第3章22話『脱出』
「――ってわけで、私たちは二人に怒ってるんだけど?」
炎魔法が明かりを灯す空間で、地面に座らされた『暴食』ヴェルドと『傲慢』バエル。
その目の前には、腕を組んだ『嫉妬』リオネと、その他【大罪冠】が三人。
――つまり、ここに七つの大罪が集まっている。
四人の目的は、自分たちに何も言わず無断行動を行った『暴食』と『傲慢』を叱ることだ。
「いやーそう言われてもさー。別に僕らは殺されなかったし、カナタ君も捕まえられたからよくない?」
「そこじゃなくて、私は何にも言われなかったことにキレてて――」
「黙れ。――そもそも貴様が学園であの男を連れ去れば良かった話ではないか。ヴェルドが『リオネが失敗したみたいだし、僕らが行こうよ』なんて言ってきたぞ。もっと感謝すべきだろうが」
「うっ……」
そんなことを言われると、リオネは言い返せない。
まさか、彼らの行動原理が自分のせいとは思わなかった。昨日、学園でカナタを襲ったリオネであるが、あれは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様の指示である。
カナタを連れ帰れという目標は果たせなかったが、いくつか頼まれたことはできている。
だから、別にあの方に粛清されるとかもない――いや、そもそもあの方が粛清するなんてないのだが、ヴェルドたちはリオネのためにやってくれたようなのだ。
「――。あ、り、がとう。ご、めんね!」
「言いたく無さそうに言いますね」
リオネの喋り方に『強欲』がツッコむが、リオネは首を横に振って反応しなくなった。
「いやー⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様にも勘違いされてて困っちゃうなー。あとで釈明するんだし、リオネも手伝ってよー?」
「いや……。うん。まあ、良いけど……」
未だあの方にはちゃんと話ができていない。多分、後先考えず無断で襲いに行ったんだと思っているに違いない。
だから、ヴェルドは誤解を解こうとと思っているのだ。
「――はぁ。じゃあ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様が戻ってきたら――」
「――《再誕の輪》」
刹那、あの方が戻ってきた。どうやら残機を使ってここに来たようだが……。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様! どうして急に? 何かあったん――」
「話は後。ここから離れよう。バエル」
焦るリオネを落ち着かせて、その目は座っているバエルに向ける。男の意図を読んだのか、バエルはこくりと頷き、
「――《空断の呪い》」
次の瞬間、地面が割れ、全員吸い込まれていった。
◆◇◆◇
「おいおいおい……嘘だろ……?」
男が自害し、二人だけ残された空間でカナタはそう呟いた。
だんだんと、地面が揺れ始め、動けない身体なのにさらに身動きが取れなくなった。
「――なるほど、まずいね。このままじゃ、私たち生き埋めだよ?」
「……マジすか? いや、ちょっと勘弁してくれよ……。――アステナさん、歩きにくくなさそうですね?」
こんな状況でも、足元がおぼつかなくなるわけでもなくスタスタと歩くアステナ。不思議に思って質問すると、
「魔法を使ってるからね。歩きにくいところでもバランスよく歩けるよ」
「魔法って便利……。――って、こんな話してる場合じゃない……」
早く、ここから抜け出さなければ。でもカナタは全身に力が入らず、動けない。
「――あのー。アステナさんって、俺を担いで逃げるとかできます?」
本当に情けないお願いだが、今はそれしかない。ほかの手段なんて、何も思いつかないのだから。しかし、
「いや、無理だね。私力弱いし、体力もそんなにないし」
「あぁ……そうですか……」
一気に絶望が込み上げてくる。このままじゃ本当に生き埋めだ。元の世界にも戻れてないのにシャレにならん。
どうにかして――、
「う、わぁ!?」
だが、急にカナタの身体が宙に浮きはじめ、カナタは動かない手足をバタバタさせる。
「これって……」
「自分の魔力がついたものを運ぶ魔法だね。君にはさっき光魔法をかけていたから、私の魔力がついている。だからできたよ」
それは、ものを運ぶ魔法だった。
これを見たのはいつだったか、昨日である。
学園の一限も授業で、カイラス先生が似たようなことをしていたのをカナタは目撃した。これは、それと同じ魔法なのだろう。
「このままじゃここ壊れるね。急ごう」
そう言って、アステナは全身を魔力で強化しつつ、カナタを魔法で飛ばしながら走る。
暗すぎてどこが出口なのか全くわからないが、進むだけ。
炎魔法の明かりを頼りに進み続けていると、巨大な扉が目の前に現れた。
「こ、ここですか……?」
「……いや、わかんないね。私はここから来たわけじゃないし」
「――。は!? じゃあどっから来たんですか?」
「まあ、私の友達にここまで瞬間移動させて貰ったんだよ。本当ならまた助けて欲しいけど、彼は今宇宙を探索しに行っていてね」
なんてことをやってる友達なのだ……。と、カナタは驚いてしまう。――いや、だとしたら、ここからどうやって外に出ればいいかまじでわからないじゃないか。
「と、とりあえず開けます?」
「そうだね」
カナタの提案をアステナも飲み、重く、巨大な扉をゆっくり引いた。
そこには――、
「嘘だろ……」
その中には、バカでかい――というわけではないが、十メートル程の巨大な龍が、いた。




