第3章23話『魂』
「なんだこのでけぇ龍……」
扉を開いた先にいた、十メートルほどのデカさの龍。全身が銀色で、めちゃくちゃかっこよく見えるドラゴンだ。
「すっげぇ……」
カナタはスタスタと地面を歩き、龍に――、
「カナタ君」
「はい?」
急に名前を呼ばれて、振り返る。どうしたのだろうか。
不思議に思い、目を向ける。すると、
「――君、どうして歩けているんだい? 動けなくなったはずだろう?」
「え? ――あ、れ?」
――なぜ、気づかなかったのだろうか。ついさっき、あの謎の力を使ったことで、カナタは全身が動かなかった。
ここまではアステナが魔法で連れてきたのだが……今のカナタは、なぜか歩ける。治癒魔法もなにも、受けていないのに。
「なんで急に……?」
『我のおかげだ。貴様の身体が回復しているのは』
「あーそうなのか。どうりで身体がちょっと軽い気がするなー」
「――ナタ君」
カナタは軽くなった腕をくるくる回し、今の自分の気分がとてつもなく高まっていることに気づく。
『それにしても久しいな。なぜここにいる? 我の知らぬ女を連れて』
「まあ色々あってな。襲われて、逃げて。今ここに来たってところ――」
「カナタ君!!」
アステナに、名前を叫ばれた。カナタはその大声にビクッとしてしまい、振り向いた。
あまり大声を出さない人だと思っていたのだが、あんな声が出るとは。
「えっと……なんですか? 急に叫んで……」
「――君、さっきから誰と喋ってるんだい?」
「――は?」
何を、言っているのだ。だって、カナタはずっと会話を――。
……誰と、会話をしていた?
「私には、声が聞こえなかった。――ただ、私は相手の心を読めるから、その龍の心を読んだんだ。すると、君の返答と一致する質問をしていた」
「この龍の、ですか?」
「うん。――君は、その声を不思議がることもなく、返答していたね。なにも思わなかったのかい?」
その質問に、カナタは頭を悩ませる。本当に、なにも思わなかったのだ。
だって、ただ聞かれたことに返しただけだ。
――その質問の内容が、今考えると、何を言っているか分からないというのに。
「えーっと、なあドラゴン。お前、俺のこと知ってるのか? 『久しいな』とか言ってたけど……」
『――? どういう質問だ? 貴様は我を忘れているというのか?』
「忘れてるもなにも、俺の記憶の中にお前みたいな特徴あるドラゴンはいないんだけど……」
『――ほう』
記憶力には自信がある。――というか、映像記憶持ちなので、なんでもすぐ思い出せる。
それに、こんなドラゴンを元の世界で見るわけないし、この世界に来てからも会ったことは無い。
もしかしたら、この龍は人違いをしているんじゃないか。
「人違いじゃないか? 目がちゃんと見えてないとか? 誰かと勘違いしてる?」
『フッ。面白いことを言うな。貴様は我が見間違えるわけないだろう。我は貴様を顔ではなく、魂で判別しているからな』
「はぁ……? アステナさん、あいつ、俺を魂で判別してるとか言ってるんですけど……。――アステナさん?」
龍の言う意味がわからず、斜め後ろにいるアステナに顔を向ける。しかし、彼女は手に顎を乗せて、なにか考え事をしているようだ。
「――いや、なんでもないよ。それより、私たちは早くここを出ないと――」
同時に、空間の揺れがさらに激しくなる。
そして、地面にヒビが入った。
「あ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ!?」
「カナタ君!!」
何らかの魔法で空を浮き、落ちなかったアステナ。しかし、カナタは地面が割れると同時に、その下に落ちていった。
「まずい……どうにかして……」
どうにかして助けよう、と思うが、ここにはそんなことに使えるものは何もない。
それなら――、
「――ッ」
魔力のついたものを運ぶ魔法を使用し、カナタを上まで上昇させる。
――間一髪。それは成功し、カナタは再び地面に姿を現した。
「あ、ありがとう……ございます……」
「いや、大丈夫……。私もヒヤヒヤしたよ……」
――そんなことを言ってる間も、空間の崩壊は止まらない。逃げ場もない。
どうする? どうする、どうする、どうす――。
『――――』
刹那、龍の口元から何かが発せられ、空間に漂うゴミを消し飛ばした。そして、
『我に乗れ。外まで連れて行ってやろう。――そこの女、お前もだ』
「――。ああ、そうかい。それじゃあ、お邪魔させてもらうよ」
聞き取れないが、龍の心を読み、アステナはカナタを魔法で龍の背中に乗せた。
続けて、彼女自身も背中に乗る。
『振り落とされるなよ?』
「ああ、悪いな」
「なんで君はこの龍とすぐ打ち解けているんだい……?」
初対面の龍と、結構仲良くやってるカナタに、アステナは小さい声でそう呟いた。
カナタの返答を――待つことはなかった。
それより先に、龍が動いた。
「うおっ!? すげぇ、ジェットコースターみたい……!」
「それは君の世界にあるものかい? こんな揺れるものがあるの?」
「まあ、アトラクションですよ。アトラクション」
そんなことを言っていると、龍は天井に向けて口を開き、何かを発した。
瞬間、天井は全て破壊され、巨大な穴が出来る。
『行くぞ』
そして、龍はその穴に向かって、飛び出した。




