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戦場のティア  作者: 白崎由宇
第一章 大学編
36/38

36 二人はどこに

 目を開けると、白い天井が見えた。

 耳が痛くなるほどの静寂が、辺りを包み込んでいる。

 ここが、あの世というところか。

 なんだか、殺風景だな。

 ティアは、ぼんやりと思った。

 しばらくすると、足音が近づいてきた。目を左に向けると、木製の扉が開いた。

「ティア」

 扉の向こうには、ノイが立っていた。唇を震わせて、涙を浮かべ、ベッドに臥床するティアに飛びついた。

「よかった、よかった」

 ティアの胸の上で、ノイは泣きじゃくった。

「ここは、どこ」

「軍の病院だよ」

 涙声で、ノイが答える。

「三日間も、目を醒まさなかったんだよ」

 聞きなじみのある、懐かしい声がした。扉に目を向けると、ファオとライドが病室に入ってきた。微笑むファオは、右目に白い眼帯をしている。

「一時は危篤状態で、本当に危なかったのよ」

 ライドは、目を赤く腫らしていた。

 そうか。

 私は、生かされたんだ。

 ティアは、泣きじゃくるノイの頭を撫でた。

 扉の向こうに、もう一人の姿が見えた。そこには理事長が、病室に入りたそうにソワソワしていた。

「理事長は、まだ駄目ですよ」

 ライドが窘めると、肩を落とした理事長は扉を閉めた。

「まったく、理事長の長話は身体に堪えるのよ」

 ライドは、肩をすくめた。

 泣きやんだノイが離れたので、ティアは上半身を起こそうとしたが、腹部に激痛が走り、思わず顔をゆがめた。

「まだ、起きちゃ駄目。安静にしてて」

 ノイが、慌ててティアを制した。患者衣の裾をめくると、腹部には包帯が何重にも巻かれていた。

「本当に、よく頑張ったわね」

 ライドは、目を細めた。

「あなた達は、私の誇りよ」

 ライドの言葉に、ノイは恥ずかしそうに俯いた。

 その時、ティアのお腹の虫が、豪快に鳴った。

 頬を赤らめたティアは、両手で顔を隠した。

「三日間も飲まず食わずだったんだから、お腹が空いて当然よ。今、病院食を持ってきてもらうわね」

 そう言って、ライドは病室を出て行った。

 ベッドの傍らにある椅子に、ノイとファオは並んで座った。

「私、勝ったんだよね」

 天井を見上げながら、ティアはぽつりとつぶやいた。

「なんだか、実感が湧かないなあ」

 ため息交じりにティアが言うと、ノイは微笑んだ。

「ちゃんと見届けていたから。ティアが勝つところを」

「僕も、見たかったな」

 ファオにしては珍しく、おどけて言った。

「本当にすごかった。ティアもヨシアさんも、めちゃくちゃ速くて。全然、目で追えてなかった」

 ノイは、興奮気味に語った。

 朧気に頭に浮かんできたのは、ヨシアの戦いぶりだった。

 とてもじゃないけど、勝てる相手じゃなかった。

 あの時奇襲をかけなかったら、間違いなく私は殺されていた。

 でも、どうしてだろう。

 死が目前に迫っていたのに、まったく怖くなかった。

 むしろすごく楽しくて、ヨシアさんとずっと戦っていたかった。

 私も、相当頭をやられたみたいだ。

「何、ニヤけているの」

 我に返ると、ノイはキョトンとしていた。

「なんでもない」

「変なティア」

 ノイは、クスクス笑った。

「あ、そうだ。ノイ」

「なあに」

「アニスとレムは、どこに行ったの」

 ティアの問いに、ノイとファオは瞠目した。

 途端に、病室の空気が、一気に張りつめる。

 あ、そうだった。

 二人とも、死んじゃったんだ。

 何で、忘れていたんだろう。

 そう思った途端、胸がギュッと締めつけられた。

 こみ上げてきたのは、かつてないほどの悲哀。

 ティアの目から、涙がこぼれ落ちた。

「アニス、レム」

 ティアは、声を上げて泣いた。

 あやすようにティアの頭を撫でるノイも、泣いていた。

 顔を伏せたファオは、肩を震わせていた。

 戦いから解放されたティアは、ようやく二人の死を受け止めることができた。

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