第30話 カクテル
【AI利用について】補佐として、文章の精度を高めるための「校正(誤字脱字のチェック等)」にローカルLLMを利用しています。しかしながら、根幹となる思想、オリジナルな魔法や世界観、プロット、感情表現など、「物語の核」は完全に私の創作であり、一文一文に想いを込めています。
爽やかな初春の風が、浮島リゾート「白陽」のプールサイドを撫でていく。
イブの配慮で調整された「適度な肌寒さ」が、心地よい。
夕暮れ前の光を浴びる琥珀色のカクテルと、プールの青がきらめいている。
「ふぅ、最高ね」
アルトとサラはグラスを合わせ、軽やかに談笑していた。
彼らの装いは、水着ではなく、洗練されたカジュアルなもので、
その立ち居振る舞いは世界を愉しむ者のそれだった。
「アルトの『ララシステム』をただの恩恵で終わらせたくなかったのよ。
このタイミングで、土地の所有権もすべて没収しておいたわ」
サラが妖艶な笑みを浮かべ、カクテルのグラスを揺らしながら告げた。
「犯罪性がなく、
ジャッジメントでは素通りしていた『不労所得』と『怠惰』という病巣。
そこにメスを入れられたのは、上出来だったね」
アルトは穏やかな微笑を浮かべて応じる。
「100年前、世界樹を枯らした連中の末裔も、
小さいながら領地を維持していたの。あの顔を拝めて、本当に清々したわ」
サラはしばし遠い過去を想うかのように目を細め、声を低くした。
「ああ、エルフたちの仇もとれて良かったよ」
「あとから追って見ると、騎士や家人たちも一斉に散り散りになって、
ほんとざまぁね」
二人の眼下には、新緑が絨毯のように広がっていた。
アルトはこの淡い翠色の景色を、静かに愛おしく見つめていた。
「それでね、また視聴率が爆上がりでね。
各々の箱庭で『領地没収』がブームになりかけたんだけど、
ルルの激減ペナルティが発生して、すぐに収まったわ」
サラが両手を振り上げて熱弁する。
「そりゃ、ララシステムと抱き合わせないと、単なる略奪になるからね」
「また『ララシステムを導入しろ、ララの素も提供しろ』
なんて強権的な神が現れたら、確実に神格の剥奪に繋がるわね」
サラはアルトに、いたずらめいた視線を投げかける。
「元々、三度のジャッジメントで極悪人は皆無だったはずだ。
償いや奉仕の土壌が整っていたから、民衆に快く受け入れられたんだろうね」
サラは眼下を見下ろし、静かに語り始めた。
「城壁を破壊する輩もいたけど、アルトが何かしら仕込んだのかしら?」
サラの疑問に、アルトは首をわずかに縦に振った。
「ああ。城壁に微細に光るマーキングを施しておいた。
ここに何かあるぞ、って思わせるようにね」
「やはり、そうなのね」
「初めは戸惑っていたけど、一度壊してみたらララが降ると分かり、
その石材を路面や建材として使うと、さらに追加のララがもらえる。
という情報を共有して、ウハウハしてたよ」
サラはグラスを掲げ、小さく乾杯した。
「これからは戦争も侵略もないでしょうし、城壁は、もう必要ないものね。
でも、魔獣の心配は?」
「森の周囲に決壊を張り巡らせて、出れないようにしてある。
人は通れるから抜かりはないよ」
「さすが、アルトね」
サラは、また新しいカクテルをオーダーした。
「まだよく解ってないんだけど。テヘペロさんとクッコロさんが、
互いに挨拶を交わすだけで、二人ともララがもらえるのよね。
片方からララが移動するわけではないんでしょ、どうなってるのかしら?」
アルトは庭師が肥料を与えるような仕草を取りながら、落ち着いて説明した。
「それはね、オーディンが僕の『ルル』を、『ララの素』へ変換し、
エデン全域に散布しているからだよ」
「すると?」
「人々が何か『心温まること』をしたり、
『世に役立つ』と認められたり、『心の充足』を得れば、
周囲に漂う『ララの素』を吸収する仕組みだね。
もちろん、減った分は随時補充しているよ」
「そうなんだ。つまり、アルトだけが出資して、
アルト以外の全員に利益が回るのね。やっぱり、なんだか申し訳ないわ」
サラはどこか罪悪感の混じった、けれど幸福そうな笑みを浮かべた。
「かまわないさ。それでも僕の中では、ルルの増加の方が多いからね」
「それはそれで、ものすごいことね」
「それで、エルフで試した時には、
一時的に『ララの素』も見えるようにしたんだけど、
常に空気がキラキラしてるのもね」
「たしかに変よね」
「それで普段は見えなくして、
吸収するときだけ視認できるエフェクトをかけるようにしたんだ。
かっこいいエフェクトにするのに苦労したなあ」
サラは再びグラスを掲げ、小さく乾杯した。
夕焼けが空を茜色に塗り替えていく。
しばらく二人は、その景色を見つめていた。
そしてサラが突然、真剣な表情でアルトの顔を見据えた。
「聞いてアルト。なんと女神教が誕生したのよ!」
「おおっ」
「ララの心地よさに感動した人々が、心から崇拝してくれてるの。
まだ規模は小さいんだけど、こんなこと初めてなの。
だからもう嬉しくて、ありがとね、アルト」
アルトは、僅かな緊張を滲ませたものの、やがて表情を弛緩させた。
「それはすごい、良かったねサラ」
「うん、本当にありがとう!」
「おっ、おう。うんと、あ、そうだ。
前に手押しポンプを導入した転移者が亡くなった時に、
元の状態に戻ってしまうという話をしてたよね。どんな風になるの?」
「えっ?!……えっと、それは、スッと戻ってしまうらしいわ。
誰も転移者を覚えてなくて、設計図も残らず、ポンプ自体も消滅する。
完全にリセットされるみたいね」
アルトの眉が、わずかにぴくりと動いた。
「単なるリペアと違う……認識そのものを書き換えてるってことなのか」
「そうね、そうなるわね」
沈黙が流れた後、アルトは最も根源的な問いを口にした。
「……で、そもそも。この箱庭、一体誰が作ったの?」
サラは空を見上げ、言葉を探すように言った。
「分からないわ。神々の誰も知らないのよ。ルルについてもそうだけど……」
「……きっと、『絶対神』の仕業なんだろうな」
「一体全体、どれだけ古くて、いらっしゃるのかしら……」
サラは、思わず背筋を伸ばした。
二人は、夕闇が深く濃くなり始めた景色を背に、巨大な存在感を前に、
静かに沈黙していた。
…………アルトはヘタレだった。




