第35話 サーシャ
【AI利用について】補佐として、文章の精度を高めるための「校正(誤字脱字のチェック等)」にローカルLLMを利用しています。しかしながら、根幹となる思想、オリジナルな魔法や世界観、プロット、感情表現など、「物語の核」は完全に私の創作であり、一文一文に想いを込めています。
春の終わりを告げる風が、緑を揺らしている。
木々の若葉は濃い翠色に染まり、森の隅々まで、生命が充満していた。
そんな清々しい光の中、異例の願いがログハウスに持ち込まれた。
「私たちの結びつきを、世界の祝福の下で祝いたいのです」
依頼主は、一組のエルフのカップルだった。
彼らは、薬草の知識に長けたカリンと、最年長エルフ、シルヴァの息子だ。
エルフたちの文化において、
恋仲になったからといってすぐ結婚するのは、極めて稀なこと。
彼らは、互いの魂の相性を確かめ合いながら、
何十年もかけてゆっくりと愛情を育むのが常習だった。
しかし、この二人は大きく逸脱していた。昨年夏の出会いから、わずか一年。
その早期の婚約に、エルフたちの間でもざわつきが広がったという。
挙式は、エルフの古式に従い、厳かに世界樹の麓で行うことになった。
眷属の主、サーシャが二人の手を取り、
その健やかな歩みを祝福するという際に、アルトが幻想的な演出を加えた。
世界樹からサーシャが虹色の光に包まれて降臨し、
祝福を終えた後、ゆっくりと光の粒子となって世界樹へと還っていく……。
まるで、世界が祝福の波動に包まれたようだった。
二人は一瞬驚きに目を見開いた後、
歓喜の息を上げ、その光景に息をするのも忘れて跪いた。
エルフたちも涙が溢れるのを止められない。
サラとアルト、神々がこうしてエルフの小さな誓いを祝福すること自体、
まさに前代未聞だった。
カイザー、ハクとサクラも、仲良しのサーシャと二柱の神が臨席するという、
豪華で威厳のある光景を、興味深げに眺めていた。
挙式を終えた二人に与えられたのは、アルト謹製の「マジックバッグ」だ。
これは神器なので、プレゼントとして渡すのではなく、
新婚旅行用の便利グッズとして貸与される形をとった。
「さあ、新婚旅行に行っておいで! エデン各地の名所旧跡を巡る旅に!」
アルトは満面の笑みで二人を促した。
森を超えるのはカイザーの送り迎えだ。
カイザーも「存在の証明」にのんびり寝てばかりはいられない。
彼らが最初に向かったのは、奇岩が広がる美しい絶景だった。
旅には「お供」がいた。この一連の旅の記録を、
隠密の三台のドローンカメラが撮影することになっていたのだ。
もちろん新郎新婦の承諾は得て、
「開始」と「停止」を唱えることでプライベートは保たれる。
その映像は、
後にプロジェクションにてエルフたちにお披露目され、大喝采を浴びた。
さらに「眠らない街」でも上映され、
「聖地エデンを上から眺めるのではない、臨場感あふれる生きた作品」
として大成功を収めることになるのだった。
しかし、彼らの旅は思わぬ事態を巻き起こすことになる。
「世界樹の妖精サーシャは、まさに女神サラ様そっくりだ!」
道中、二人は出会った女神教の信者に、そう知らしめてしまったのだ。
「一目、聖なるサーシャ様にお会いしたい」
「サラ様にお目通りするのは叶わないが、サーシャ様なら……」
その想いは、エデン中の人々に広がり、
ついに「世界樹巡礼」という動きを見せ始めた。
「ちょっと待てい! 草原にやってくるんじゃねえ!」
途方に暮れるアルトを尻目に、
信者たちの熱狂は巡礼の炎となって燃え上がり始めた。
アルトはふと、ピンと閃き、ポンと手を打った。
彼は、森の中に点在する、かつてエルフの住処だった場所、
今は彼の手によって草原へと改変されたエリアを、
巡礼の地として設定することにしたのだ。
「結界で守られたここなら、みんな安全で済むし、
神聖な雰囲気も保てるはず!」
アルトが考えたのは、その小さな草原に物見櫓を建てることだった。
そこから世界樹を遠目に拝むことができる。
さらに、数ある小さな草原を巡ることで、角度も変わり、
まさに巡礼といった雰囲気が味わえる。
そうして集まった巡礼者の元を、
サーシャが幻想的な演出と共に「訪れてくださる」という、
安全かつスピリチュアルな巡礼行脚が始まった。
「最近は、お父さんがあまり構ってくれないし、楽しそうだわ」
と、サーシャもノリ気満々だ。サクラもおまけでノリ気満々だ。
ハクとカイザーは、サーシャの護衛と安全な送迎役を務める。
それに加え、巡礼者を脅かす、特に危険な魔物の討伐にも奔走した。
エデンの冒険者たちは、それぞれの町から巡礼地へ行くための、
道案内と護衛役として、新たな職を手に入れた。
巡礼地である小さな草原エリアでは、
エルフの特別な許可なく、エデンの商人が勝手に店を出したり、
食事処や宿を営むことを禁じられている。
それは、その土地が女神サラの所有地であり、
エルフが治安維持の責任者として任命されているためだ。
しかし、厳格さの中にも、小さな商業圏が芽生え始めた。
エルフたち自らが主導し、謹製のポーションや、
世界樹の素材を使った参拝の記念品を販売する小さな露天を並べた。
地元の食材を活かした食事処や、休憩所が設けられたりもした。
エルフたちも、街まで行かずに、
ここで塩や調味料、汎用の布地といった日用品を調達できるようになった。
ララシステムは、この巡礼地においても順調に機能している。
サーシャを通じて女神サラへの信仰が深まる一方で、
それで利を得ようとする策謀は見当たらない。
世界樹を目指して良からぬことを企てる人間はいないし、
エルフを拉致して奴隷にしようと企む者もいない。
清々しい風が、緑豊かな巡礼地を優しく撫でていた。
時折こぼれる眩しい日差しが、人々の笑顔をさらに輝かせているようだった。
「ぐぎゃはは~、もう、勘弁してほしいわ~」
サラは、相変わらずサラだった。




