第3章27話『教えて』
「――はぁ、みんな部屋に戻っちゃったなー」
ラインたちが屋敷に戻っていく姿を後ろから見ながら、カナタはそう呟いた。カナタも屋敷に入ろうとしたのだが、「ちょっと外で龍と待ってて」とセツナに言われてしまい、仕方なくここで留まっている。
「うーん」
『? どうした。唸り声を上げて』
図体のでかい龍を見つめて声を上げたカナタに、龍はその瞳を向ける。
「お前ってさ、あそこで何してたんだ? 【大罪冠】とかと同じで、あの男の部下だったのか?」
カナタの疑問は、この龍はあいつらの仲間なのかどうかというところだ。もしそうなのであれば、ここに連れてきたカナタはかなりの戦犯ということになってしまう。
だが、
『ああ、あの男か。我は興味ない。アレも、我が話す気がないとわかると我の部屋に来なくなったからな』
となると、仲間ではないということか。カナタは頷きながら「そうか」と言って、
「――で、お前って一体何者なんだ? 俺のことを魂で判別してるんだろ? 悪いけど、俺にはお前みたいなやつと知り合いだった記憶ねえよ」
『ハハッ、記憶がないと? 中々面白いことを言う。だが見たところ……うむ。確かに、貴様の肉体は我の知る貴様とは異なるようだな』
「ほーら、見間違えじゃねえか。魂がどうのこうの言ってたが、この身体は俺のだし、俺は俺だ。ほかの誰にも、俺に入り込む隙なんてねえよ」
カナタはカナタだし、肉体も、魂も彼のものだ。ほかの誰かに勘違いされるような筋合いはない。
――ないのだが、
『そうか。だが、貴様が記憶喪失というのなら……例えばそう、知らない記憶が流れたりするのではないか?』
「――は?」
カナタは、龍にそのことをまだ言っていない。昔から、変な記憶が流れてきたことを。それなのに、当然のように当てられ、カナタは固まってしまう。
そうしていると、自分の指摘が図星だったのに気づいたのか、龍は『フフフ』と奇妙に笑い、
『やはりな。となると、貴様は記憶力も良いのだろう?』
「な、なんでそんな当ててくるんだよ……? 神経衰弱かよ……」
『神経衰弱? それがなにかは知らんが、心当たりがあるようだな』
見たものを一度で覚えられる記憶力。いわゆる、フォトグラフィックメモリーを持っていることも当てられ、カナタは愕然とする。
『貴様のその力は生まれつきのようだが……知らない記憶が流れてくるのは、貴様の魂に刻み込まれた貴様の――我らの力のせいだろうな』
「へー。――。――――。うん、何言ってんのか全然わかんない」
『ハッ、そうか。今はわからなくても、いずれわかるときがくるだろう』
「そう言われてもだな……。――あ、ラインたちが」
龍になにか尋ねようか、と考えていたのだが、口が開くより先に屋敷からラインとレンゲが出てきた。
「わぁ! ほんとにおっきな龍! すごい可愛い!」
扉から外に出た瞬間、レンゲはその緋色の瞳を輝かせ、龍のもとまで走っていく。
おそらくは、というか確実に、龍をなでなでするつもりだろう。レンゲなら、妹ならそうする。
それを瞬時に理解したラインは――、
「わぁっ!?」
右手から血液を放出し、レンゲをぐるぐる巻きに捕まえたら、自分の手元まで引き寄せ、お姫様抱っこ。
レンゲは目をぱちくりさせ、「急にどうしたの?」と、不思議そうな目で兄を見つめる。
そんな危機感のない妹の様子にため息をつき、
「あの龍が、俺らに危害を加えないやつかまだわからないだろ? 危険だから、むやみに近づこうとしない。わかった?」
「はぁーい」
レンゲは少々残念そうにしながら、ラインの首に腕を絡めてくっつく。
だがまあ、ラインの言い分はわかる。カナタに対しては妙に距離の近い龍であるが、セツナとは険悪な空気を作ったりしていた。
まだ、完全な仲間といえる存在じゃない。
「ラインー。アレスとセツナは来なかったの? 二人だけ?」
「ああ。その龍とセツナは相性悪そうだし、喧嘩になると思って。あっちはあっちで、頭が回る三人で色々考えてくれてる」
セツナをこの場に連れてきた場合、再び龍と喧嘩を始めるだろう。先程、セツナが龍に攻撃はしないようにレンゲが言ったとはいえ、どうなるかわかったものじゃない。
故に、龍へ質問しに来たのはラインとレンゲ。
一方のアレスとセツナは、『知恵の神』アステナとともにその頭脳を使って敵の正体を探っている最中だ。
「――ってわけで、俺らはお前に色々聞きたいことがあるんだが……答えてくれるか?」
『我が貴様の質問に答えると? 馬鹿馬鹿しい。答えるわけないだろう』
「ま、だろうな」
「あれ、二人とも龍の声聞こえて……」
龍の声は、音として耳に聞こえてくるわけではなかったはず。なのに、どうして会話が成立してるのかカナタは不思議に思った。
だが、答えは簡単。それは――、
「心の声を読んでるからな。それくらいは簡単だ」
と、いうわけだ。
とはいえやはり、こちらの話を聞いてくれるわけはなかった。カナタだけが特別のようだ。
さて、それならどうしようか。暴力はいけない。龍が気になりそうな質問をする手も――。
「――よし」
沈黙のあと、ラインはそう静かにつぶやいた。抱えられた妹と、カナタが目を向けると、ラインは緋色の瞳を龍に向ける。
そして一度深呼吸をして、
「――お前の名前を教えてくれ」




