第二十一話 廃墟別荘20
モンタルチーノ街、プリオーリ宮殿にて朝食を終え、ドングリ宮殿に向かいます。
二頭立て四人乗り馬車『フォルトゥーナ号』がフレンチーナ街道を北に駆け抜けます。
メンバーは、
御者席にクワッドことクワドリフォリオ。
車内は僕と、執事長兼メイド長のエリーゼです。
〜〜〜
「チュン、チュン♪」
「チッ、チッ、チッ、チッ♪」
ドングリ宮殿に到着します。
「ヒィヒィ〜ン♪」
フォルトゥーナの嘶きを聞いた、執事のワカバが顔を出します。
「お帰りなさいませ、トキン様」
「ただいま、ワカバ。何も問題なかったかな」
「はい、特に問題はありません」
皆で宮殿に入ります。
「お早う、みんな」
大食堂で食事をとる家人達へ挨拶します。
「「お早うございます。トキン様」」
「お早うございます。ご主人様」
「お早うだぞー、ご主人様」
「ニャフー」
外商部門のセドミン、セドポン。
料理部門のシュガーナ、クッキーノ、ニャンタ。
メイド部門のローニャ、トーヴァ、ラーラ達です。
ニコこと、ニコーレ・ミラノ侯爵令嬢と、専属メイド、狐獣人のポーラさんの姿はありません。
かけ寄って来たニャンタを、しゃがんでモフりながら聞きます。
「ニコ達は、朝食済んでるのかな」
「はい、ご主人様。既に食べ終え、自室にお戻りです」
シュガーナ料理長が答えます。
「わかった。ありがとう」
エリーゼメイド長に、馬車ごとに別けた【古代の逸品】と案を手渡します。
「エリーゼ、これ手分けして乗せておいてね」
「はい、トキン様」
エリーゼメイド長に、にっこりを贈ります。
三階の自室に移動します。
着替えて、ニコの部屋を訪ねます。
コン、コンッ♪
「ニコ、お早う。僕だよ」
「どうぞ、トキン」
ニコの部屋に入ります。
バスタオルを巻いた、ニコとポーラさんがソファに腰掛けてます。
立ち上がり言います。
「お早う、トキン」
「お早うございます。トキン様」
「うん、お早う。準備万端だね、さっそく行こうか」
クッキーノ副料理長から、甘味と飲み物を預かり、ドングリ宮殿を出発します。
クワッドを御者に、モンタルチーノ街へトンボ返りします。
プリオーリ宮殿で、アリスこと、アリーチェ・アレンツォ子爵令嬢と、専属メイドで栗鼠獣人のシーマさんを乗せます。
僕が御者となり、街から南方向にある秘境温泉に移動します。
クワッドは、トツカーナ伯爵家の馬車を操ります。
車内には、
ソフィこと、ソフィア・トツカーナ伯爵令嬢。
ティナこと、マルティーナさんが乗ってます。
先行するクワッドが操る馬車の後ろを、ゆっくりパカパカ進みます。
十分ちょっとで「秘境温泉」に到着します。
前回、ソフィと一緒に訪れた際、偶然アリスと出会い友達になった、思い出の地でもあります。
今回は、アリスも含めた四人の婚約者との思い出を作りたいと思います。
四人の婚約者と秘境温泉を楽しみます。
森の中にある、石灰で白く覆われた不思議な空間です。
そこに居るだけで、何故かワクワクしてきます。
クワッド、ポーラさん、シーマさんの獣人チームは、真っ直ぐ天然のすべり台へ駆け出します。
水着でも、尻尾は出るようにデザインされているようです。
クワッドの水着だけ、白と水色のボーダー柄です。
とても似合っていて、可愛らしいです。
ポーラさんとシーマさんは、紺色のワンピースタイプの水着です。
二人ともとても可愛らしいです。
モフモフ尻尾、さわりたいです。
人と獣人の差は、耳と尻尾だけです。
けれども、とても大事な部分でもあるそうです。
本人の許可なく触るのは、絶対に駄目らしいです。
たとえば、僕がソフィのお胸やお尻を、許可なく触ったら怒られます。
婚約者であってもです。
どうも、そんな感覚らしいのです。
だからクワッドの耳も尻尾も、触ったことはありません。
「ニコ、獣人の人達の尻尾を出すデザインは、やっぱり大変なの」
ニコに聞いてみます。
「デザインは問題ないわ。お尻の上部に、小さなバッテンの切り込みを入れるだけよ。ただし着替えるのは少し大変みたいね」
「なるほどね〜。そうだ、みんな鬼ごっこしようか。僕が鬼をやるからさ」
〜〜〜
秘境温泉で、ティータイムです。
「このマロンケーキ美味しいわ」
「アイスミルクとの組み合わせも完璧ね」
「とても上品な味ですね」
「本当に美味しいわ」
ソフィ、ニコ、ティナ、アリスが感想を言います。
「は〜、ニコ様の旅について来て、私は幸せなのです」
ポーラさんもニコニコです。
確かに、ぱさついた感じがなく、シットリして美味しいです。
「クッキーノが多めに持たせてくれたから、馬車の冷蔵庫におかわりあるからね」
「トキン様、オイラおかわり頂いてもいいですか」
クワッドが言います。
「もちろんだよ。こんなに美味しい甘味を残して帰ったら、料理長達にわるいからね。みんな、どんどん食べてね」
〜〜〜
ティータイムを終え、馬車で着替えます。
モンタルチーノ街のプリオーリ宮殿で、ソフィとティナと別れます。
「ソフィ、ティナ。早くドングリ宮殿に顔をだしてね。二人の居場所はドングリ宮殿だからね」
「ええ、必ず行くわ。フフフ」
「トキンさん、私も必ず行きますね」
「うん、待ってるからね」
ソフィとティナと、笑顔で別れます。
僕とクワッドが御者席に移ります。
車内には、ニコ、アリス、ポーラさん、シーマさんです。
ドングリ宮殿に向けて、フォルトゥーナ号が駆け出します。
〜〜〜
ドングリ宮殿 一階 大食堂
「やあ、みんな。お待たせ」
鑑定屋『トキンの虫眼鏡』の店長会議です。
出席メンバーは、
シェーナ街本店。店長の僕、副店長エリーゼ。
ベニス街店。店長ビアンカ、副店長ジュリア。
ミラノ街店。店長ヒロン、副店長ホホン。
モンタルチーノ街店。店長クワッド、副店長アリス、手伝いシーマさん。
それと執事のワカバ、外商部門のセドミンとセドポンです。
鑑定屋を引き受けてくれた、仕事仲間の四人もいます。
午前中に、執事のワカバが幌付き小型荷馬車『アルクトゥルス号』で迎えに行ったのです。
「それじゃあ、エリーゼ。決め事の伝達を頼むね」
エリーゼ執事長兼メイド長から、説明が始まります。
営業時間は、
冒険者が街に帰る、夕暮れ前から日没一時間前まで。
休日は、週一日。
最初に運転資金として500万ゴルド手渡す。
売上の送金は、原則必要なし。
その中から、買取り費用とお給金などの運転資金を差引く。
最低500万ゴルドを手元に残し、余剰金は各地のモンデパイ銀行へ預けておく。
高額買取りなど、必要に応じて引き出し使用する。
【古代の逸品】(良品)の買取り額は、価値の30%に引き上げ、買取りした店で、価値の80%で販売する。鑑定書付き。
「一般品」(良品)の買取りは、価値の20%に引き下げ、近隣の専門店に25%で卸売り処分する。
【古代の逸品】と「一般品」の(不良品)欠片・素材は、1キロあたり10,000ゴルド(銀貨一枚)で買取り、月に3回シェーナ街のヴェネート公爵家別邸へ「仕入販売報告書」と一緒に、エリーゼ執事長兼メイド長宛に送る。
例外として、
【古代の逸品】の中で効果が「幸運+1」の幸運アイテムは、価値の100%で買取り。
これは、良品不良品問わず100%で買取り。
また良品の中で珍しい【古代の逸品】、宮殿や馬車で役立つと考えた【古代の逸品】も、上限を価値の100%として自由裁量で買取りしてよい。
この例外買取り品は、月3回の定期発送時に送る。
今後、フランネル織物や、赤ワイン『ブルネッロ』『ロッソ』、人気ブランド『スクルミッツォ』の水着など取り扱い品目が増える可能性もある。
緊急事態の際は、ヴェネート公爵家、ミラノ侯爵家、モンタルチーノ子爵家を遠慮なく頼ること。
以上の説明がなされます。
「何か質問はありますか」
エリーゼメイド長が聞きます。
皆、顔を横に振ります。
「では、私の方からは以上になります」
「ありがとう、エリーゼ」
ヒロン店長達をみて言います。
「ヒロン、ホホン、ビアンカ、ジュリア。セドポンがいない間、実際に鑑定士をやってみてどうだった」
感想を聞きます。
「思ってた以上に、接客が楽しくて。それに日中は、素材の拾い集めを出来るし、丁度良い時間配分です」
「ほほ~ん、トキン様。読み書き計算に鑑定スキル。某は今、楽しいでござる」
「早く、ベニス街のお店に行きたいです。街も素敵だと聞くし♪」
「トキン様、私も鑑定士楽しいです。ベニス街は女性のお客さんが多いと聞いてるので、接客が楽しみです」
四人とも好印象のようです。
特に一番幼かったジュリアが、四歳になり受け答えがしっかりしてます。
これなら安心できます。
「そうか、みんな僕のお店頼むね。特にミラノ街店は初めて開店させるからね、ヒロン、ホホンしっかり頼むね。ベニス街店は裏手に専用のゴンドラもあるから、水路で練習して慣れたら運河に出てもいいからね。ただし壊さないようにね、ピッピーノ守備隊長が悲しむからさ」
店長会議を終えます。
運転資金、紹介状、貴族家への手土産を手渡します。
ヒロン達、四人をワカバ執事がシェーナ街まで送ります。
ベニス街店を任せる、ビアンカ、ジュリアの二人は今日のうちに出発するそうです。
ミラノ街店を任せる、ヒロン、ホホンの二人は明後日の乗合馬車で出発するそうです。
元々、真面目な四人です。
貧しくとも盗みを働いたりせず、一生懸命に働き生きていた四人だからこそ、お店を任せる気になったのです。
信用し期待しています。
モンタルチーノ子爵から預かった賠償金を分けます。
僕、エリーゼ、クワッド、アリスの四人で四等分します。
僕の取り分は、数日だけ手伝ってくれたピッピーノとシーマさんに半分こしてあげます。
三階の自室に向かいます。
少しだけ模様替えします。
廊下の突き当り二部屋を僕が使っています。
向かって左側が、書庫兼、執務室兼、応接室でした。
ですが、家人達の持ち込んだ本が以外と多かったのです。
シュガーナ料理長が持ち込んだ「調理」関係の本。
手習いメイドのトーヴァが持ち込んだ「恋愛」関係の本。
執事のワカバが持ち込んだ「経営」関係の本などです。
僕も「虫」関係の本と、建国物語『王様と時の扉』を置きます。
この書庫を開放して、みんなが自由に使えるようにします。
そこで、執務室と応接室を、僕の寝室に移します。
と言っても、応接セットのソファとテーブルは残します。
僕の寝室にも有るからです。
執事机と椅子をマジックバッグに入れます。
廊下から向かって右手の寝室に、執務机と椅子を配置します。
ちなみに、書庫の隣の部屋がエリーゼ執事長兼メイド長の部屋です。
こちらは建物正面側で東向き(フレンチーナ街道方面)です。
執務室兼寝室の、隣の部屋がソフィの部屋になります。
こちらは建物裏手側で西向き(プライベート温泉方面)です。
椅子に腰掛け考えます。
先程の店長会議の続きの話です。
エリーゼ執事長兼メイド長と、相談して決めた案があります。
それは卸売り先と販売先の利益率アップについてです。
シェーナ街の武器防具卸売り先『幻の左ストレート』には、欠片・素材から修復した武器防具のみ、価値の25%で卸します。
これにより、利益率約25%を出します。
同じくシェーナ街にある「一般品」の家具雑貨販売先『サリンベーニ商会』にも、欠片・素材から修復した家具雑貨のみ卸します。
ここは、配達人と販売員のコストがかさむので維持費が高くなります。
売上の約50%を維持費とみなし、利益はサリンベーニ商会長と半分となるので、利益率は約25%を目指します。
モンタルチーノ街にある【古代の逸品】専門店にも、欠片・素材から修復した小物雑貨のみ卸します。
ここは維持費が安いです。利益をモンタルチーノ子爵と半分こにするので、利益率約40%を目指します。
これまでは、商品の補充ありきで仕入原価の高い「良品」も卸販売していましたが辞めます。
ミラノ侯爵の手配により、ミラノ街からも欠片・素材が届くようになり、「修復」したものだけで補充が間に合うからです。
また、カイン王国の主要都市にある「ポーロ商会」が送ってくれる欠片・素材の量も多いです。
順調に回っています。
ポーロ商会といえば、フィレンツ街にあったポーロ商会フィレンツ支店を閉店したそうです。
不景気になる気配を、先読みしての処置だと聞きました。
先読みと言っても、それを仕掛けているのは僕とポーロ商会なのでなんとも言えません。
シェーナ街にも、ポーロ商会が出店してくれたら嬉しいのですが、シェーナ街には大きな出店場所が残っていません。
今度、モンデパイ銀行のバンコ頭取に相談してみます。
そういえば、ドングリ宮殿守備隊のメンバーが「食料ダンジョン」の本格調査に入ったそうです。
持ち帰るアイテムによっては、新たな可能性が広がります。
結果報告が楽しみです。
他にも色々やることを考えています。
ワクワクする気持ちです。
ですが、今後はもっと自分の時間と、婚約者との時間を大事にしたいと思います。
まずはこの後、ドングリ宮殿の周囲を散歩して、虫の観察をしたいと思います。




