第8話 雪合戦 ピュア
ジャッジメントの行方だが、フェンリルの毛皮を買おうとした貴族は、王に献上するのが目的だったらしい。ギルドにも巧妙に圧力をかけ、それに屈したギルド長も真っ赤に光っていた。その光景を目にしたアルトは、深くため息をついた。
他には例の宗教国家で、異端審問を執拗に推進していた枢機卿一味が、再び真っ赤に光った。そのことで、いよいよ異端審問という悪夢そのものが廃止され、終止符が打たれたようだ。
都市の肌触りは、低賃金で奉仕する「赤パネル」の増加により公共事業が捗り、街も人々も清潔になり、悪臭は払拭され、疫病の流行は沈静化した。
二度のジャッジメントを経て、人々の目にも、この呪いの時代が終焉を迎えるであろうことが予見された。そしてこれからは、甘えや傲慢さが許されない世界になるだろうと。
よく晴れた日には、エルフの子供たちが歓声をあげて草原を駆け回っていた。かつて冬といえば、寒さの中で凍りつき身を寄せるしかなかったというのだから、それは新鮮な、生命の光景だろう。
アルトは子供たちに雪合戦を教えることにした。雪で障壁を造り、飛び交う雪玉を搔い潜って敵陣の旗を奪い取れば勝利というルールだ。けれど、雪玉をぶつけられたときの判定が難しいため、アルトは「ペイント玉」という魔法を造った。これは、範囲を指定したフィールド内で、雪玉は白いままだが当たった箇所だけが橙色の蛍光を放つというものだ。
その効果で雪合戦は、一変して白熱したものとなった。さらに大人たちまで混じり、彼らは数百年の経験を持つ生粋の狩人な訳だから、そこはもはやゲームではなく本物の戦場と化していた。
サクラを肩にハクに跨ったサーシャたちも、あまり良く分かっていないのだろうか、ペイントまみれで爆笑しながら戦場を駆け回っていた。
そうして遊び疲れた後は、もちろん露天風呂だ。モウモウと立ち上る湯気が興奮を優しく癒してくれた。
そういえばサーシャは17歳くらいに大人びて背もずいぶん高くなった。その美貌はますます女神様に似て、うっすらと虹色に輝いている。
サーシャから世界樹周りの結界を解除して欲しいと頼まれた。アルトが「寒くても大丈夫?」と尋ねれば、サーシャは穏やかに答えた。「浄化に必要なの。それに十分に根付いて、寒さから守れるほど強くなったのよ」
世界樹の役目は、地下の龍脈を整えること、それと大気中に蔓延る瘴気や邪気の浄化にあるのだという。世界樹が不在だったこの100年で、それなりの量の不浄な邪気や瘴気が蓄積してきているとのことだ。アルトは世界樹の結界のみを解くことに決めた。
アルトは鑑定の精度をさらに極限まで高め、空気中の悪意そのものを識別し始めた。なるほど、この大気に含まれる負の感情が、人々の劣等感や不平不満を増幅させていたのか。
「これはサーシャの負担が大きすぎるな。なにせ100年分だからな」
アルトは魔法でその根源を打ち消せないかと考え、「ピュア」なる魔法を創造した。これは概念そのものを無に帰す魔法だ。そして大陸全体へと、全魔力を込めて放った。
その効果はあまりにも凄まじかった。未だ未熟なサーシャへのサポートというには、十分過ぎる効果があったようだ。「お父さんすごい!」とサーシャは嬉しそうにはしゃいで跳ねた。
アルトは初めて経験するほど魔力を消耗したが、トレーニングにもなるなどと気楽に考えた。アルトが時折ピュアを唱えることで、春が来るまでには瘴気や邪気が微塵も残らず消え去ることになった。
日々、雪が溶け、静まり返った大地が息を吹き返していく。雪のすき間にフキノトウが芽を出していた。
よろしければ評価をお願いします。




