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戦場のティア  作者: 白崎由宇
第一章 大学編
26/38

26 白馬のアニス様

 その日の実戦武術は、本物の武器を使用しての騎馬術だった。

 ただ、馬の健康面を考慮して、対戦ではなく型のみとなった。物足りなさはあるものの、大学が手塩にかけて育てた馬に、このような場面で怪我を負わせる訳にはいかない。

「久しぶり。元気してた」

 ティアがブルースの鼻をプニプニすると、嬉しかったのかブルースは舌をペロッと出した。

 再び五頭が用意されたが、一頭だけ明らかに大きかった。前回の騎馬術にはいなかった、黒鹿毛の巨漢馬だった。

「あれ、この前俺が乗っていた馬は」

 レムが訊ねると、ライドは肩をすくめた。

「あなたが重たかったから、あの子疲れちゃったのよ。だから、大学で一番大きな馬を用意したわ。名前はアンドレね」

「マジっすか」

 レムは、息をのんだ。巨漢馬アンドレは微動だにせず、レムのことを静かに見下ろしていた。

 剣と槍の好きな方を持って、五人はそれぞれ馬にまたがった。剣を持ったティアは、ブルースの座り心地の良さに思わずにやけた。

 圧巻だったのは、アンドレにまたがったレムだった。長槍を携えた巨漢の男が、がっしりとした巨漢の馬に乗っている。それだけでも、すさまじい迫力だった。

 剣術、槍術とふがいなかったレムが、アンドレにまたがると豹変した。頼りなさは霧散し、運動場を力強く闊歩した。

 この馬、やべえぞ。

 大きいのに、操作がとてもしやすい。

 レムは、感動すら覚えていた。

 試しに槍を大きく振ってみたが、アンドレの安定感のおかげで身体はまったくぶれなかった。

 調子に乗りすぎかもしれねえけど、アンドレと組んだら誰にも負けない自信が出てくる。

 レムは、ほくそ笑んだ。

 馬上で何度か剣を振ったティアは、レムの側に寄った。ブルースとアンドレは、挨拶するかのごとく鼻頭をくっつけた。

「どうだ、ティア。ビビってねえか」

 レムは、勝ち誇ったような笑みを向けた。

「そうだね」

 そう返事しつつも、ティアは頭の中でシミュレーションをしていた。

 まあ、向こうに飛び乗って、お腹に一撃でも入れたら楽勝かな。

 自信は過信。私も気を付けなくちゃ。

 反面教師となっているとはつゆ知らず、レムは颯爽とティアから離れていった。

「言っておくけど、最終試験に騎馬術はないから」

 ライドの言葉に、レムの顔から笑みが消えた。

「当たり前でしょ。この時代、馬はとても貴重なのよ」

「そんなあ」

 落胆したレムは、アンドレのたてがみに顔を埋めた。甘えるんじゃねえよ、とでも言いたげに、アンドレは鼻を鳴らした。

 ティアはブルースを駆りながら、剣を振り続けた。最初は真剣の重さにぐらつくこともあったが、徐々に慣れていき、それに合わせて剣も速くなっていた。

 戦場で先々代のフォートン三世は、少数精鋭の騎馬隊を率いて、自ら先陣に立っていたという。

 私も、ひいお爺様のようになれるかしら。

 いや、ならなくてもいいけど。

 複雑な思いが交錯しつつも、ティアの剣は鋭さを増していった。

 綺麗だなあ。

 グラスにまたがったノイは、ため息をついた。

 様になっている、という言葉さえ、陳腐に感じてしまう。

 あまりよくないことかもしれないけど、

 一度でいいから、戦場で馬を駆るティアを見てみたい。

 ノイは、そっと胸に手を置いた。

 鼓動が、手のひらに伝わってきた。

 運動場の片隅で、白馬に乗ったアニスは、一心不乱に剣を振っていた。

 私の相馬眼に、狂いはなかったわ。

 全然良い馬じゃない。

 アニスが大きく剣を振っても、白馬はどっしりと構えていた。まるで、歴戦を経験している名馬のようだった。

「白馬の王女様って感じで、かっこいいね」

 寄ってきたティアが嬉しそうに言うと、アニスは眉をひそめた。

「あなたは、もうちょっと立場をわきまえた方がいいわね」

「どういうこと」

「何でもないわ」

 目をそらしたアニスは手綱を強く振ると、白馬は慌ただしく離れていった。

 立場をわきまえろって。

 まさか、アニスは。

 遠ざかるアニスを見つめるティアの鼓動は、ふいに忙しなくなった。

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