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第10話  湖開き 花火

国々の人々はというと、赤いパネルを掲げながらも、日々その奉仕の努力で色が薄まっていくことを認められた者は受け入れられ、酒場などにも出入りできるようになってきていた。無体な強権をかざす貴族も居なくなり、盗賊に身を落とす者も激減した。年末までの命とあっては、割に合わないからだ。粗野で野蛮な剣と魔法の世界が、品行方正な剣と魔法の世界へと変貌しようとしていた。


梅雨が明け、日差しが眩しくなり湖面がキラキラと輝いていた。今夏は湖でいっぱい遊ぼうということで、水着についてサーシャとあれやこれや相談しているうちに、ノリで念じてみたら「水着特集」なる本が召喚できた。そこで、水に濡れても透けない生地を多量にクリエイトし、あとはエルフたちにお任せすることにした。


水着が仕上がったと報告を受けたので、海開きならぬ「湖開き」と相成った。早朝から湖畔に集合する、若くしか見えないエルフたちは、色もデザインも様々で、湖畔がお花畑のようだった。カイザーも参加してきたが、アルトと二人で空気を読んで20歳ぐらいの美女の格好で参加することにした。超越者なアルトには性衝動など無縁なので、全く問題ない。


100年泳いだこともないという水泳初心者のエルフが大半だったので、まずは各種の浮き輪やビーチマットを浮かべ、水に慣れて貰うことにした。エルフたちの運動能力は凄まじく、1時間もすればみんな水に慣れ、クロールなどもできるようになっていた。


そこでアルトはJ字の形をした大きな滑り台を造った。滑り台から排出される時の浮遊感を初体験し慣れてきたエルフたちは、最後の跳ね上げられる瞬間にいろんなポーズを繰り出し、これが皆にバカ受けするとあって、特に恋人募集中のエルフ達が男女問わずこぞって参加してきた。


点在していた村々でなかなか交流がなかったところ、一気に合流した訳だから、一目惚れなど、チラチラと気になるお相手はいたようだ。空中でのポージングはますます過激となり、アピールに余念がない。まあ、首の骨を折ったところでエリクサーがあるので何の心配もない。


楽しんでいるうちに、お昼時になった。アルトは定番の焼きそば、焼きトウモロコシやソーダ水などを用意した。特に手回しのかき氷機をクリエイトした時は、皆が群がった。氷は結構な連中が魔法で出せるのだが、それが雪のように「シャカシャカシャリシャリ」と落ちてくる様子が面白かったようだ。


夏の家を造り中にゴザを敷いて涼しい環境も整えた。そんな日陰で休む面々が見られる中、アルトはいきなり湖畔に50人ほど浸かれる露天風呂をクリエイトした。するとこれがまた大人気で、ベタ付いた汗も流すことができ、アルトなどほとんどこの露天風の中にいた。


参加者のスタイルや顔面レベルが極めて高く、ハリウッド映画も真っ青な状態なので、白いカウンターバーにパラソルやチェアが並び、トロピカルカクテルが青プールに映える――なんて豪華客船風な情景がアルトの頭には浮かんだ。だが、目の前に広がってるのは、どこか田舎の町内会の催しにインバウンドな欧米人が多数紛れ込んでいるといった光景だ。でも、それがいい。


午後になると、チラホラとカップルが誕生して来たようで、アルトは湖面にスワンボートを20台ほど浮かべた。早速カップルが飛びつき、アツアツな午後が始まったと思ったのも束の間、エルフ達の好奇心は突き抜けていた。恐るべき身体能力に任せ、まるでモーターボートのような速さでこぎ出した。強者になると、湖の対岸まで行って帰ってる始末だ。流れは当然のように競艇のようなバトルに突入し、泣き叫ぶ子供たちもいた。


そうして血気盛んなカップルたちが力尽きると、アルトは子供たちにせがまれて小さなスワンボートや家族で一つの大きなスワンボートを造り、その後はゆったりした時間が流れた。


アルトとカイザーはほとんど露天風呂にいた。サーシャは子供な面を全開させすべてにチャレンジしていたが、ハクは暑いのか夏の家の文鎮となり、サクラはハクに乗っかり大の字でイビキをかいていた。


晩餐はお腹の空いたみんなでバーベキューだ。アルトはサザエやホタテ、エビなどの海産物を中心に召喚し、タコを召喚した時にはエルフたちは一目散に逃げ出したが、ブロックに切って焼いたタコを勇者な子どもエルフが食べ満面の笑顔になるのを見て、次第にチャレンジし出すと、虜になっていった。


満腹になって赤く夕日の染まる湖面を皆が眺めていると、突如上空にドーンという音と共に大きな花が咲いた。アルトが魔法で「花火」を打ち上げたのだ。テンポよく時折激しくせめぎ合うように乱れ打ちされる花火の乱舞は、アルトの頭にイメージしたスピード感溢れる楽曲に合わせてコーディネートされたものだ。エルフたちは驚愕し、食い入るように見つめていた。


その後、スマホカメラで撮影された今日のハイシーンの数々をプロジェクションすると、大爆笑に次ぐ大爆笑が湖畔を包み、最高のフィナーレとなった。


翌日、惜しまれながらも露天風呂は撤去され、スワンボートも滑り台も回収して、何もない静かな元の湖畔に戻した。子供たちが勝手に遊ぶと危険だからというのと、森から紛れ込んだ人間たちに発見されるとまずいからだ。


とはいえ、水着は提供されたままなので、エルフたちはレジャーシートを敷いて湖畔で家族の団欒を楽しんだり、カップルがランチや水遊びをしたりして、夏のひとときを楽しんだ。


水と関わりのなかった森のエルフたちに、夏のレジャーという新しい文化が芽生え始めていた。


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