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第3章40話『俺、嫌われすぎじゃない?』


「――さて、それならまずは」


 『生と死の神』アリシアスはそう呟くと、真っ赤な瞳をカナタへ――いや、今、彼の身体の主導権を握っているビフロンへと向けた。


「――ッ」


 瞬間、ビフロンは背筋が凍る感覚と、言葉では言い表せないほどの恐怖を一気に受けた。だが、発狂することはなく、ただ自分を落ち着かせてアリシアスを睨む。


「これは、あまりいい感覚はしないのだが」


「だろうね。でも、これくらいはしておかないとボクも心配でね。君のことは信用も信頼も出来ない」


「ハハッ、まあいい。それで、俺をここに呼んだ理由はなんだ?」


 嫌われすぎていることにはもう何の批判もしない。わかっていることだ。だから、どうしてこんな場所に連れてきたのかを尋ねた。


「ボクらも詳しいことがよくわかっていなくてさ。【大罪冠(たいざいかん)】って組織を知ってるかい?」


「ああ、俺と俺の力を狙ってる組織だろ? もう何度も襲われたぞ?」


 まさかその話をされるとは思わなかったビフロンは少し拍子抜けしながらも、腰に手を当ててそう返した。


「そうだね。それで、その組織のトップの人物が『異能力』を使えるようなんだよ」


「この目で見たからな。それくらいは知っている。見たところ、全ての『異能力』を使えるようだったな」


 カナタを異世界へと飛ばし、これまでにも幾度と襲ってきたあの男。彼は呪いや魔法以外にも、『破壊神』と『魔王』と呼ばれる存在に【十執政】という組織が与えられていたはずの『異能力』を使えていた。


 カナタから同期された記憶を見るが、男はその理由をなにも教えてくれなかった。だから詳しいことはビフロンもわからんのだが、なぜアリシアスはわざわざビフロンに聞いたのか。


「で、なぜ俺にそのことを聞いてきた?」


「いやぁ、君がなにかしたんじゃないかと思って。だけどその様子を見ると、無関係なようだ」


「そうだな。あいつのすることに俺は関係ない。――その話だけなら、もういいか? 俺はそろそろお暇させてもらいたいのだが」


「そうだね。無関係のようだから帰すよ――」


 アリシアスがビフロンを現世へと戻すようにアスタリアに顔を向ける――前に、アスタリアは「待って」と止めた。


「――? なんだ。お前は俺と話したくないのではなかったか?」


「そうだよ? でも、今はそこじゃない。貴方、どうして【大罪冠】のリーダーを『あいつ』って呼んだの?」


「――――」


「普通なら、――いや、貴方なら『あの少年』か『人間』って言うはずだよ。それなのに、『あいつ』呼びは馴れ馴れしいんじゃないかい?」


 目を細めてそう発言したアスタリアに、ビフロンもまた目を細めて見つめ返す。


『え、は? どういうこと……?』


 一方、内にいるカナタは状況が理解できずにいる。その困惑した声は、同じ身体と魂を共にしているビフロンにしか聞こえなかった。

 だが、ビフロンはカナタに言葉を返さず、


「フッ、呼び方など別にどうでもいいだろう。お前に俺の何がわかると言うんだ?」


「へぇ、白々しいね。なにか隠しているなら、わたしは貴方の歴史を消し去るよ?」


「怖いこと言うじゃないか。昨夜もアステナに喧嘩を売られてな。賢いあいつは俺と戦おうとはしなかったが……。さてお前はどうする?」


 ――段々と、険悪な雰囲気が現れてくる。というか、もとからあったのがさらに大きくなってきている。このままでは、衝突してしまう。


『お、おいバカ!! 変なことしたら身体奪うって俺言ったよな!? 何する気だ!?』


「そう言われてもだな。喧嘩を売られるのはあまり好きではない。ここで一度分からせるのも手だろう」


 内で焦るカナタとは違い、落ち着いた様子でアスタリアを睨みつけるビフロン。


「お前は俺に勝てると思っているのか? 時間操作はめんどうだが、発動前に攻撃を当てればいいだけだろう」


「貴方の分際で、よくもまあそんなことを。わたしは今にでも貴方の存在を全ての時間から消せる。貴方よりもわたしの方が早いよ?」


「面白い。やってみ――ッ!?」


 右手に紫色のエネルギーをまとって、ビフロンはアスタリアに振りかざす。――はずだった。

 突然、心臓に痛みが発し、全身が動かなくなる。そのまま、ビフロンは地面へと落ちた。


「――ッ……お前か……」


 ビフロンは倒れながら、アスタリア――ではなく、その横にいる真っ赤な目をしたアリシアスに目を向けた。ビフロンの言葉に彼女は「ボクだよ」と返すと、


「ボクだって、君に『死』を宣告できるんだ。まあ、死なない程度にやったから心臓が痛むだけで済んだんだけどね?」


「フッ、この身体は、お前らと戦うとなれば分が悪いようだな――ッ」


 ――瞬間、ビフロンの意識は落ちた。そして代わりに、カナタの意識が再度肉体へ戻ってきた。


「あぁ、戻った――痛ぇ!? あ、う……」


 今にでも破裂しそうな心臓の痛みは、そのままカナタの感覚に持ち越された。普段の頭痛以上の痛みに、カナタは地面を足で蹴って暴れまくる。

 痛すぎて、呼吸に集中できなくなる。

 ――すると、


「ほら、もう痛くないでしょ? ちゃんと『生』の力で治したから」


「あ、は、はい……。痛く、ない……」


 しゃがんだアリシアスに身体を触られると、痛みがスっと無くなった。苦しみも一気に消え、呼吸が上手くできるようになる。

 息遣いを荒くしながら何度も深く深呼吸し、カナタはようやく立ち上がった。


「あ、えっと……」


 立ち上がると、めちゃくちゃ怖い顔をしたアスタリアと目が合う。その恐怖で再度後ろに倒れそうになりつつも、何とかバランスを保った。


「ハハハ、君も大変だね。あんなのが別人格として身体の中にいるなんて。ボクだったら耐えられないや」


 笑顔で話しかけてきたアリシアスに「そうですよね」と会釈しつつ、まだ怒ったままのアスタリアに顔を向けた。


「あ、あの、すみませ――」


「帰って」


 ――次の瞬間、ヨナギ・カナタはこの空間から消えた。

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