第十九話 廃墟別荘18
ワイン祭 最終日
僕は今、フレンチーナ街道を北に向けて移動しています。
朝食を終え、ドングリ宮殿を目指しています。
旅のお供は、
アリスこと、アリーチェ・アレンツォ子爵令嬢。
アリスの専属メイド、栗鼠獣人のシーマさん。
ドングリ宮殿、執事長兼メイド長のエリーゼ。
御者で狸獣人のクワッドです。
四人乗り馬車『フォルトゥーナ号』を引くのは、愛馬フォルトゥーナと、その妹スペランツァの二頭です。
馬車移動特有の揺れも、ほぼ感じることなく、また速度も全く落ちずに駆け抜けます。
あっという間に、ドングリ宮殿に通じる小道に入ります。
S字に曲がるクネクネ道も、二頭には既に通りなれた道です。
緩やかな坂を登りきり、ドングリ宮殿に到着します。
フォルトゥーナ達の嘶きを聞きつけた、執事のワカバが鉄扉を開けて、宮殿外に顔をだします。
「トキン様、お帰りなさいませ」
「うん、お早うワカバ。異常は無かったかな」
「はい、何も問題はありませんでした」
「わかった」
ワカバとクワッドに馬車を任せて宮殿に入ります。
誰かいるかと、大食堂に顔をだします。
腰に片手をあてて、ミルクを一気飲みする後ろ姿を見つけます。
飲み終えるのを待って、声を掛けます。
「お早う、ポーラさん」
空になったグラスを片手に、狐獣人のポーラさんが振り返ります。
「トキン様、お早うございます。お帰りなさいなのです」
ペコリと頭を下げます。
唇の上を白く染めたポーラさんが笑顔をみせます。
「うん、ただいま。それでどうかな」
「はい、バッチリなのです」
曖昧な質問に、はっきり答えます。
「わかった。エリーゼ、みんなを食堂に集めてもらえるかな。ポーラさんもニコを呼んで来てもらえるかな」
「はい、トキン様」
エリーゼメイド長とポーラさんが、大食堂を出ていきます。
僕は、長いダイニングテーブルの一番奥の席に座ります。
いわゆるお誕生日席です。
大食堂入口からみて奥の壁側の席にアリスが着席します。
僕の席から、一つ空けて座ったのは、ニコの席を確保したのでしょう。
アリスの後ろに、専属メイドのシーマさんが立ちます。
大食堂にショルダーバッグをかけたニコこと、ニコーレ・ミラノ侯爵令嬢と、専属メイドのポーラさんが入ってきます。
「トキン、お早う」
「ニコ、お早う」
立ち上がり、笑顔で出迎えます。
「ドングリ宮殿での宿泊初日の感想はどうかな」
「とっても気持ち良い目覚めだったわ。朝方、変な鳴き声の鳥がいたけど、副料理長とニャンタが静かにしてくれたわ」
上々のようです。
機嫌良く、僕の隣に着席します。
専属メイドのポーラさんは、ニコの後ろに立ちます。
「お早う、アリス。シーマさん」
「お早う、ニコ。ポーラさん」
二人の婚約者とメイド達が挨拶を交わします。
エリーゼメイド長が、僕の家人を引き連れて大食堂に入ってきます。
僕は立ち上がって、みんなに声を掛けます。
「みんな、お早う」
「「お早うございます」」
「みんな、空いてる席に座って」
全員が着席するのを待って、立ち上がり言います。
「これから、君たち家人の役割を伝えるよ。見届け人は、ここで同居するニコーレ・ミラノ侯爵令嬢とアリーチェ・アレンツォ子爵令嬢にお願いするよ。まずはエリーゼ、僕の横に来て」
「はい、トキン様」
エリーゼが僕の横に立ちます。
「エリーゼには、ここドングリ宮殿の執事長兼メイド長を命ずる。皆、エリーゼの言葉は、僕の言葉だと思って従うように」
ニコが僕の横に立ち、マジックバッグから、真新しいメイド服を取り出します。
僕が受け取り、皆に見せます。
濃紺のメイド服です。
襟口、袖口、スカートの裾は銀糸をまとっています。
左腕上部には、ヴェネート公爵家の紋章『有翼の獅子』のエンブレムが付いています。
「このメイド服は、ミラノ発の人気ブランド『スクルミッツォ』の特別オーダー品だ。左腕上部に位置する、公爵家の紋章の下の、白色の二重線は、執事長とメイド長を意味する。頼りにしてるよ、エリーゼ」
エリーゼが両手で受け取り、胸に抱きます。
「はい、賜りました。トキン様」
エリーゼがニコリと笑顔を見せます。
僕も笑顔で頷きます。
拍手がおこります。
エリーゼの着席を待って、次に声を掛けます。
「続いて、ワカバ。こちらに」
「はい」と返事をしてワカバが来ます。
「ワカバには、ここドングリ宮殿の執事兼、馬丁兼、園丁を任せる。皆、僕とエリーゼが留守の際には、ワカバに相談するように。ワカバ、頼んだよ」
ニコから紺色の上着を預かり、皆に見せます。
襟、袖口、裾に銀糸をまとい、左胸のポケットには、公爵家の紋章『有翼の獅子』の刺繍が施されています。
ワカバ執事が、頭を下げ両手で受け取ります。
「賜りました、トキン様」
ワカバがやる気です。
「続いて、セドミン、セドポンこちらへ」
二人が僕の横に立ちます。
「二人には、僕が新設した非常に重要な役割を任せる。それは外商部門だ。主な商品は二つ。フランネルの高級織物と、高級赤ワインブルネッロの販路開拓になる。更には、新たな取り扱い商品の発掘。有益な古代の逸品と、有能な人材の確保を頼む。期待してるよ、セドミン外商長、セドポン副外商長」
ニコから、上着を二着預かり手渡します。
姉のセドミンの上着の左袖には、外商長を示す白線が一本通ります。
「賜りましたわ、トキン様。フッフ〜ン♪」
「トキン様、賜りましたぽ〜ん♪」
二人が嬉しそうに着席します。
「続いて、シュガーナ、クッキーノ、ニャンタこちらへ」
二人が僕の隣に立ちます。
ニャンタは、クッキーノの頭の上です。
「シュガーナには、料理長兼、菓子職人を命ずる。来客は基本、貴族家の者だと思ってほしい。美味しい食事と甘味を期待してるよ」
紺色のメイド服を手渡します。
左腕の紋章の下には、長を現す白線が一本通ります。
「はい、賜りました。ご主人様」
「クッキーノには、副料理長兼、菓子職人兼、地下食糧庫管理とドングリ宮殿守備隊隊員を任せる。頼んだよ」
紺色の上着を手渡します。
「賜ったよー。ご主人さまー」
「ニャンタには、厨房の守護者兼、地下食糧庫管理とドングリ宮殿守備隊隊員を命ずる。頼りにしてるよ」
紺色の腹巻きを巻いてあげます。
背中の銀色の紐でサイズ調整が可能になっています。
もちろん、ヴェネート公爵家の紋章入りです。
「ニャフ〜ン♪」
三人がニコニコして、着席します。
「続いて、ローニャ、トーヴァ、ラーラ、こちらへ」
三人が僕の隣に立ちます。
「三名には、手習いメイドとして宮殿管理を手伝ってもらう。掃除、洗濯、買物、食事の手伝いと忙しいと思う。期待してるからね」
紺色のメイド服を手渡します。
「トキン様、賜りましたわ」
「トキン様、賜りましたの」
「トキン様、賜りましたのん」
「次は、クワッド。ここへ」
クワッドが僕の横に立ちます。
「クワッドには、馬丁兼、ドングリ宮殿守備隊隊員兼、モンタルチーノ街に新たに出店する、僕の鑑定屋店長を命ずる。頼んだよ」
紺色の上着を手渡します。
「はっ、オイラ賜りました」
クワッドがペコリとお辞儀します。
「最後にピッピーノ、ここへ」
ピッピーノが僕の横に立ちます。
「ピッピーノには、ドングリ宮殿守備隊隊長兼、馬丁兼、僕の騎士を命ずる。守りの要だ、頼んだよ」
白線が一本通った、紺色の上着を手渡します。
「はっ、賜りました。我が主」
ピッピーノが両手で受け取ります。
着席を待って、はなします。
「最後に、僕の家人達のために、ワイン祭の大半を制服作りに費やしてくれた、ニコーレ・ミラノ侯爵令嬢と、専属メイドのポーラさんに感謝を伝えたい。ありがとう、ニコ、ポーラさん。とっても素敵な制服だよ。ニコとポーラさんに頼んで良かった」
ペコリと頭を下げます。
「「ありがとうございます」」
皆も頭を下げます。
「フフッ、どういたしまして。私もポーラも、アリスとシーマさんも一緒に住む家族なのよ。これからもよろしくね」
ニコが明るく返事をします。
「「よろしくお願い致します」」
皆も声を揃えます。
「それじゃあ、ここで一度解散するね。家人のみんなは、エリーゼとワカバに指示を仰いでね。ニコ、アリス、ポーラさん、シーマさん。立ち会いありがとう。ティータイムまでゆっくりしてね」
〜〜〜
一度、自室でゆっくりしてから、アリスの部屋を訪ねます。
コン、コンッ♪
「アリス、僕だけど入っていいかな」
「どうぞ、トキン」
アリスの部屋に入ります。
アリスが出迎えてくれます。
僕にソファに座るよう勧めます。
アリスは、向かいの席ではなく、僕の隣に腰掛けます。
「どうしたのかしら」
ニコニコしています。
メイドのシーマさんは、隣のメイド室に居るようで姿がみえません。
「うん。ワイン祭が今夜で終わるから、その後の相談をしたいと思ってね」
「なるほどね、どうしたものかしら。私もどこまで動いていいかわからなくて」
アリスがいいます。
元々、人質としてモンタルチーノ街に来たのです。
迷うのは自然な感情です。
なんとか払拭したいと思います。
「アリスは、これまで外で鑑定屋さんをしてたの?」
「いいえ、してないわ。宮殿の自室に持ち込まれたアイテムだけ観てたの」
「じゃあ、ワイン祭の鑑定屋さんで、冒険者との触れ合いは、どう思ったのかな」
「そうね。一言でいえばとっても楽しいわ」
僕はにっこり頷きます。
「僕もワイン祭で、改めて鑑定屋さんの仕事は楽しいと思ったんだ。それでアリスさえよければ、モンタルチーノ街の鑑定屋さんを手伝ってもらえないかな」
「クワッド君が店長になるお店のことかしら」
「うん。ワイン祭が終わっても、雑貨小物ダンジョンの人気は高いのかなと想像してるんだ」
「あの人出だと、そうかもしれないわね」
「そうなんだよ。クワッド一人だと心配だから、アリスとシーマさんも夕方から一緒に手伝ってもらって、陽が沈む前に、お店を閉めてドングリ宮殿に帰ってくるのはどうかな。もちろん、報酬も二人分払うからさ」
「もちろん、いいわよ。トキンの頼みなら、何でも聞くわ。ふふふ」
「ありがとう、アリス」
アリスの両手を握って、引き寄せます。
そっと抱きしめます。
「お礼をいうのは私よ。私を救ってくれた王子様なんだから」
アリスも僕を抱きしめます。
ちょっといい雰囲気になります。
メイド室のドアが、カチャリと開きます。
栗鼠獣人のシーマさんが、一瞬で顔を赤らめ固まります。
「ごっ、ごめんなさいです」
ガチャリとドアが閉じられます。
アリスと顔を見合わせ、くすくす笑います。
小声で伝えます。
「この続きは、また今度ね」
「えぇ、楽しみにしてるわ」
もう一度、アリスを抱きしめて部屋を後にします。
〜〜〜
皆でティータイムを楽しみます。
夕方前に着くように、モンタルチーノ街を目指します。
鑑定士軍団の出発です。
トキンのメモ
皆様、良いお年を




