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戦場のティア  作者: 白崎由宇
第一章 大学編
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05 女の戦い

 それからしばらく、講義とレポート提出に明け暮れたティアは、休日になってもどこにも出かけずに、ベッドでひたすら眠ることが多くなった。それはノイも同じで、レポートを書き上げた瞬間に、食事も取らないまま気絶するように眠った。

 体力には結構自身があったけど、こんなに頭を使うと体力も削られるんだな。

 こんな生活、四年も続けられるのかしら。

 滅多に吐かない弱音が、ぽろりとこぼれた。

 そんな目まぐるしい学生生活の中でも、ティアにとっては息抜きのような講義もあった。

 それは兵法学で、古代から現代までの代表的な戦争を振り返り、歴戦の強者達はどのような戦術で勝利を収めたのかを学ぶ講義だった。ヴァイス大学出身者の中には、軍の幹部にまで上り詰めた者も多い。故に一年生から必須科目となっており、特に軍人を目指す男子生徒の熱量は高かった。

 ノイに軍人志望かと問われたティアだったが、志望しているわけではなく、単純に興味は昔からあった。幼い頃から戦争ごっこをするくらい好きだったので、歴戦の英雄譚などは好んで読んでいた。

 兵法学の講義はとても楽しくて、レポートもスラスラ書けた。講義の内容が物足りなくて、教授を質問攻めにすることもあった。

 平和が一番と思う一方で、一度でいいから戦場に立ってみたいという欲求も、少なからずあった。戦争ごっこはあくまでもごっこで、リアリティがなかった。時折自己嫌悪に陥ることもあるが、人の嗜好なんて簡単に変えられるものではない。

 もう一つの息抜きは、体育だった。身体を動かすことが大好きなティアにとっては、ご褒美みたいなものだった。レポートの提出は求められず、講義で凝り固まった頭をほぐすのにはちょうど良かった。

 初日の課題は、乗馬だった。ヴァイス大学お抱えの立派な馬が三頭用意され、乗馬の技術を審査された。

 幼い頃から乗馬に慣れ親しんでいたティアにとっては、課題でも何でもなくただの遊びだった。よく馴致されたおとなしい馬で、乗り心地も抜群だった。ティアの手綱の指示に、瞬時に反応する。

 この馬で野山を駆け巡ったら、さぞかし気持ちが良いだろうな。

 颯爽と馬から降りたティアに、リデルとミーアが駆け寄ってきた。

「何でそんなに簡単に乗りこなせるの」

「え、普通でしょ」

「普通じゃないよ。乗馬なんて、私一度もしたことがないもん」

 ミーアは、涙目になっていた。

 むしろ、ティアの方が驚いた。

 この時代、馬は陸地での重要な移動手段だ。戦争でも大きな役割を果たしている。それなのに、一度も乗ったことがないなんて。

 結局リデルとミーアは、馬を怖がってまたがることさえできなかった。暴れ馬じゃないから大丈夫だよ。ティアが励ましても、二人は馬が首を振るたびに怯えて動けなくなった。

 意外だったのは、男子生徒でも半数は乗ることができなかったことだった。信じられないことに、中には軍人志望の生徒もいた。そのあまりの惨状に、乗馬担当の講師もあきれ果てていた。

 きっと、勉強しかやってこなかった人たちが多いんだろうな。

 いくら戦術を憶えても、戦場で馬に乗れなかったら説得力ないよ。

 ティアも、講師の気持ちが痛いほどわかった。

 ちなみに、レムは難なく乗りこなしていて、運動とは無縁そうだったファオも問題なく乗りこなせていた。

 最後は、アニスの番だった。生徒達の目が、一斉に彼女に注がれた。

 どっちなんだろう。

 どっちもありえるな。

 そう思いながらティアが横を見ると、腕組みをしたレムはニヤニヤしていた。

 馬の鼻頭をそっと撫でたアニスは、鐙に足をかけると、流れるような動きで馬にまたがった。

 アニスが合図を送ると、馬はゆっくりと歩を進めた。

 そっちかい。

 でも、すごく上手。

 ティアは、思わずうなった。決して馬に無理をさせない、いたわるような乗り方。馬も、心なしか楽しそうに蹄を鳴らしていた。

 馬から降りたアニスは、再び馬の鼻頭をそっと撫でてから、講師に手綱を預けた。

 様になっていて、とてもかっこよかった。

 やっぱりアニスは、ただ者じゃない。

 湧き上がってきたのは、対抗心というよりも、尊敬の念だった。

 ティアの視線を感じたアニスは、露骨に嫌な顔をした。

「女の戦いってやつか」

 ティアのとなりで、レムはうれしそうにつぶやいた。

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