第3章37話『入れ替わり』
暗い――と同時に、星空が輝いて少々明るい外に、カナタの身体を使用している『同居人』は出てきた。
――この夜空を見るのも、久しぶりだ。
頭上には、長い弧を描く翼のように星が並び、その中央に槍のように縦に星が並んでいた。
「――星座か」
カナタの世界にも星座という概念はあるが、アレと似たようなもので、昔の人間がつけたもの。それが、この世界にもある。
空に浮かぶそれは、「ヴァルキリー座」と呼ばれるものだ。過去に人間共が勝手に想像して書いた神話の中にある星座。
『戦闘の神』を司るなどと言われているが、そんな神、存在しないというのに。
――全く、勝手な想像でこうポンポンと神を作られては困る。
「――寝てるのか。おい、起きろ」
瞳を空から地面で寝ている龍に向け、『同居人』は冷たく声をかけた。だが、起きる気配は無い。
「はぁ、仕方がない」
そう言って、彼は右手を少し前に出す。
すると、焔のように紫色のエネルギーが激しく燃えだした。
そして、その力に気づいた――同調したヴァサゴはその目を開ける。
『――なんだ、貴様か。こんな時間に何か用か?』
「用というほどのものではないが、感謝を伝えようと思ってな」
『感謝だと? ――まさか、貴様――』
「ほう、気づいたか。今の俺の意識は俺だ。この少年のものじゃない。こいつはまだ夢の中さ」
今の意識はカナタではなく、『同居人』だと伝えていない。にも拘わらず、ヴァサゴは気づいた。
それが、『同居人』にとっては面白い。
『どうした? あの少年の意識は沈めたのか?』
「いや、ただ寝ているだけだ。俺がこうして動けるには、お前のおかげなのだぞ?」
『我のか?』
「ああ。これまでも俺は意識が復活することはあったのだがな。こうして身体を動かせるには、間違いなくお前のおかげだ。お前という存在が、俺の力を増幅させている」
ヴァサゴがいるおかげで、カナタの内に秘める破滅の力――『同居人』の力は増幅され、さらにその影響で『同居人』の意識は強くなり、さらにはこうやってカナタの身体を使って動けるようになったのだ。
『貴様と少年を見た目で見分けるのは無理だな。名前で変えるか。少年のことはカナタと呼べばいいが、貴様のことは――』
「そうだな、俺の名前は――」
――名前を、どうするか。昔からの名を名乗ってもいいが、俺自身としてはもうその名前は必要ない。
それならば、俺が知ってるやつらの名前のようなものを考えるか。
それなら――。フッ。
――考えていくうちに、『同居人』はある一つのことに気づいた。『同居人』はカナタの記憶に干渉できるのだが、カナタの記憶から見つめたものと、『同居人』の知る名前に共通点があった。
それなら、やるべきことは一つ。
カナタの記憶から、今の自分に合った名前を探し出す。
そして――、
「俺の名前は、ビフロンにでもしておくか」
『これまた、妙な名前を。まあ良い。それで行こう』
「ああ。明日になれば、少年の人格が戻ってくる。そのときにでも、こいつには伝えておいてくれ」
『構わん』
そうテレパシーを飛ばしてきたヴァサゴに『同居人』――ビフロンは笑い、屋敷に向かって歩いていった。
◆◇◆◇
――朝、カナタは目を覚ました。図書室に作った布団の上で。
「ふぅー、やっぱ布団で寝るの最高だな。めっちゃ疲れ取れた気がするわー」
そう言いながら、カナタは立ち上がる――と同時にフラフラしてしまい、近くにあった本棚に掴まって倒れるの防ぐ。
「あれ……? ちゃんと寝たはずなんだけど。身体重いな……。まあ、昨日色々あったし、それがぶり返してるのかな」
昨日はもう一日でやっていいわけない出来事が起きたし、そのせいで身体が疲れてるのだろうとカナタは推測した。
嬉しいことに、今日の学園は休み。こんなに疲れた状態で行く必要がないのだ。
――と言ってもだが、今のカナタに学園に通う必要はあるのだろうか。
破滅の力を自分のものにしたらラインたちに帰してもらえるのだし、学園で情報収集……といったことはしなくていい。
まあ、それについてはまた明日考えよう。
「さてと……リビング行くか」
すぐにドアを開けて図書室から出て、カナタは一階に降りる階段のところまで歩いていく。
――すると、ちょうどカナタから左手側の扉が開いた。
「うおっ!?」
ビクッとしてしまい、カナタは転びそうになる。何とか体勢を整えて目の前を見てみると、パジャマ姿のラインとアステナがいた。
――ああ、結構ちゃんと一緒に仲良く寝ているようだ。
「あれ、カナタじゃん。おはよう」
「ああ、おはよ。ていうか、別に気にしてなかったけど、起きる時間も一緒なの……?」
「まあ休みだし。学園の日は、アステナは遅くまで寝てるときあるぞ」
「まあ私は学生じゃないし、『知恵の神』だから頭を休めないとね?」
なんか二人の口調が似ているようにも感じるのだが、ずっと一緒にいるせいで似てしまったのだろうか。
そう思ったが、わざわざそのことを聞くのはしなかった。
ただ、じーっと見つめてくるアステナに、カナタを首を傾げて見つめ返す。
「どうかしましたか? 俺の顔、何かついてます?」
カナタは異世界に来てからというもの、地球に帰ることが目標だったため、この世界で恋愛感情を誰かに向けることはしなかった。
セツナやレンゲ、もちろん、目の前の彼女にも。
とはいえ、だ。この世界で会った女性の中で一番綺麗で美しいと思うのは、目の前のアステナである。
肌は白いし、白銀の髪と瞳がとっても美しい。
だから、こんな風にジロジロと見つめられたら、少しばかり照れてしまう。
「あ、あの……?」
「ああ、ごめんごめん。なんでもないよ。早く下に行こうか」
そう笑って、ラインと腕を組みながら長い廊下を歩いていくアステナ。その二人の様子を後ろから眺めていた途端――。
◆◇◆◇
――趣味が悪いな、お前は。




