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悪役令嬢になったので富国強兵目指します ~豚小屋令嬢はベアリングからざまぁします~  作者: 川合 佑樹


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第6話

 3日後、グランベルク領・北門前。

 朝靄の中、重装歩兵八十四名、弓騎兵三十六名だった。

 補給兵と従者合わせて総勢147名が整列していた。

 まるで黒い鉄の壁のように並んでいる。


 普段の定期補充なら当番順で淡々と送られるだけだ。

 だが今回は違う。

「アリスティア様の部隊に志願します」

 そう名乗り出た者だけが選ばれた。

 全員が自ら望んでここに立っている。

 しかも領内でも指折りの猛者たちだった。


 最後尾に兜を被り、顔を隠した騎士が一人。

 それがアリスティアだった。


 演台に立つヴィルヘルム団長が告げた。

「お前たちが何を望んでここに立っているかは百も承知だ。だが覚えておけ。我らが宝、我らが命。死ぬならお前たちが先に死ね。それが条件だ」

 全員が力強く頷いた。


 出立の直前、最前列の重装歩兵がガチャリと振り返った。

 兜の奥で目がぎらりと光った。

「我が命尽きるまで戦います!!」

 それを皮切りに、次々と声が爆発する。

「この命に代えても守り抜きます!」

「どこまでもお供します!」

「この俺がすべてをなぎ倒す!」


 兜の下、アリスティアはくすっと苦笑いを漏らした。

 右手だけを上げてみせた。

 瞬間、全員が一斉に右拳を胸に叩きつける!

 ガシャァン!!

 金属音が朝靄を切り裂いた。

 兵士たちの肩が熱く上下し、兜の奥で瞳が燃えている。

 レオハルトが隣の馬上で肩をすくめた。

「……完全に信仰の域ですよ、これ」

 アリスティアは兜の鍔を指で叩いた。

「知ってる。恥ずかしいから黙っててよ」

 馬の鼻息がぷはっと重なり、二人の影が朝靄の中で揺れた。



 四日目の昼下がり、斥候が駆け戻る。

「敵騎馬斥候、30! 距離2,000!」


 隊列がざわめき、生き物のようにうねり出す。

「弓騎兵、側面展開!」

 馬蹄がドドドッと地を蹴り、弓騎兵が左右に広がっていく。

「重装は楔形! 白百合を中心に固めろ!」


 重装歩兵たちが盾をガチャガチャ鳴らしながら前進した。

 アリスティアを中心に鉄の壁がぐぐっと押し寄せる。

 彼女は馬上で長剣をシュッと抜き、踵を返した。

「よし、私も出るわ!」


 次の瞬間、レオハルトの馬がガッと横から飛び出した。

 アリスティアの進路を塞ぐように立ち塞いだ。

 馬が鼻を鳴らし、蹄が土煙を巻き上げる。


 レオハルトは鞍上で体をひねらず、前を向いたまま低く告げた。

 アリスティアが眉を上げる。

「は? どいて、レオハルト」


 レオハルトは告げた。

「彼らはこのために志願したんです。白百合をただの一度も傷つけさせずに守り抜くことで、男を見せたいんですよ」


 すぐ背後で兜の下から息が荒く漏れた。

 声が次々と爆発する。

「白百合に指一本触れさせるな!」

 甲冑がぶつかり合いながら、

「俺たちの誇りをかけて!」

 地面を踏み鳴らし、

「ここで死んでも悔いはねえ!」


 アリスティアの背中に兵士たちの熱がどっと押し寄せた。

 彼女は一瞬言葉を失った。

「……バカばっかり」

 剣を鞘に戻し、代わりに右手を上げた。


「好きに暴れなさい!」


 その一言で皆が雄叫びを上げた。

「はっ!!」


 戦闘は本当に瞬きする間に終わった。

 シュッ、シュッ、シュッ!

 矢の雨が空を覆う。

 ガキィン! ガシャン!

 鉄がぶつかり、馬がヒヒーンと嘶く。

 重装歩兵たちは盾を掲げ、体ごと突進!

 ドン! ドン!

 敵陣に食らいつく。

 弓騎兵は馬を並べ、矢を連射した。

 敵騎馬が次々と崩れ落ちる。

 ――敵騎、全滅。

 こちらの損害は軽傷2名のみ。


 戦場が静まると重装歩兵が振り返る。

「白百合! ご無事ですか!?」

 アリスティアは馬上からふうっとため息をついた。

 呆れた顔で首を振る。

 それでも頬が緩み、口元に小さな笑みがこぼれた。

「かっこよかったわ。よくできました」

 兵士たちの顔を見回し、手を振った。

 全員が感極まったように拳を胸に打ち鳴らした。

 ガシャァン!!


 レオハルトが呟く。

「ほら、見ましたか。これが“白百合教”の聖戦です」

 アリスティアは首を振って空を見上げた。

「……これだけ讃えられていたら、私だってバレそうだけどね」


 遠くでまた誰かが叫んだ。

「白百合万歳――!!」



 五日目の夕刻、小高い丘の上。

 眼下に要塞都市エルデンが広がっていた。

 泥と血に塗れた防壁と土塁の線。

 敵味方の旗が交互に立ち並び、どちらも一歩も動けず。

 七年続き、死者三万を超える “永遠の泥”。


 アリスティアが呟く。

「……これが、前線」

 レオハルトが頷く。

「私も初めて見ましたが、悲惨ですね」



 要塞正門前。

 門番が槍を交差させる。

「名乗れ!」

 レオハルトが羊皮紙を差し出す。

「グランベルク領特別補充部隊。総勢147名」


 門が開く。

 中から甲冑を鳴らして一人の男が現れる。

 四十代半ば。

 堂々とした体躯。

 ゲルハルト・ヴァイスブルク中佐。


 彼は騎士の前で立ち止まると敬礼した。

「遅かったな、補充部隊……って、まさか!」

 アリスティアが兜を脱ぐ。

 金髪が夕陽に輝いて落ちる。

「お久しぶりです、ゲルハルト中佐」


 ゲルハルトは瞬間目を見開いた。

 ガチャリと片膝をついた。

「お嬢様……!?」

 瞳を熱く潤ませる。

「お目元が……領主様に瓜二つで……!」


 アリスティアは微笑んで右手を差し出した。

「およしください。今は上官なんですから」

 その一言にゲルハルトの肩がびくりと震えた。

「……17年前、あの“黒狼の夜”で俺は領主様に命を救われた。それ以来俺の命は領主様のものだ」


 彼はアリスティアをまっすぐ見据えた。

「そして今、領主様の血を引くお嬢様が自らこの戦場に立たれた。――俺の命、今日こそお返しするときが来た」


 レオハルトが一歩前に出る。

「レオハルト・クロウエル。アリスティア様の――」

 ゲルハルトが首を振って遮る。

「分かっているぞ、若造。だがここでは俺が領主様の娘を、命をかけて守る」


 アリスティアが二人の間に割って入る。

「はいはい、どっちが守るか競争は後にして」

 彼女はゲルハルトを見据え、告げた。

「私は観客でいるつもりはありません。戦いに来たんです」


 ゲルハルトの目が一瞬大きく見開かれた。

「……さすがアリスティア様だ」

 彼は懐から折りたたんだ羊皮紙を取り出し、恭しく差し出す。

「総司令――領主様より、直々の伝言です」

 アリスティアが封蝋を割り、読み上げる。

「『ゲルハルトへ娘を頼む。アリスティアが望むままに。――ギュスターヴ』」

 ゲルハルトは背筋を伸ばし、力強く敬礼する。

「ただ今より、アリスティア様を副司令補佐に任命いたします! 指揮系統は私が、実質的な作戦立案・実行はお嬢様の自由! アリスティア様の意志こそ我々の指針です!」


 そして一歩横に退き、奥の通路を示した。

「それと――ここでのお世話係として薔薇騎士団出身の女性補佐官三人をつけます。この要塞では“百合薔薇部隊”として活動していただきます」


 アリスティアが胸に手を当てる。

「百合薔薇部隊……畏まりました」


 背後でガチャ、ガチャ、ガチャッ!

 147名の兜が一斉に外され、顔が露わになる。

「お嬢様ぁぁぁ!!」

「領主様の娘ぁぁぁ!!」

「百合薔薇万歳ーーー!!」


 兵士たちが拳を振り上げ地面を踏み鳴らす。

 ゲルハルトまでもが目を潤ませ、感極まった顔で右拳を胸に叩きつけた。

 ガシャァン!!

 夕陽が甲冑を赤く染め、歓声が空に吸い込まれていく。

「副司令補佐! 早速司令室へご案内いたします!」

「領主様の娘の聖戦が、今始まる!!」


 かつて豚令嬢と嘲られた少女は147の狂信的な剣を手に入れた。

 ――これで、すべてが動き出す。



 ──王宮、深夜。

 重い扉をノックする音が響く。

「……入って」

 イザベラ王妃はまだドレッシングガウンを羽織ったまま、燭台の火を見つめていた。


 扉が開き、金髪の青年――ルドルフが入ってきた。

 いつもは完璧な王子らしい姿勢だが、今夜はどこか肩が落ちている。

「母上……まだお休みになっていなかったのですね」


 王妃は扇を開いた。

「少し考えごとをしていたのよ」


 ルドルフは一瞬唇を噛んだ。

「……アリスティアは、見つかりましたか?」

 王妃は振り返り、息子の顔を見て眉をひそめた。

「どうしたの、ルドルフ。そんな弱気な顔をして」


 ルドルフは低く呟いた。

「いえ……ただ、少し気になって。もしかして、私が何か間違っていたのかと」

 瞬間、王妃の目が鋭く細められた。

 彼女は立ち上がり、息子の前に歩み寄る。

「間違っていた? あなたが?」

 扇を閉じ、ルドルフの頰を撫でる。

「違うわ。あの女があなたを騙していたのよ。あなたは正しかった。完璧だった。あの女はあなたに相応しくないわ」

「……でも、報告では彼女は私のために頑張っていたと……」

「それはあの女の嘘よ。周りは同情しているだけ。本当の強さはあなたのような完璧な王子にあるの。あなたは私の誇りよ、ルドルフ。決して疑わないで」

「……はい、母上」

「ふふ……いい子ね。私のルドルフ」


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