第3話 断罪魔法(ジャッジメント)
めっきりと日が暮れるのが早くなってきた。そういえば元の世界で冬至という日があったな。それからクリスマスだっけ、懐かしいな。アルトは露天風呂に浸かり冬の夜空を眺めながら、ドラゴンになって国々を巡っていた時のことを思い出していた。その時々に見かけてきた、貧しい孤児院の子供たちのこと。寒さの中、寂しげに佇んでいる無垢な子供たちだ。「……そうだ、サンタになって何かプレゼントをして回ろうか」アルトのストレージには、訓練の間に集めた魔石などが山ほど溜まっていたのだ。
金銭はないから街に入る時の入場料が払えない。だが、直接転移すればいいかと。次の日の夕方、赤いサンタの格好になり、木箱に魔石、毛皮、魔物の肉を詰めて配って回った。当然、魔力も匂いも消しているから、痕跡は一切残さなかった。急に転移してきた奇妙な服装の人物に人々はざわつき、木箱を受け取った者は疑いの目でそれを見た。しかし、子供たちは、柔らかな毛皮を奪い合うように抱きしめ、歓声を上げた。一時間足らずで、十数あった孤児院を巡り終えた。
大概の院長は表向きは感謝を口にするが、どこか冷ややかな、澱んだ態度だった。直感を信じたアルトは、「遠見の魔法」を創造してしばらく観察を続けた。そしてやはり、悪い予感の通り、プレゼントを着服する院長が多い。慈悲という名の偽善というやつか。
アルトは鑑定魔法を深く掘り下げ、対象の過去の犯罪歴を皆が見れるように表示できないかと考えた。そこで思いついたのが『透明なタブレット型のパネル』だ。これは殺害、詐欺、強盗、放火といった過去の犯罪歴、さらにはいじめや誹謗中傷といった道徳的欠如なども、本人の頭上に透明なパネルとして常時視覚化する魔法だ。
触れることも、振り落とすこともできない。本人の魔力を使って、負の要素が強い者ほど赤く、強く光る。それだけで魔力欠乏を起こす程のものだ。闇に紛れるなんてことは、最早できない。はっきり言って魔法というより呪いに近い。なぜなら、アルトより魔力の低い者には解脱できず、生涯消えない設定だからだ。もちろん、何もない人には何も生じない。
アルトはこの魔法を「断罪魔法」と名付けた。孤児院関係者に放ってみると、なんと全員が詐欺や虐待など、何かしら赤く光った。ひどい者になると、普段の助成金まで着服していたようだ。孤児院関係者というのは院長だけでなく、任命した教会や王都の担当者など複数に及ぶ。多くの者が急に頭に赤いパネルを掲げたため、為政者たちの戸惑いは瞬く間に広がり、パニックとなった。とんだ正月に成ったものだと言えるだろう。
各国の魔術師団が懸命に解脱を試みたが、全く解けず、しかも表示されている内容が正しく、真実に基づいたものらしいとあって、呪いをかけた者の割り出しを急ぐが、見当も付かない。王族をはじめ貴族など、やましい心当たりのある者は、自身にこの魔法が仕向けられたらと気が気でないようで、国事は凍りついた。
アルトはちょうど遊びに来ていたカイザーと露天風呂に浸かりながら、遠見魔法で成り行きを眺めていた。カイザーは既にこの世界が負の要素に満ちていることを承知しており、もはや自浄作用など望めないレベルにまで来ていると打ち明けてくれた。
アルトに使命が与えられたわけではないが、なんというか、乗りかかった船というか、やってしまった感というか、落とし所を得るためには中途半端は返って良くない。アルトはこの世界中の全員にこの魔法を打つことを決意した。そして、ログハウスのバルコニーから放った。
誰もが息をのむ光景が広がった。世界の住人たちにフッと魔力が通り過ぎたと感じた後、なんと半分の人々が程度の差こそあれ赤く光っていたのだ。きつく光り魔力欠乏でフラフラになっている者は捕縛が簡単で詰め所に連れて行かれるが、憲兵や衛兵まで赤く染まっている者もいる。牢獄の看守にまで赤く光る者がおり、もはやパニックというよりカオスな状態であった。
謁見の間や議会ですら真っ赤に光っている者がいた。宗教国家では一部の枢機卿や司祭、さらには法の執行者である異端審問官まで、聖なる装束を纏いながら強姦や婦女暴行の罪で真っ赤に光っていたのだから、笑えない。
何も光っていない者、すなわち清廉潔白な者たちの中で力ある者が立ち上がり、指示を出し、貴族の多くが取り潰され、財産を没収され、公衆の面前で処刑されるなどの粛清を受けた。こうして着々と事態は収束していった。
アルトの放った断罪魔法が、強制的に隠されていた真実を可視化し、自浄を強いたのだ。それはもはや、神の審判「世界のリセット」と呼ぶにふさわしいものであった。
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