第3章32話『面倒な神様』
「――それで、訓練するためにここに来たと?」
「はい、そうなんですけど……ダメでした?」
「ダメってわけじゃないけどさぁ……」
どこかわからない空間に飛ばされたカナタとヴァサゴ。
そこはいかにも神秘的で、地球でも異世界でも見ることなんて出来なそうな景色が広がっていた。
カナタとヴァサゴが黄金の空を眺める一方、ラインは腰まである金髪の美しい女と話していた。
どうやらここを訓練で使っていいか交渉しているようだが、女は不機嫌そうに腕を組んでいる。
その様子を見たカナタはゆっくり近づき、
「――はじめまして、ですよね? 俺らも急にここに連れてこられて驚いてるんですけど、一時間……いや、三十分くらいでいいのでここで訓練してもいいですか?」
レガリア王国の王女様であるミリアに対して敬語を使わないラインが、目の前の彼女には敬語で話している。
となると、上の位の者だと考えたカナタは丁寧に尋ねた。
すると女は金色の瞳をラインからカナタに向け、
「――黙って。わたしは貴方と話してない。喋りかけないで。というか、わたしの目の前で喋らないで」
――。――――。――――――。めちゃくちゃ冷たく突き返された。女の瞳はもう、親の仇を睨むようなものすごい剣幕だ。
その圧に負け、カナタは怯んで後ろに下がる。
すると、ヴァサゴはカナタと、心を読めるラインにだけわかるように思考した。
『あの女、貴様のことを相当嫌っているようだな。我としては、貴様を侮辱する者を生かしておくつもりはないが……』
何やら物騒なことを言い出した。カナタが「待て待て!!」と止める前に、ヴァサゴは口から紫色のエネルギー弾を女目掛けて吐き出した。
それは、紛れもない破壊のエネルギー。何もかも、木っ端微塵になった――はずだった。
『――? 止まっている?』
しかし、エネルギー弾は女の目の前――つまりは彼女と話しているラインのすぐ後ろで動きが止まった。
『創世神』であるラインがそんなことをしたのだろうか。彼の力なら、間違いなくできるだろう。
――そう思っていたが、口を開いたのは女だった。その表情は、先程カナタを睨んだときより更に数段上の迫力。
「――あのさ、一体どういうつもり? いきなりこんなもの飛ばしてきて」
『貴様がこの男に冷たく当たったから――』
「何喋ってるかわからない。もう動かないで」
ヴァサゴが何を言ってるのか、女にはわからない。が、そんなことはどうでもいいようだ。女が手を前に出すと、ヴァサゴの動きが止まった。
ただ動きが止まったわけではない。――例えばそう、ヴァサゴの『時間』が止まったように。
「お、おい、ヴァサゴ!? 大丈夫か!?」
「貴方も静かにして。わたしの目の前で喋らないでって言ったばかりだよね?」
動かなくなったヴァサゴに心配の目と声を向けるが、その声までも女は気に食わないようだ。――一体、カナタが何をしたというんだ。
女の手がカナタに向き、今度はカナタが――。
「ちょ、ちょっと待ってください! 大丈夫、あいつは大丈夫ですから!」
「――。はぁ、アステナといい、ライン君といい、どうして彼を信用できるのか……。でもまあ、貴方がそこまでいうなら仕方ないね」
そう言って、女はカナタに向けた手を下ろした。――依然として、仇を睨むかのような酷い目つきは変わらないが。
「訓練したいんでしょ? いいよ。ただし、一時間ね」
そう言って女が指をパチンと鳴らすと、縦横高さそれぞれ百メートルほどの透明な箱が形成された。
すると、三人を残して女は箱の外へと出る。
そして、
「その中では、現世と時間の感覚が違うからね。そこで一時間訓練しても、現世では一秒も経たないから。終わったら、すぐに帰ってよ? ――ライン君以外は」
なるほど、ここで一時間訓練しても、現世ではほぼ時間が過ぎないと。それなら、心配することなくここで訓練ができる。
そう思うと同時に、あの女が冷たいなぁとも感じる。
「ねぇライン、あの女の人何者? ミリアにも敬語使ってなかったラインが敬語使ってたしさ。凄い人なの?」
「まあそうだな、凄い人だよ。あの人は『時間の神』アスタリアって人――いや神様か。仲良く……はできないと思うけど、覚えるだけ覚えといて」
「『時間の神』ねぇ……。そりゃすげぇや……でも俺、嫌われることしたかな? 会ったことないと思うし、なにか――ッ!?」
――本日二度目の頭痛だ。一度目は男にさらわれた直後、【十執政】という組織名を知ったとき。
そして今は、何が頭痛の起因となったか。
――『時間の神』か。全く、今から訓練というのに頭痛が起きてしまっては困ったものだ。
しかし、痛みは長く続かなかった。一分未満、カナタはうずくまっただけ。それだけで、耐えれた。
「カナタ、大丈夫か? 訓練できそう?」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと頭痛かっただけだからさ。――それじゃ、やるか」
◆◇◆◇
――全く、昔から変わらず、面倒な神だな。




