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悪役令嬢になったので富国強兵目指します ~豚小屋令嬢はベアリングからざまぁします~  作者: 川合 佑樹


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第16話

 偵察部隊が帰還したのは、夕刻近く。

 馬たちがハァハァと荒い息を吐いていた。

 騎士たちの甲冑は泥にまみれていた。

 疲労の重さが伝わってくる。


 偵察隊長は玄関ホールに駆け込むなり、ドサッと膝を折った。

 肩で息をしながら額の汗を拭った。

「敵の動きを追跡してまいりました!」


 ギュスターヴが椅子から立ち上がった。

 隊長に近づく。

 足音がホールに響き、緊張が空気を張り詰めさせる。

「ご苦労。詳細を聞こう」


 隊長はテーブルにバサッと地図を広げた。

 泥だらけの指で敵の位置をトントンと叩きながら続けた。

「敵勢は総勢約1,500! 内訳はロンバルドの本軍800、これに便乗した他領の小貴族や傭兵300です。騎馬は全体の3割程度、残りは歩兵中心です。進軍は慎重ですが確実にこちらへ向かっています!」


 公爵が腕を固く組み、眉を寄せた。

「1,500か……。我が領の常備軍は800、予備兵を急ぎ動員しても1,100前後だ。なんとか立ち向かえるか」


 ヴィルヘルムがテーブルに身を乗り出した。

 地図を覗き込みながら炭を握り、シュッと敵の進軍ルートをなぞった。

「しかし敵は一部勢力が寄せ集めです。ロンバルドの本軍は練度があるでしょうが、他領の連中は忠誠心が薄い。指揮系統はバラバラ、補給線も長く伸びきっているはずです」


 レオハルトが地図の端を指でピシャリと指差した。

「敵の進軍速度から見て、峠を越えるのに手間取るでしょう」


 アリスティアが身を乗り出した。

「敵はまだ旧来の重装騎馬と密集歩兵を主体に動くでしょう。こちらは補給が安定し、兵一人ひとりの体力が底上げされています!」

 ギュスターヴが令嬢を見た。

「そうだな。改革がなければ劣勢はもっと深刻だっただろう」


 ヴィルヘルムが地図に新たな線を引いた。

「では初期配置を決めましょう。まず北の峠を塞ぎます。狭隘を利用して弓兵を配置すれば、敵の騎馬を半減できる。中央の平原で決戦を挑むなら、重装歩兵を楔形に──」

 レオハルトが割り込む。

「峠の守りは私の部隊で固めましょう。敵の先鋒を削れば本軍の負担が減ります」


 アリスティアが地図を指差しながら提案した。

「峠はいいですが、敵を正面から受け止めるのではなく側面から削る形にしませんか? 敵の補給線を狙う部隊を別動で回すんです。機動力が上がっている今なら可能だと思います」


 公爵が目を細めた。

「補給線を狙うか。確かに効果的だ。だが別動隊は誰に任せる?」

 ヴィルヘルムが笑みを浮かべた。

「騎士団から精鋭150名ほど出しましょう」


 レオハルトが眉を寄せ、少し心配げに口を挟んだ。

「別動隊の指揮はアリスティア様ご自身が?」

「私は本軍に残ります。全体の指揮をお父様とヴィルヘルムに任せ、私は弓兵の配置と新弓の活用を監督します」


 ギュスターヴが満足げに頷いた。

「よし。敵の進軍速度から見て会敵まであと5日は余裕がある。街道の要所で遅らせれば7日近く稼げるだろう。その間に予備兵の訓練を強化し、補給を万全に」

 レオハルトが拳を握った。

「馬車の強化が活きるはずです! 速度ではこちらが圧倒的に有利ですから!」


 軍議はそこで一段落した。


 公爵がアリスティアを見て言った。

「アリスティア、今日明日はしっかりと体を休めなさい。前線から戻ったばかりだ。無理は禁物だ」


 令嬢はヴィルヘルムに視線を移した。

「では明日レオハルトをお借りしても?」


 ヴィルヘルムは肩をすくめた。

「あぁ、もちろんだ。好きに使ってくれ」

 ギュスターヴが鼻を鳴らした。

「なっ……」

 アリスティアが笑う。

「お父様がおっしゃったのですよ。休息をいただきますね」


 レオハルトは表向き平静を保っていた。

 心の中でガッツポーズをし、机を掴む手が自然と強くなった。


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