第32話 見守り
【AI利用について】補佐として、文章の精度を高めるための「校正(誤字脱字のチェック等)」にローカルLLMを利用しています。しかしながら、根幹となる思想、オリジナルな魔法や世界観、プロット、感情表現など、「物語の核」は完全に私の創作であり、一文一文に想いを込めています。
(前話からの続き)
月明りが、エデンの草原を黄金色に満たしていた。
生命の息吹を感じる瑞々しい光が、三つの蛍に宿っている。
「どうして今頃?」
「別に見捨ててたわけじゃないわよ。ずっとそばで見守っていたの」
と、ソフィが優しい声で答える。
「アルトは覚醒したての幼子の様だったからな。
そのまま手取り足取り、おだてて育てるのは愚策だと判断した」
と、イニスは威厳を含めて言い切る。
「そうね。きっと、自分で考えないで何でもすぐ指示を求める、
頼りない子になってたわ」
「ああ、めんどくさいヤツにな」
と、ジランが笑う。しかしその光には、深い愛情が宿っていた。
「だから、アルトが自分で悩んで考えて、力に慣れていくのを……
私たち三人は、そっと見守っていたのよ」
「アルトの絶対神に覚醒してからの本性を、見極める意味もあった」
「それな、そこはすごく安心したんだぜ」
「アルトはエデンの人々を『アリ』のようには扱わなかったものね。
人の心を持った絶対神なんて、初めてのことよ」
沈黙の中、次の言葉が紡がれる。
「そばにいたからこそ、世界のデジタル化も防げたわ」
「すぐにエデンを隔離して、全世界がデジタル化するのを防いだんだ。
焦ったぜ、あの時は」
「それで、サラを呼び寄せて、
アルトに『マインド』を覚えさせるよう念じたのよ」
「あの時の『コギト・エルゴ・スム(我思う、ゆえに我あり)』
には笑ったけどな」
「断末魔の叫びみたいだったな」
「アルトがあまりの出力で叫んだものだから、
結界を突き抜けて、神界まで届いちゃったのよ」
「それで案の定、影響が出たな」
「えっ、どんな影響が?」
アルトは申し訳なさそうに聞いた。
「そうだな、俗っぽくなったというか」
「好奇心旺盛になったというか」
「要は、神たちの『自我』が強くなったのよ」
「アルトにアピアリングを都合しろ、ジャッジメントリングを寄越せと、
恥も外聞もなく迫ったのは、そのせいだな」
「だから、『依存度』項目追加のアップデートをする必要が出てきたの」
空気が一瞬凍りつくかと思ったが、
次の瞬間には、どこか軽い冗談めかした空気に変わっていた。
「えっと、それじゃ、ソフィが『ルル』を与えてるのって、
どこから『ルル』を持って来てるの?」
「それは乙女の秘密よ」
「えー」
「僕たちだって、教えてもらえてないんだぜ?」
「ヒッ、ヒントだけでもぉ……」
と、アルトの甲高い声が漏れる。
「そうね、アルトがこの宇宙より大きくなれたら、わかると思うわ」
「ドラゴン化は出来ても、そこまで大きく成れる訳ないでしょっ!」
ソフィたちの言葉は、単なる戯れではなかった。
それは、真実への、招待状のようなものだった。
「んーと、それじゃあ、最初で最後のレッスンといきましょうか」
「レッスン?」
「ではアルト、一度蛍になってみなさい。
別に蛍そのものじゃなくても、小さな光の点でいいわ」
アルトが念じると、彼の体は揺らぎ、緑の光の点へと変わった。
黄金色の湯気の中で、四つの光点が楽しげに舞い始めた。
「そうそう、上手よ。次は、体を消して思念だけの存在になるの」
アルトは恐る恐る、再び念じた。
肉体の記憶が霧散し、彼は純粋な思念だけの存在となった。
「出来たわね、これで宇宙に行けるわ。
それじゃ、あるとの故郷――地球に転移するわね」
アルトの視界がぶれる。
刹那、眼下に青く輝く星が広がっていた。寒気など感じない。
「何度見ても綺麗な星ね」
と、静かに呟く声が響く。
「すごい……」
あまりの絶景に、アルトの意識は深く開かれた。
「それでアルト、次は徐々に思念体を大きくしていってごらんなさい。
そうそう、どんどん大きく」
その指示に従うと、
あの「太陽」が小さいリンゴのように目の前に漂っていることに戸惑った。
「すくってみてごらんなさい。大丈夫、熱くないわよ」
ソフィが微笑む。
アルトが思念の指先を差し出すと、太陽はあっさりとすり抜けていった。
「ねっ、熱くないでしょ。思念体だから、物理法則は関係ないの。
さあ、もっとどんどん大きくなってごらんなさい」
アルトの思念は加速度的に膨張した。
アンドロメダ銀河が手を伸ばせば届きそうな位置に横たわっている。
アルトの体の内に、天の川らしき銀河が透けて見えた。
「これ位が今の限界かしら。
まだまだ精進は必要よ。それじゃ、そろそろエデンに戻るわね」
再び、草原。
夜明け前の薄明かりが漂う。
四つの光点は、楽しげでありながらも、どこか切ない面持ちで舞っていた。
「それでは、幼子のアルトも、立派に一人前になったことだし、
これにて『アルト見守り隊』は解散するわ」
「アルト、いつでも頼ってこい。念話で呼べばいい。距離なんて関係ない」
「またな、アルト。ジャッジメントのアイデアは良かったぜ」
「元気でね、アルト。これからも好きに楽しむといいわ」
三柱は、短い別れと、数々のとんでもない話を告げて去っていった。
残された草原は、春の空気を吸い込み、静かに夜明けを迎えていた。
朝焼けが、エデンの空を真っ赤に染め上げる。
「……皆さん、色々と本当に、ありがとうございました」
アルトは、静まり返った、ちょうど目覚め始めた草原を見下ろす。
かつて、ただの人間だったその心に抱いていたのは、
「穏やかさ」という、ささやかな「願い」だった。
「願いかぁ。じゃあ……次は、何を願ってみるかな」
アルトの心の中にある、無限の可能性を秘めた虚空が、静かに息吹を始めた。
「……やっぱ、スローライフかなぁ」




