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大倉 亘 5

 庭を掘っている。


「おいおいおい、本当に掘り返してるぞ」

 シャベルで掘っているのは親父で、成真はすぐ隣でその光景を見ている。


 すると親父が突然膝をついて掘るのを辞めた。よく見ると肩を揺らし、涙を流していた。



「……」


 なんだか急に胸を締め付けられた。あの親父も親父でそりゃ色々と思う事もあるよな。

 2人が何かを喋っているのに気が付き耳を塀の穴へ押し込む。これでも長年盗聴…いや、盗み聞きをしてきた俺だ、耳には自信がある。


〝変わるよ〟


 成真がそう言って庭を掘り始めた。


 何るすかわからない親父だ。穴を掘り返した後に成真を殺し、再びその穴に埋めるかもしれない。


 しかしだ‥‥もしそうだとしたら俺は何をすればいいんだ?助けに行くのか?どうやって…いつ…。もしかしたら今ナイフかなんかで成真を襲うかもわからない。じゃあ今行くのか…?


 んー、それとも俺はドラマの見過ぎなのだろうか。でも既にそんな事は目の前で起きているとは思うし…。くそっ、こんな事考えた事もないのに答えなんか出るはずがないじゃないか。もうなんだか一周回って帰りたくもなってきた。



“なぁ成真、俺を殺してくれないか?”



「え?」

 俺はブロック塀の穴に耳を入れた。



“は?”


“それでぶん殴ってくれよ、そして俺もここに埋めてくれ”


“何言ってんの”


“頼む”



 親父は俯いて成真にそう言っていた。


「そ、そっちかよ…」

 膝をついて、まるで魂を感じなくなった親父を成真は返事をする事も無くただ黙って見ている。ただシャベルを握っているその手は震えていた。



「……」

 自分の鼓動で見ている事がバレそうなくらい場が緊迫している。どうなるんだ、さっきの警官に言っとくべきだったか、しかしそれだと成真も逮捕され…


「ん?」



 成真がゆっくりとシャベルを振りかざす。



「おい、嘘だろ?」


 その瞬間、不思議な感覚に陥った。


 脳みそが勝手に体を動かしたんだろう。気が付いたら玄関脇から庭へと走っていた。

 実際はどうかわからないが、「なるまぁ!」と叫んだ俺はまるで自分がチーターにもなったかのようなスピードで成真に向かっていった。


 俺の声を聞いて動きが止まった成真を押さえつける。


「わ、亘君?」


「はぁはぁ、よせ、よせよ成真」


 視点が定まらず、放心状態にみえる成真の

手からシャベルが落ちる。



“この野郎…”


 そう聞こえた時には親父は俺に掴みかかっていた。

「またテメェか!邪魔すんじゃねぇ!」

 向かってきた勢いで倒れ込み、親父から馬乗りにされる。



「なんなんだテメェは!」



 やばい、


 俺の体型は倒れ込んだら非常に不利になる。


 そして思いのほかこの親父はリーチが長い、いや俺が短いのか。兎にも角にも、反撃が出来ない状態になった。


「こ、こんなの見て見ぬふり出来るかよ」

 俺はなんとか普通の会話をしようと必死に

喋り続けた。


「成真は、だ、大事な友達なんですよ」


「そういえばお前と出会ってからだな、こいつが勝手な行動し始めたのも」


「はい?何の話?」


「お前がやるか?じゃあ」


 親父が直ぐ横にあったシャベルを手に取り俺の顔に押し付けてくる。


「お前が俺を殺してくれよじゃあ!」


「痛い痛い!そんな事できるかよ!おい成真!」

 成真はまるで人形のようにボーっとこの光景を見ていた。


「おいデブ、さっき友達って言ったよな?」


「はい?」


 シャベルは成真の方へ放り投げられた。


「な、何するつもりだよ」


 俺の胸倉を掴んでいた手が今度は首へとや

ってくる。そしてグググッと力が入っていく。




「うぅ、やめ…」



「おいなるまぁ、俺を殺さないとコイツが死

ぬぞぉー」






 死ぬ。



 そう思った。


「く、かぁ…」

 絞められている所為か親父の腕を掴んでも

力が全く入らない。


 恐怖……とは少し感覚が違う。更にその上、最上級の恐怖、言葉がわからない。

 勝手に涙が出てくる。

「なるまぁ!本当に死ぬぞコイツ!」


 せめてもの抵抗なのか、俺はこのクソ野郎

を睨む事しか出来なかった。しかしその顔も

自分の涙で歪み初め、自然と瞼が閉じていく

のが分かった。こんな事なら俺がコイツを殺

す選択をすればよかった……。




“ガンッ”


 その音と共に視界が戻っていく。


「かはっ!はぁはぁはぁ」


 成真の足が見える。


 その向こうで親父が倒れていた。


「な、…なるま…?」


 成真はシャベルを持っていた。



 血を流した親父が「あ、あと、一発だ……、

後一発、……頼む」と不気味な笑顔で声を絞り出している。


「あとは自分でやってくれ」


 シャベルは倒れているオヤジの上へと放り投

げられた。


「亘君大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃねぇよ…」

「ごめん」


 成真に起こしてもらい、なんとか立ち上が

る。親父はボロ雑巾のように倒れたまま俺達

を見ていた。


「……もうほっといてくれ」

 そう言ってその場を去っていく成真。親父

は「まってくれ…」と掠れた声で言っていたが俺は何も言わずその場を去

った。

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