第3章35話『情報量の多い一日/入れ替わり』
「――はぁ、全く、疲れた一日だったな」
ファルレフィア邸のソファーに座り込み、カナタはため息とともにそう呟く。
――全く、思い出してみれば、濃ゆい日だ。
これからカナタが強くなろうと決意したタイミングで【大罪冠】に連れ去られるし、以前に『破壊神』と『魔王』が率いていた【十執政】とかいう訳分からん組織に友達のロエン、サフィナ、ミレーナが所属していたということ。
それに加え、ラインたちが『創世神』であることと、カナタに隠し事をしていたこと。
さらにさらに、あのヴァサゴとかいうカナタにだけ馴れ馴れしいドラゴンに、『時間の神』アスタリア、『水神』アクアに出会った。
――などと、一日でやっていい内容をしていない。カナタは今日の出来事を全て映像として覚えているため、情報が多すぎてさすがに疲れた。
「はぁ」
『水神』アクアに治してもらってから、カナタたちはすぐ屋敷へと帰ったのだ。それから四つ子だけは『時間の神』がいた空間に残り、まだ帰っていない。
一方のカナタはちょっとダラダラ過ごし、今は夜なのだが……。
「なんでまだいるんだよ……」
「なんじゃ、文句か? 妾としては帰ってよいと思っておるのじゃが、セツナにうるさく言われてな。今日はここに泊まるのじゃ」
あの男は、もうミリアは用無しだと切り捨てた。だから襲ってくることはないとは思うが、一応はここで過ごすらしい。――アッシュとグレイスも添えて。
「とはいえ、お前ら寝る部屋あるの? ラインたち四人の部屋に、お母さんたちの部屋、メイド二人の部屋でしょ? 俺は図書室で寝るから、どうするんだ?」
そう、この屋敷で寝室として使える部屋は七つしかない。カナタが寝ている図書室は除外するが。
となれば、彼ら三人は一体どこで寝るのだろうか。リビングのソファーだろうか。
「うーん」と四人で悩む中で、キッチンからメイドのセレナが歩いてきた。
「私はエルフィーネの部屋の寝るので、誰か私の部屋に寝ても良いですよ」
「そう? でも、僕たちが女の子の部屋に寝るわけもいかないから、ミリアが寝ていいよ」
「そうじゃな。ならば妾が使おう」
こうして、王女様の部屋はかなりすぐ決まった。残りは、アッシュとグレイスの部屋。これまた悩むものだ。
ラインかアレスの部屋に寝ればいいと思うのだが、ラインは『知恵の神』アステナとともに寝ているから、彼の部屋には寝れない。
となるとアレスの部屋であるが、男三人で寝るのは不便だろう。再度、今度は男三人で唸っていると、ミリアが「ふん」と言い、
「ならば、アッシュは妾と寝るのはどうじゃ? 男三人で寝るのは嫌じゃろ?」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、セレナの部屋だからさ。セレナが気にしなくても、僕が気にしちゃうんだよね」
セレナは別に嫌がりはしなそうだが、アッシュとしては女の子の部屋で一日過ごすには、彼女に悪い気がするため、ミリアの申し出を断った。するとミリアは小さく「チッ」と舌打ちをした。
と同時に、もう一人のメイド――エルフィーネが階段からトコトコ降りてきた。そして、
「それなら〜、アレス様をセツナ様かレンゲ様の部屋に寝かして、アレス様の部屋にお二人が寝ればいいんじゃないですか〜?」
「おい部屋の主を別部屋に飛ばしたぞ!?」
エルフィーネの提案に、カナタは身体を起こしてツッコんだ。部屋の主であるはずのアレスが別に部屋で寝かされるとなると、ちょっと可哀想に思える。
「でも〜、お二人がセツナ様たちの部屋に寝るのもアレじゃないですか〜? それなら、アレス様を部屋から出して、その部屋をお二人に使わせるのどうですか〜?」
――まあ確かに言い分はわかる。女の子の部屋に寝ないとしているアッシュとグレイスを、姉妹の部屋に寝かせるのもちょっとアレだ。
それなら、彼女の言う通り、兄であるアレスをどっちかの部屋に寝かせ、その部屋をアッシュたちが使えば良いのかもしれない。
「ま〜、アレス様たちが帰ってきたときに提案してみますね〜」
そう言って、エルフィーネはセレナと一緒にキッチンへと向かっていった。
――とりあえず、寝る部屋の会議は終わりだ。まあ、カナタは図書室で一人寂しく寝るのだが。
「――さて、んじゃ、俺はもう寝ようかな」
「そうじゃな。そろそろ鬱陶しいと思っておった。妾の視界から消え失せろ」
「お前なんでそんなに俺に当たり強いの……? まあ良いや。おやすみ」
相変わらず、相性の悪い王女様だ。ミリア以外は、カナタに「おやすみ」と返してくれたというのに。
――カナタはそそくさと階段を登り、廊下を歩き、図書室へと入った。
「――っていうか、布団くらいは欲しいな。この辺意外とスペースあるし……《創造》」
『権能』を使い、丁度いいスペースに布団と毛布を創った。我ながら、かなりの出来である。余程、カナタの想像力と創造力が素晴らしく噛み合ったのだろう。
満足したカナタは颯爽と布団に潜り込んだ。
「暖かいな……。そういえば俺、今日まで布団で寝てないよな……?」
異世界に来てからというもの、ファルレフィア邸、エヴァンス邸、ファルレフィア邸と住処を変えたが、自分の意志で布団に入ったのは初めてだ。
無論、時々起きた気絶中では、ベッドに寝かされたこともあった。しかし、これまでは彼の意志でソファーに寝たり、図書室の椅子に座って寝るということをしていた。
本当、学生として大事な睡眠を疎かにしすぎである。
ようやく、しっかり寝れそうだ。
「あー、眠気が……。ん……」
――しばらくして、カナタの意識は暗闇へと落ちた。
◆◇◆◇
――久しぶりに、動いてみるか。




