第37話 ソフィ
【AI利用について】補佐として、文章の精度を高めるための「校正(誤字脱字のチェック等)」にローカルLLMを利用しています。しかしながら、根幹となる思想、オリジナルな魔法や世界観、プロット、感情表現など、「物語の核」は完全に私の創作であり、一文一文に想いを込めています。
ログハウスのテラスの朝は夏の兆しと共にあった。
鼻先をくすぐるのは、乾いた風に運ばれる草花の芳しい香りと、生命力あふれる草原の匂いだ。
東の空から差し込む朝の光が、若葉を透かし、まばゆい緑色に染め上げていた。
煎れたてのコーヒーを楽しんでいると、
サラが早々にやってきて、友人の「箱庭バトル」を手助けしてほしいと懇願してきた。
「何それ?」
「いつも『サラばっかりズルい』って羨ましがられるの。
前は箱庭最下位を争ってた子なんだけどね」
「う~ん、どっしよっかなぁ」
「『眠らない街』のララカード、イブから会員番号0番をもらったけど。
アルトはまだ、ちゃんとエスコートしてくれてないでしょっ。
だからお願い、ねっ」
そうやって、箱庭バトルの打ち合わせをしていた時、
ジランから焦燥に駆られた念話が入った。
「アルト、エデンを守れ。結界を張れ。宇宙が崩壊している。
イニスがブラックホールに飲み込まれた。ソフィと連絡が取れない。
箱庭もどんどん消えていってる。神界もいつまでもつか分からない!」
アルトは膨大な力を使って、
浮島も含めたエデン全体を巨大な光の糸の結界で囲った。
だが、宇宙の終焉は、その防壁をも超えようとしていた。
「きゃっ、何が起きてるの……」
アルトは宇宙を超え、ソフィに会わなければならないと直感した。
「サラ、行って来る」
アルトは思念体となり、力を振り絞って膨張させていった。
輝きを失い、崩壊し、縮んでいく宇宙の中を漂う……。
そして宇宙の奔流を突き抜けた先に、
ついにはっきりと宇宙を越した瞬間を感じた。
虚無の闇が溶け、視界が変容する。
すると、そこに姿を現したのは、
静かな山奥にある古びた一軒家と、その周囲に広がる小さな畑だった。
驚嘆しつつもアルトは、細心の注意を払い、実体化をした。
湿った土の香りと、若葉を擦る微かな風が肌を撫でる。
その静寂を破るように、遠くの山々から響く小鳥のさえずりと、小川のせせらぎ。
穏やかな初夏の光が差し込み、小さな畑の畝を黄金色に染めていた。
その家の軒先で、一人の農婦が倒れていた。
アルトは、慌てて駆け寄った。
気絶しているだけのように見え、一安心し、そっとその肩を揺らした。
「……ふみゅ?」
ゆっくりと目を開けた彼女は、深く息を吐きながら言った。
「ああ……アルト、ついに超えてきたのね」
「大丈夫?! やっぱり、ソフィなのか?!」
「ええ、そうよ。助かったわ。原因はたぶんこれ」
彼女は足元に落ちていた、へこんだ金ダライを指差した。
「しくったわ。急に突風が吹いてきて、後頭部に当たったのよ、これが」
アルトは戸惑った。
「結界とか張っていなかったの?」
アルトが尋ねると、ソフィは苦笑した。
「ええ、ここではできるだけ魔法は使わないようにしてるの。
この前だって熊とバトルしたけど、魔法は使わずに川に落として仕留めたのよ」
「そ、そうなんだ」
「だけど、この金ダライにはやられたわ。『意識の外からの攻撃』ってやつね」
なんともそこには、大災害とはかけ離れた、ささやかな日常が広がっていた。
「やっぱり、エデンとか宇宙はソフィのアナザーワールドの中にあったんだね」
「正解よ、アルト。まあ、お茶でも飲んでいきなさい」
彼女の佇まいが、若々しく変化していく。
リボンで整えられた長い黒髪が艶やかな、二十歳頃の絶世の美女に変わっていた。
大正時代の清楚な女学生のような格好で、一軒家の風情によく似合っている。
「イニスがブラックホールに飲まれたって、ジランがパニックになってたよ」
ソフィは優しく微笑む。
「ハハハ、あの子なら大丈夫よ。そのうち出てくるわ」
「そうなのって、そうだ! 宇宙が崩壊してるんだけどっ」
「私が復活した以上、徐々に戻るわ。宇宙とか神界も、それから箱庭も。
ルルシステムのAIにバックアップを取ってあるから大丈夫。
今頃リペアしていってるわ」
窓辺から差し込む初夏の光が、庭に咲く野の花を黄金色に染めている。
アルトは、その光に包まれるように座り込んだ。
「アルト、今ジランに連絡がついたわ。みんな無事だって」
「それは良かった……。時に、こんな田舎に一人で住んでいるの?」
「そうよ」
「えっ、ずっとそんな格好で?」
「何言ってるのよ、アルト。姿形なんて、何にでもなれるじゃない」
彼女は軽やかに笑ったが、その瞳の奥には、宇宙の深淵を見た者の知性が宿っている。
「そらそうか。でもおかしくない?
ソフィが創った宇宙に地球があったということは、百億年からの時間が経っているんじゃないの?」
「そこはね、アルト。『スキップ』できるのよ。
神界も、造った神々にも、はるか悠久の昔から存在していたような認識に変えてあるの」
アルトは深くため息をついた。
壮大な虚無を前にして、今、目の前にあるのは、静かな春の光と、淹れたての温かいお茶だけだ。
「分かったような分からないような……。
えっとそれじゃ、乙女の秘密、ルルの正体を教えてよ」
「お待ちかねのそれはね、これよ!」
ソフィは畑で摘んだ鮮やかな野菜を指さした。
「これを食べると、ルルになるのよ」
「ルルができるって、そんなセンズみたいな野菜があったなんて!」
「別に普通の野菜よ」
「そんなバナナ!」
一軒家の土壁越しに、遠くからカエルの鳴き声が響いた。
「それはね、アルト。縮尺率が、それこそ異次元に違うのよ。
ここもね、地球なの」
「えっ」
「そして私のアナザーワールドにも地球があるわよね。
アルトのいた地球が」
静寂を破り、彼女の周りの初夏の光が、一瞬、煌めくように強くなった。
「ちなみに、ここから思念を広げてこの宇宙を超えると、何があると思う?」
「う~ん、カエルの王国?」
「ハハ、私が超えた瞬間、そこにでっぷり太ってハンバーガーをバカ食いしてるおじさんがいたわ。
脂ぎっていて話しかけたくなかったから、思念体のまま帰ってきたの」
「うわーっ……」
「きっと、そこも地球よ。
縮尺率が、異次元に違うというイメージが湧いたかしら?」
「うっうん……、なんとか」
「だから、ここで食べた野菜で私の中にある神界のエネルギー、
ルルは十分賄えるんだわ」
「そんな……。それじゃ、この世界にも神界があるとしたら、
そのエネルギーはハンバーガーが原料なのか?」
「ええ、そうなるわね。想像したくは無いけれど」




