第5話 エルフ
梅雨が明け、景色は色鮮やかになった。桜の木は瑞々しく威風堂々とした枝ぶりを見せるようになり、初夏を迎えた今では心地よく落ち着いた佇まい見せている。
世界樹の方は天を突く大樹へと変貌を遂げていた。その信じられない成長ぶりには、思わず目を奪われた。妖精のサーシャも呼応するように小学校低学年ほどの大きさに育ち、肩に乗せるサクラと楽しそうに遊んでいる。天使と惑うほど可愛らしい姿だ。
そしてサーシャは、ついに会話ができるようになった。立場上はアルトの眷属にも関わらず「お父さん」と呼んでくるため、アルトは照れくさくて仕方がない。
一番年上のはずのサクラだが、ジャムが好きで無邪気に顔を埋めている。サーシャはなんでも食べられるようになり、ハンバーガーを丸かじりする姿に思わず笑みがこぼれた。
季節はすっかり夏めいて、アルト、サーシャ、サクラの三人は、湖のほとりで思いきり水遊びをして過ごす、とても幸せな日々を送っていた。
そんなある朝のこと、ログハウスの扉を開けると、アルトは思わず目を見開いた。結界の外には、20名ほどのエルフが土下座のような姿勢で静かに伏せているのだ。
ジャッジメントを受けたはずだが、一人として赤いパネルは出ていない。こっそり鑑定してみたが、皆、清廉潔白な様子だった。「大丈夫、怖がらないで顔を上げてくれ」と促すと、「眩しすぎて目を開けられません」と返ってきた。魔力を極力抑えてみると見えるようになったようで、代表者が震えるような仕草で恐れながらも前に出てきた。
話を聞くと、「世界樹の世話をさせてほしい」というのだ。100年ほど前、唯一の世界樹が枯れた後、大陸中を探しても見つからなかった。今や遠くからでもその威容を見ることができるため、たまらず一族を挙げて馳せ参じたという。古来より、世界樹の世話をすることがエルフ族の使命として長寿を与えられてきた。ついにそれが叶うのだ。
世界樹の健康維持に必要な枝打ちをし、その枝を厳重に保管したり、下地周りの清掃や害虫の駆除、水やりなど、多大な手間のかかる管理をしてくれるそうだ。サーシャも快く「うん、いいよ」と頷いたので、接近すること、近くに住むことを許可した。
森の中には他のエルフも点在しているという話だったので、それらの集落も含めエルフたちの居住区を丸ごと召喚転移させ、世界樹とログハウスを囲むように配置した。と言っても、湖への景観は大切なので南側は開けてコの字型になるような配置だ。
結果、総勢200名ほどの新たなエルフの森が誕生した。エルフたちにとっては元の集落の生活基盤たるインフラがそのまま転移してきたわけだから、夏の終わりにはすっかり普段の生活を取り戻すことが出来ていた。
召喚転移の方法は、まず森へ行き集落の範囲を余裕をもって大きな円で囲い、地面を地下20メートルほど含めて根こそぎ結界でくり抜く。次に草原の予定地を同じ大きさでくり抜き、南方向を揃えながら集落の地を差し込む。それから森へ戻り、草原の地で埋め戻す。エルフたちは両手を付き、ただ口を開けて見ていた。要は土地の交換だが、エルフにとっては驚異的な神の所業でも、アルトにしてみれば簡単な作業だ。
上空から見ると森にはハゲのように草原が点在することになったが、これらの場所は住み慣れた土地勘を持つエルフにとって、狩猟拠点など利用価値が高いエリアであるため、それぞれの小さな草原を少し広めに森の部分も含めながら結界で保護しておいた。
エルフなら自由に出入りできるため、テントだけでも安全で快適な一時利用が可能だろう。世界樹を狙う外敵への前線基地にも使えるはずだ。
エルフたちは感謝しても仕切れないようだった。暫くして、意を決したように、手を強く握りしめながら「眷属にして下さい」と願い出てきた。サーシャが「うん、いいよ」と快く答え、エルフたちはサーシャの眷属となった。アルトからすれば、眷属の眷属なので孫眷属ということになる。
静かに暮らしたい派のアルトに、大勢を統率するリーダーとなる試練が待っている。そういうのはごめん被りたいと思う反面、新たな責任感が密かに芽生えて来ていることも感じていた。
よろしければ評価をお願いします。




