第4話 召喚魔法 半神 世界樹
「リセット」の後の世には、大きな変革が訪れていた。被害者に報いたり、ドブさらいといった公益的な行いを積むと、悪を示す「赤」が薄まり光りも弱くなる、ということが判明し、世界中で慈善活動のブームが巻き起こっていた。
草原では雪もすっかり溶け、春の気配が満ちてきた。「春はこれがないと……」とアルトはログハウスの横で桜の木であるソメイヨシノを創り出そうと試みたが、うまくいかない。生物は創造できないらしい。かつて果実がクリエイトできたのは、その種が休眠状態だったからだ。
それならば、とアルトは「召喚魔法」にチャレンジすることにした。日本の公園にあるような有名な桜の木をすっぽ抜いては申し訳ないので、山間に群生している奈良県の吉野あたりから1本だけ、と念じながら召喚魔法を発動した。空気がホワンと揺れたあと、徐々に満開の桜の木が現れた。しっかりと根付いて召喚されたので安心した。
なんとも言えない懐かしさ。同じ日本から召喚されてきた同郷のよしみというのか、たまらなく親近感を覚える。召喚したことで桜の木は眷属になったようで、なんとなく意思の疎通ができるような気がした。すると、桜の木から手乗りサイズの妖精が現れた。言葉を話すことはないようだが、アルトの周りを飛び回り、全身で喜びを表現している。アルトはその妖精に「サクラ」と名付けた。サクラは嬉しそうにさらに激しくアルトの周りを飛び回った。
そんな華やかな花見を楽しんでいると、カイザーがやってきた。カイザーは神妙な面持ちで、女神様に数百年ぶりに呼ばれたのだと告白した。彼は数千年を生きているが、本来は女神によって創造され、この星を守護する役目を担った「使徒」なのだそうだ。女神様はたいそう機嫌が良かったらしい。アルトを使徒に選んだわけではないが、期せずしてリセットという大仕事をやり遂げてくれた、ということで大変興奮しているというのだ。
それから、とんでもない事実を打ち明けられた。アルトは既に人間を卒業し「半神」になっているという。亜神や現地神ともいうらしい。そういえば、ドラゴンとの対峙から始まり、驚異的な魔法の取得、極めつけはリセット。なので階位が跳ね上がっていたのだろう。女神様は地上に顕現できないので、今やこの世界において『最も強力な存在』ということになるらしい。
「俺、何かやっちゃいました?」と、平穏な生活を望むアルトは頭を抱えた。
女神様からのご褒美として、カイザーはもう1人の眷属だと小さな苗をアルトに差し出した。鑑定をすると「世界樹の苗」と出た。苗は時折、虹色に淡く輝き、アルトの言葉に反応しているようだ。アルトは名前を考えるのに随分悩んだが、語感の可愛さで「サーシャ」と名付けることにした。サクラも寄ってきて、何やら仲良さそうにキラキラと嬉しそうだ。
どこに植えればよいか、サーシャを手に草原中を歩き回った。ログハウスと北の山脈の麓の中間あたりが気に入ったようで激しく点滅した。カイザーやサクラと一緒に植え付け、水をやろうとした。露天風呂の冷めた残り湯、つまりはアルトとカイザーの出汁をかけてやると嬉しそうに点滅するので、きっとたくさんの魔力が溶け込んでいたからだろうと頷き合った。
それからサーシャと一緒に毎日欠かさず水やりを続けた結果、サーシャは驚くほど成長した。桜の花が散り葉桜になる頃にはもうすっかり大木と呼べるほどに伸び、威厳ある世界樹としての片鱗を見せていた。すると突然、サーシャはサクラのような小さな妖精の姿になって、世界樹から飛び出してきた。妖精のサーシャもまた、恐ろしく可愛いらしい。サクラと一緒になって楽しそうに飛び回っている。
二人はアルトの眷属なので、魔力の及ぶ範囲ならどこにでも着いてこれるらしい。春の森を探検したり、湖畔でピクニックをしたり、肩や頭に止まって一緒に風呂に入ったり。いつもアルトの傍から離れず、周りでクルクルと楽しそうに輝いている。そうした何気ない、まったりとした日々こそが、アルトの心から願ってやまないものだった。
妖精のサーシャは連日、それとわかるほどグングン大きくなって、赤ちゃん抱っこからオンブへとポジションが変化してきた。そのうち言葉を交わせる日が来るかもしれないと、アルトは期待を膨らませていた。
それとサーシャは何となく女神様に似て来ているようだった。その女神様はというと、桜餅と緑茶を堪能していた。上機嫌だった。
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