第十八話 廃墟別荘17
ワイン祭 六日目
僕は今、シェーナ街とモンタルチーノ街のちょうど中間辺りにあるドングリ宮殿にいます。
滞在メンバーは、
ニコこと、ニコーレ・ミラノ侯爵令嬢。
ニコの専属メイド、狐獣人のポーラさん。
僕の家人で騎士のピッピーノです。
本来は朝食後に、モンタルチーノ街の南にある秘境温泉に行く予定でしたが急遽変更しました。
昨日採用した宮殿料理人達が、今日から来てくれることになったからです。
僕の家人で、狸獣人のクワッドを御者に、エリーゼメイド長が迎えに行ってます。
大歓迎で向かい入れる気持ちなのに、誰もいない宮殿では困ります。
そこで秘境温泉は、明日以降に持ち越しました。
僕がまだ馬車を一台しか持っていないという事情もあります。
ヒヒィ〜ン♪
馬の嘶きが聞こえます。
また、さらに嬉しい誤算もありました。
一頭立て二人乗りの馬車が到着します。
公爵家別邸で執事、馬丁、園丁の見習いをしていたワカバ(十二歳男性)を御者に、三人の女の子が到着します。
大人二人乗りの馬車に、三人で乗って来たようです。
ベニス街を拠点に冒険者をしていたメイド候補の三人組が、昨日シェーナ街のヴェネート公爵家別邸へ到着したのです。
エリーゼメイド長が、シュガーナさん達を送った帰りに、公爵家別邸へ鶏肉と卵のおすそ分けに寄った際、ちょうど到着したのです。
三人は、手紙を受け取った当日に、シェーナ街行きの「欠片・素材」運搬用の定期荷馬車に乗ってやって来てくれたのです。
こんなに早く来てくれるとは思いませんでした。
とっても有り難いことです。
僕とピッピーノが宮殿前で迎えます。
かけ寄って声を掛けます。
「ワカバ、よく来てくれたね。これからよろしくね」
にっこり伝えます。
「はい、トキン様。これから宜しくお願い致します」
ワカバが礼儀正しく頭を下げます。
ワカバには、「見習い」を卒業して執事、馬丁、園丁として、エリーゼ執事長兼メイド長を支えてもらいます。
ワカバが、馬車の扉を開けます。
少し懐かしい顔ぶれの三人です。
「トキン様、またお会いできて光栄ですわ。お声がけ頂き感謝致しますわ」
「ご無沙汰しておりますの。トキン様に逢いたくて、荷馬車に飛び乗って来ましたの」
「もう、トキン様に会えないかと思ってたのん。呼んで頂いて本当に嬉しいのん」
ボローニャ伯爵家ご令嬢ローニャさん。
特徴は、語尾が「〜わ」。歯ぎしり。土魔法。「家事」スキル持ち。
マントヴァ子爵家ご令嬢トーヴァさん。
特徴は、語尾が「〜の」。卑猥な寝言。
フェラーラ男爵家ご令嬢ラーラさん。
特徴は、語尾が「〜のん」。牛のようなイビキ。ユニークスキル『按摩』持ち。
全員六歳で、『行き場のない次女』という名の冒険者パーティを組んでいます。
「ローニャさん、トーヴァさん、ラーラさん。よく来てくれたね、歓迎するよ。さあ、ドングリ宮殿を案内するよ。ついてきて」
ドングリ宮殿に招き入れます。
「綺麗だわ」「素敵なの」「憧れの環境なのん」キャッキャ言ってます。
まずは二階左手の使用人室へ案内します。
三人には、とりあえず「手習いメイド」になってもらいます。
手習いメイドとは、貴族家令嬢が高位の貴族家にて、少しのお給金をもらいながら住込みで働き、家事仕事をおぼえる立場になります。
その後は、実家が嫁ぎ先を決めたり、実家に呼び戻されたり、そのまま働き続けたりと選択肢があります。
「二階の左手が、女性用の部屋になるよ。まだ誰も使ってないから、好きな部屋を使ってね。あと手前が水回りね。荷物を置いたら、食堂でお茶にしょう」
三人が部屋を決めます。
手前の三部屋を使うようです。
四人で厨房へいきます。
「うちの料理長達が作ってくれた、ズコットとジェラートが冷蔵庫に少し残ってるからみんなで食べよう。ローニャさん、八人分、切り分けてくれるかな」
「はい、かしこまりましたわ」
ローニャさんが、綺麗な所作でズコットを切り分けます。
「トーヴァさん、食器棚からお皿とフォークとスプーンお願いね」
「はい、トキン様。お任せなの」
トーヴァさんが、手際よく食器を用意します。
「ラーラさんは、ジェラートを準備してくれるかな」
「はい、お任せなのん。あら、氷に包まれてる。凄い冷えてるのん」
ラーラさんが、びっくりしながらジェラートを分けます。
「はははっ。うちの副料理長は、氷魔法使いだからね。もうすぐ料理長達も到着する予定だよ」
お話しながら、僕はトレイを二つ用意します。
トーヴァさんが、ズコットとジェラートをトレイに乗せます。
「ラーラさん、ワカバとピッピーノが、宮殿を出て右手にある厩舎にいるはずだから呼んできてもらえるかな」
「はい、行ってまいりますのん」
笑顔で駆け出します。
「ローニャさん、三階左手の奥から二番目の部屋に、ニコーレ・ミラノ侯爵令嬢と専属メイドのポーラさんがいるから呼んで来てもらえるかな」
「そんな高貴な御方が。わかりましたわ」
少し緊張気味に厨房を出ます。
八人が大食堂に集まります。
早めのティータイムです。
簡単に自己紹介しながら、甘味と会話を楽しみます。
ヒヒィ〜ン♪
馬の嘶きが聞こえます。
今度は誰が到着したのでしょうか。
執事のワカバと、騎士のピッピーノが確認に向かいます。
エリーゼメイド長に続いて、シュガーナ料理長と、頭に仔猫のニャンタを乗せたクッキーノ副料理長が大食堂に顔をだします。
「三人とも、待ってたよ。今日からよろしくね」
にっこりで出迎えます。
「はい、ご主人様。よろしくお願い致します」
「よろしくだぞー」
「ニャフー」
三人がペコリと頭を下げます。
「ご主人様、今日の甘味もすぐご用意できます。いかがなさいますか」
シュガーナ料理長が言います。
「もうすぐ、他のメンバーも来るから、それからにしようかな。エリーゼ、さきに使ってもらう部屋に案内してくれるかな」
「はい、トキン様。かしこまりました。では料理長、副料理長、ニャンタ行きますよ」
四人が厨房を後にします。
ヒヒィ〜ン♪
また馬の嘶きが聞こえます。
今は外に、ワカバ、クワッド、ピッピーノがいるはずです。
対応を任せます。
大食堂に六人が入ってきます。
執事のワカバを先頭に、
ソフィこと、ソフィア・トツカーナ伯爵令嬢。
ソフィの専属メイド、バーヤさん。
ティナこと、マルティーナさん。
アリスこと、アリーチェ・アレンツォ子爵令嬢。
アリスの専属メイド、栗鼠獣人のシーマさんです。
続いて、エリーゼメイド長と料理長達が大食堂に顔をだします。
「料理長、みんなに飲み物をお願いするよ」
「はい、ご主人様。ただいまお持ちします」
料理長達が厨房へ向かいます。
よく冷えた氷入りのハーブティーが並びます。
ヒヒィ〜ン♪
またまた馬の嘶きが聞こえます。
執事のワカバが様子を見に行きます。
しばらくして、ワカバを先頭に四人が大食堂に顔をだします。
サリンベーニ商会の、サリンベーニ商会長。
サリンベーニ商会の副商会長ポジションで僕の家人セドミン。
セドミンの弟で、シェーナ街の鑑定屋を任せている、家人のセドポンです。
「やあ、よく来てくれたね。早速だけどサリンベーニには、家具の設置をお願いするよ。ソフィ達は一緒に部屋に行って、設置場所を伝えてあげてね」
サリンベーニ商会長と、婚約者四人と専属メイドが大食堂を出ます。
「セドミン、セドポン。よく来てくれたね。まずは部屋の案内をするから荷物を置いて、また大食堂に来てね。エリーゼ、頼むね」
「わかったわ。フッフ〜ン♪」
「わかったぽ〜ん♪」
「あれ?ぽ〜ん兄ちゃんだぞー」
「ニャフー」
「おっ、クッキーノ、ニャンタもいるぽ〜ん。また後でぽ〜ん♪」
三人が大食堂を後にします。
「ふう、一気に増えたね。なんだか嬉しいな。料理長、ティータイムの準備をお願いするよ」
僕はにっこり言います。
「はい、ご主人様」
「私達も手伝います」
シュガーナ、クッキーノ、ニャンタ、ローニャ、トーヴァ、ラーラが厨房に向かいます。
なんだか大家族になった気分です。
嬉しい気持ちと同時に、これから頑張るぞと気合いも入ります。
「トキン様、家具の設置が終わりました。鉄扉はどこに設置しますか」
サリンベーニ商会長が言います。
「今行く。ワカバ、ピッピーノ手伝って」
四人で階段右手に移動します。
大穴があいてます。
「ここなんだ」
サリンベーニが、マジックバッグから鉄扉を取り出します。
ピッピーノが、階段下に入り裏側から鉄扉を支えます。
ワカバは表から鉄扉を支えます。
サリンベーニは横から支えます。
僕は隙間に両手をかざします。
「『修復』」
階段下の壁と、鉄扉の隙間が埋まります。
サリンベーニが扉を開けます。
長めのネジで鉄扉を複数箇所、固定します。
何度か扉の開閉を試して、問題無いことを確認します。
「サリンベーニありがとう。みんなでティータイムにしよう」
大食堂に戻ります。
ティータイムの準備がととのっています。
家人も含め、全員着席してもらいます。
僕は立ち上がりいいます。
「それぞれ自己紹介は、食べながら後でしよう。まずはシュガーナ料理長、今日の甘味の説明を頼むね」
僕は着席し、料理長が立ち上がります。
「はい、ご主人様。本日の甘味はパネットーネになります」
「おお〜」「もうそんな時期」と歓声が上がります。
パネットーネは、ここカイン王国において、年末年始に食べる定番の甘味です。
「パン生地にレーズン、オレンジピール、レモンピール、プラムのドライフルーツをラム酒に漬けて刻んだものを混ぜ込み焼いております。付け合わせに、ジェラートを添えてお召し上がり下さい」
拍手がおこります。
みんな甘味が大好きです。
「みんなで頂こう。いただきま〜す」
「「いただきまーす」」
みんなで楽しく過ごします。
〜〜〜
落ち着いたタイミングで、立ち上がっていいます。
「食べながらでお行儀悪いけど、みんなに僕の婚約者達を紹介するよ」
まずは、ソフィの横に立って紹介します。
ソフィも立って挨拶します。
次にニコ、ティナ、アリスと紹介していきます。
「次は、このドングリ宮殿の執事長兼メイド長のエリーゼから、順に隣の人が自己紹介をしていってもらうよ」
順番に挨拶していきます。
みんなの挨拶が終わります。
〜〜〜
サリンベーニが立ち上がりいいます。
「トキン様、それと料理長。美味しい甘味ご馳走様でした。私は商会に戻りますが、小さい荷馬車一台を、この宮殿に置いていこうかと思いますがいかがでしょうか」
思わぬ提案です。
「すごく助かるけどいいの」
「もちろんです。馬もまだ二歳の牡馬♂で、これからどんどん働いてくれるはずです。馬の名前はアルクトゥルスです。可愛いがってやって下さい」
「ありがとう、サリンベーニ。すごく嬉しいよ」
にっこりでサリンベーニを見送ります。
セドミンとサリンベーニが御者となり、二台の荷馬車で来ていたそうです。
馬車といえば、執事のワカバが乗って来た、一頭立て二人乗りも増えました。
馬車不足は、今朝も痛感したばかりなので、本当に助かります。
「ワカバ。ワカバが乗って来た馬車馬の名前を教えて」
「はい、トキン様。名前はプレアデス、二歳の牡馬♂です」
執事のワカバが答えます。
「そうか、アルクトゥルスとプレアデスか。二頭とも星の名前だね。後で二頭と仲良くならないとね。楽しみだな〜」
「トキン様、フォルトゥーナの妹は名前があるのですか」
ワカバが質問します。
「うん、昨日良い名前をもらったんだ、スペランツァだよ」
「スペランツァ。フォルトゥーナとスペランツァ、とっても良い名前ですね」
ワカバが褒めてくれます。
「うん、僕も気に入ってるんだ」
〜〜〜
ティータイムを終えて、各自部屋に移動します。
僕の執務室に、エリーゼとワカバが来ます。
「ワカバ、このドングリ宮殿のカギを預けるよ」
昨夜ピッピーノに、八つに割ってもらい僕が修復して増えた、カギの一本を手渡します。
僕も一本持って、残り六本はエリーゼに預けてます。
「今日もそうなるけど、僕とエリーゼは出掛けて留守の時が多い。留守の間はワカバが頼りだよ」
「はい、トキン様。お任せ下さい」
ワカバが元気に返事をします。
この後の打ち合わせをします。
僕、エリーゼ、クワッド、アリス、シーマさんは、鑑定のため、モンタルチーノ街へ行き、そのままプリオーリ宮殿離宮に泊まります。
使用する馬車はフォルトゥーナ号です。
ソフィ、ティナ、バーヤさんは、バーヤさんを御者にトツカーナ伯爵家の馬車にて、モンタルチーノ街へ行きプリオーリ宮殿離宮に泊まります。
今日からドングリ宮殿に残って泊まるのは、
仕事があるニコ、ポーラさん。
料理長達三人。
メイド達三人。
護衛としてピッピーノ。
そして執事のワカバとなります。
今夜から食事が必要なのは、宮殿に残るこの十名分。
不測の事態で戦力となるのは、
騎士のピッピーノ。
副料理長のクッキーノ。
厨房の守護者のニャンタ。
以上の三名であることを確認します。
「トキン様、料理長達三名は使用人室ではなく、厨房奥の食糧庫での寝泊まりを希望しております」
「えっ、そうなの?確かに食糧庫もワイン貯蔵庫もガラ空きだけど」
エリーゼメイド長に聞き直します。
「はい、何でも食料の在庫がすぐ確認出来て、ニャンタも自由にパトロールでき、何より食べ物に囲まれている環境が落ち着くらしいのです」
「う〜ん。まあ本人達の望む環境の方がいいのかな。確かにこの場所は、野ネズミも多そうだし、ニャンタは宮殿内を自由にパトロール出来た方がいいのかもね。エリーゼに任せるよ」
「はい、では後ほど許可を伝えておきます」
僕は頷きます。
食糧庫に住みたいとは驚きました。
根っからの料理人のようです。
「それとワカバ、ニコとポーラさんの要望にはきっちり応えてあげて。仕事が押してるみたいだからね。料理長に言って、軽めの夜食か甘味の差し入れもさせてね」
「はい、かしこまりました」
〜〜〜
打ち合わせを終えます。
夕方前にモンタルチーノ街へ着くようフォルトゥーナ号で出発します。




