全部私がやったのかな…。
「……フッ」
郵便局で事を済ませ、家に帰る途中にぬいぐるみを持って佇んでいる少女がいた。一度素通りするも、その見覚えのあるぬいぐるみに戻ってくる美千代。
「……ねぇその子って、ペチャンコだった?」
「……?」
しゃがんで少女と目線を合わせる。
「私ね、お人形の手術出来るの。その子のね、綿入れたの私よ、多分」
「……おめめも?」
「そうー、おめめも変えてあげたの。よくわかったねー。やっぱりその子だったんだー」
緊張していた少女の顔が少し笑顔になり、美千代もぎこちない笑顔を見せる。
“ちょっとさっちゃん!どこ行ってたの!”
「ママ―、クマちゃんのお医者さんだって」
真横のスーパーから出て来た母親に会釈する美千代。
「あ、私、以前ネットで依頼された―」
「危ないから勝手に離れないっていったでしょー?」
「でもママ、クマのお医者さん―」
「…、あ、私このクマちゃんの―」
「失礼しますー」
「……」
少女の手を引き去っていく母親。少女は引っ張られながらも美千代に向かって手を振る。
「……」
ぎこちない笑顔で少女に手を振りった後、直ぐ近くに置いてある店の段ボールを見つめる。
「……」
アパートのフェンスの様に蹴るフリをして去っていく美千代。




