第3章24話『とりあえずの帰還』
「おーすっげぇ」
「あ、ちょ……揺れすぎだよ……」
龍は一気に地上まで飛び上がると、空高く昇って静止した。
あまりの激しい動きにアステナはヒヤヒヤしながら龍にしがみついている。
カナタもまた、ヒヤヒヤして――。
――して、いない。
「めっちゃ高いなここ。もっと高く行けるか?」
『別に構わんが』
「いや、待った待った! なんで君はそんなに平気な顔してるんだい!? 怖くないの!?」
怖がるどころか、さらに上に行こうと龍に頼むカナタ。
その異常性に、アステナは怖くなってきた。
「いや、なんか……落ち着くっていうか、ハイになってるっていうか……」
「何その現象……?」
龍に会ってから、カナタの様子がおかしいことは彼自身も、アステナも感じている。
アステナでさえ聞き取れない龍の声を認識し、気分も落ち着いていて、今のところ恐怖も感じていない。
――こういう言い方はカナタに悪いが、今の彼は異常だ。
「――。とりあえず、ライン君たちの家に降りよう。広いし」
「そうですね。――道案内するから、そこまで向かってくれるか?」
『貴様の頼みだからな。良いだろう』
龍は拒むこともなく、カナタの頼みを聞くと、ゆっくり高度を下げながら進み始めた。
雲を通過し、少しずつ地面に近づいてきた。そこにはちょうどファルレフィア邸があり、あとは降りるだけ――。
――刹那、大量の血液の刃が、音速を超えて飛んできた。
『――――』
しかし、龍は回転しながら刃を避け、地上に向かう。それでもなお、飛んでくる刃は止まらない。
「ち、血の刃ってことは、ラインたちか……? なんで攻撃してくるんだよ……」
「――そりゃ、こんな龍が頭上を飛んでたら攻撃すると思うよ。私たちが乗ってるのに気づいて無さそうだしね。だったら――」
――しばらくすると、攻撃がすぐに止んだ。何が起きたのかと周りを見るカナタ。
「大丈夫だよ。攻撃してきたのはセツナちゃんだね。テレパシーで私たちだってことを伝えたから」
「ありがとうございます……」
『全く、物騒なやつがいるのだな』
「君のせいだけどね?」
表情がよく見えないため、龍がどんな感情を持っているのかわからないが、とりあえずは軽口を叩く。
龍は何も答えず、カナタとアステナが落ちないようにゆっくりと降り、地面に着地した。
「よっと……」
「おっとっと……」
そう呟きながら、二人は龍から降りる。そして屋敷を一直線、目に捉える。
そこには、胸の下で腕を組んでじーっと見てくるセツナがいた。
開口一番、セツナは、
「――何、その龍?」
「【十執政】のアジトにいたのさ。私たちは助けて貰ったんだよ」
「――。そうですか。とりあえず、アステナさんはこっち来てください」
「え? うん」
セツナに手招きされ、アステナだけが彼女の元に向かった。
『おい、なんだあの女は』
「あの子はセツナっていうんだ。俺の友達だよ」
『ほう? アレが貴様の友達だと? 我らとは似たような力――いや、反する力を持っているように感じるが』
「はぁ? 何言ってんだお前?」
龍に手を置いてもたれかかり、仲良く話しているカナタ。その様子を見て、セツナはアステナとカナタに交互に目を向けた。
「カナタ君、誰と喋ってたの? もしかしてその龍?」
「え? あーうん。なんか、俺にはこいつの声聞こえるらしくてさ。こいつも俺に懐いてるっていうか、話しかけてくるんだよなー」
『フッ。我は懐いているわけではない。我らは一つのようなものだからな。安心感がある。貴様もそうだろう?』
「だーかーら、俺はお前みたいな特徴あるドラゴン知らないって。まあ? 確かにお前と一緒にいたら安心感あるけどさ」
龍に対してテレパシーを使っていないセツナに、会話の内容はよくわからない。
だが、それは何か重要なことを言っていると、感じていた。
「――まあ、いいや。それで、カナタ君を連れ去ったやつらはどこ行ったの?」
「逃げたよ。どこに行ったかはわからない。アジトもぶっ壊されてさ。俺らも結構ギリギリで逃げてきたんだ」
「……うん。そうなんだ」
セツナは小さく頷くと、その緋色の瞳を龍に向ける。
「で、あなたはずっとここにいるつもり?」
『我の住処は無くなったからな。ここに留まっておこう』
「いや、私許可してないんだけど?」
アステナと同様、テレパシーで龍の心の声を聞いたセツナは、腰に手を当てながらそう返す。
それでも龍は表情を変えずに、
『なぜ貴様のような女に許可されないといかんのだ? 我に気安く命令をしようとするな、愚か者め。殺してやってもいいぞ?』
「――。――。はぁ? 私に勝てると思ってんの? 私があなたの命を奪う方が先だけど?」
――瞬間、空気が変わる。セツナと龍の力が空間に漂い始め、互いに反発しあう。
それは拮抗しあい――。いや、セツナの方が、やや押している。
『――――』
龍も負けじと反抗するが、押し返すことはできない。
それが、『創世神』の力を持って生まれた少女と、それに反する力を持った龍の違いだ。
「――ちょ、ま、待てって! お前はなんで張り合おうとするんだよ……。やめろって」
『――。貴様がそう言うなら、やめてやろう』
「なんでカナタ君の言うことは聞くの?」
カナタの頼みは、素直に聞くようだ。それを不思議に思って、セツナは睨みながら尋ねる。
『こいつだけは特別だ。貴様らに命令されるのは癪に障るしな。理解したなら、失せろ』
「――一々ムカつく」
今にでも手が出そうなセツナの頭を撫でて、アステナは「まあまあ」と落ち着かせる。セツナは「やめてくださいよ……」と言いつつため息をついて、
「――――」
セツナが右手を龍に向けると、手のひらが白く光り、龍を透明な空間に閉じ込めた。
「ひとまず、そこにいていいから。あなたをどうするかは、お兄ちゃんが帰ってきてから考え――」
「――帰ってきたけど、これどういう状況?」
刹那、セツナの背後から声がした。彼女が生まれてからずっと聞いていた、兄の声が。




