第3章26話『振り出し/犬猿の仲の幼馴染』
「――えーっとつまり? 【大罪冠】を率いてるやつの正体はわからなかったと?」
今ここには四つ子と女。つまりは、『創世神』と『知恵の神』しかいない。
メイド二人は二階の掃除をしており、アッシュ、グレイス、ミリアは図書室で談笑中であり、カナタとあの龍は外で待機中だ。
そんな中で、セツナはラインの言葉を再確認するように尋ねた。
「ああ、そうなんだよ。俺はアスタリアさんと一緒に宇宙に行って、飛ばした【十執政】を探した」
この世で四つ子の正体を知っていて、【大罪冠】を設立し、サフィナたちと同じ姿の部下を持ち、四つ子にも対抗出来る存在。
そんなことが可能なのは、【十執政】しかいない。
十人いた幹部のうち、『第五位』、『第七位』、『第八位』、『第九位』、『第十位』の五人は仲良く学園生活を過ごしているし、『第一位』は【大罪冠】なんて組織そ作りそうもない。
となると、『時間の神』アスタリアによって宇宙に放り込まれた『第三位』、『第六位』を探すべきだと判断した。
だから、『時間の神』とともに探りに行ったのだが――、
「二人とも、まだいたんだよ。そこで何度も死と再生を。『生』と『死』を繰り返してた」
どちらかいなければ、いなくなった方が犯人。それが、ラインたちの考えだった。ところが、どうだっただろうか。犯人と思わしき二人は、未だ宇宙で苦しんでいた。
『時間の神』は、ただ二人を宇宙に飛ばしたわけではない。『生と死の神』によって、永遠に『生』と『死』を繰り返されているのだ。
『じゃあね、『創世神』たち。『知恵の神』にも『時間の神』にも『生と死の神』にもよろしく言っておいてよ。――憎き、あの女たちに』
男のその発言から、おそらく三人に酷い仕打ちを受けた『第三位』、『第六位』のどちらかと思っていた。
だがしかし、宇宙はその二人はしっかりと苦しんでいたため、犯人探しは、また振り出しへと戻った。
「――ってなったら、一体誰なんだよあいつは……」
「こればっかりは、私もわからないな。何百年も前の人かな? と思ったけど、恨まれるようなことした覚えはないからね」
「条件に当てはまりそうなのは【十執政】しかいないし……。どうしようか。――あ、外にいる龍に話を聞くのはどうかな?」
アレスが突如閃いたように目を輝かせ、発言。しかし、セツナは手と首を横に振り、
「ダメダメ。あの龍、カナタ君の言うことしか聞かないし、私たちに反抗的だから。まあ、痛めつけて吐かせるってのもありだと思うけど?」
「そんなことしたら、龍が可哀想だよ! セツナお姉ちゃん!」
「――。うん。ほんとにそんな事しないって。言ってみただけだし」
大好きな末妹から真っ直ぐ目を向けられ、セツナは机に置いた腕に頬を乗せ、答える。
そんな妹の様子に、ラインは頭をかきながら、
「ま、とりあえず聞いてみてもいいだろ。あの龍が結局なんなのか、まだわからないし」
◆◇◆◇
「――。で、さっきから貴様はそこで何をしてるのじゃ?」
「それはこっちのセリフな? お前も何してんだよ」
図書室で椅子に座って本を読むアッシュの右隣にいるミリアと、左隣にいるグレイスが睨み合い、険悪な雰囲気が場を包み込む。
「妾はアッシュと本を読んでいるのじゃ。貴様はそこから失せろ」
「俺だってアッシュの本を読んでんだよ。王女様だがなんだか知らねえが、お前に指図される筋合いはねぇ」
「貴様とは長い付き合いじゃから、タメ口位は許そう。じゃが、口が悪すぎじゃろ。不敬であろう」
「お前に対して敬意とかねえし、良いだろ別に」
「ほう? いい度胸じゃ。表に出ろ。泣かしてやろう」
「武器を持ってねえと戦えないくせに、よく言うよ」
――アッシュが本を読んでいる両隣で、喧嘩が始まった。全く、いつもこうである。
ミリアの性格とグレイスの性格は根本的に合わないのだ。本当に、今にでも外に出て喧嘩をするつもりだろう。
「僕、本読んでるんだからもう少し静かにしてくれないかな?」
今まで無口を決め込んでいたアッシュが声を出す。さすがに、読んでいる近くで喧嘩を始められたら集中できなくなったのだろう。
「そら見よ、アッシュもこう言っておるではないか」
「何が『そら見よ』だよ? 先に喧嘩ふっかけて来たのお前な?」
「貴様がアッシュから離れないのが悪いのじゃ。みっともなくさえずるな。うるさい」
互いに睨み合い、言い合いを繰り返す『魔導師』と王女様。その悪い空気に耐えられなくなったのか、アッシュはため息をつく。
「どっちかがうるさいって話じゃなくて、どっちもうるさいよ。僕が読んでるのを覗き込むのは全然良いけど、もうちょっと静かにして欲しいな」
「――――」
「二人の性格が合わないのは知ってるから、仲良くしろとは言わないけどさ。わざわざ言い合わなくても良いんじゃないかな?」
「――それもそうじゃ。すまんな」
なんと、ミリアはすぐに素直になって、アッシュの隣に座り直した。その様子に、グレイスは目を開き、
「おま、俺のときと全然態度ちげえじゃねえか!?」
「フン、貴様とは違って、アッシュとは気が合うからな。静かにするのじゃ。アッシュが本を読めないじゃろう」
「お、お前なぁ……!」
またもや喧嘩が始まりそうな雰囲気。それをいち早く察知したアッシュが、「二人とも」と呟くと、二人は互いに顔を背け、アッシュの読む本を覗き込んだ。
「――――」
二人が言い争わなくなったことで、急激に静かになった図書室。
アッシュは本を読みながら、誰にも聞こえないような小さな声で、呟いた。
「――僕の幼馴染たちは、どうしてこうも仲が悪いんだろ?」




