第3章20話『破滅の力』
「ねぇ、知ってた? あなたって世界を滅ぼせる力があるらしいよ?」
「君が知ってるか分かんないけど、君って世界を滅ぼせる力を持ってるんだ」
それは、【大罪冠】『嫉妬』リオネと、カナタを異世界に飛ばした男が言った言葉。
何を言っているんだこいつらは。なにか勘違いをしているんじゃないか?
ただ、カナタはそう思うだけだった。自分にそんな力があるとは到底信じられないし、何より、神様にチート能力を授かって転移したわけではない。
ただの密航者であるカナタにはそんな恵まれたことは起きなかった。
「――――」
だが自分には、生まれたときからある優れた記憶力、そしてこの世界に来てから、おそらくラインに貰ったであろう《創造》と《破壊》がある。
それを使っても男には勝てない。そう、認識している。
そして、この戦いの中で、カナタは心の奥底で考えていた。リオネと、男の言っていた力の正体。
それは昨日、カナタがラインたちに『権能』の使い方を教わっていたとき、カナタから出てきた紫のモヤではないか。
そう、思っていた。
「――いけるのか……? これで……」
もしかしたら、失敗するかもしれない。よくわからない力が溢れ出して、大変なことが起きるかも。そんなネガティブ思考も全て受け止めながら、カナタはイメージをした。
得体のしれない力を引き出す感覚を。
「――っ」
――次の瞬間、紫のモヤがカナタから溢れ出た。
「クソッ!! 失敗か……!?」
最悪の可能性も考えてしまう。だが――、
「……いや、大丈夫だよ」
そう言葉を紡いだ『知恵の神』の顔が、カナタの目に映った。
その言葉は、心なしか、なんとも複雑な感情を持った表情で口から発せられた。
カナタにその意味はわからなかったが、彼女が大丈夫と言うなら大丈夫だ。そう、信じてる。
「――ハハッ」
それと同時に不気味に笑みを浮かべて笑った男。その声が、カナタの耳をつんざいた。
この状況でなんで笑えるというのか。男の感情が全く理解できない。
「やっぱりあなたは最高ですね。まさかソレを使うとは思わなんだ」
「だから、その急な敬語はなんなんだよ……気持ち悪い」
「ああ、そうですか? ――まあそれもそうだね。今の君なんて尊敬に値しないよ」
カナタはそれに言葉は返さず、ただ見つめるだけ。いつ、動き出そうかその機会を狙っているのだ。
元の世界なら以外と早い足も、異世界だとそんな凄いものではなくなる。
そうなると距離を詰めるために使えるのは、
「シャドウ・エクリプス――」
「《空断の呪い》」
カナタの闇魔法詠唱は、完了した。しかし、発生した黒い霧は、一瞬にして消し飛ばされる。それは、男の発動した呪いのせいだ。
――そのせいで、カナタが男の隙をつく時間は消えた。
ならば、
「――ッ!!」
魔力で更に底上げした身体能力で、男まで近づく。そして、紫色の力を纏った拳を男に振るった。
「1。次は?」
世界を滅ぼせると言われる力なら、いともたやすく男を殺害できるのでは? と考えていた。しかしそんなことはなく、男は軽々と避けて煽り出した。
「チッ……はぁっ!!」
「2、3、4。《腐蝕の呪い》――」
「――ソル・レイ」
カナタの攻撃を避け、男が対象を腐敗させる力を使う直前、アステナから光魔法が一直線に放たれた。
そのレーザー光は一瞬にして男を飲み込み、そのまま――、
「――《透過》」
男が発動したのは、ミレーナの『異能力』。レーザーは男に当たることなくただすり抜け、後ろの壁に激突するだけだった。
「《創造》!」
――次いで、カナタの『権能』で生み出した白い剣が男の首元に迫る。その剣には世界を滅ぼす力も纏っているようだ。禍々しい紫色が漏れている。
「へぇ、武器にソレをつけるとは考えたね。ってことはこれで5か」
「さっきから何の数字だよ……?」
「さあね。《斥力の王》」
「うっ――!!」
突然の斥力で壁まで吹き飛ばされ、カナタの背中は衝突。魔力で強化していたとはいえ、痛いものは痛い。効率の悪い治癒魔法を背中に少しだけかけて、再度立ち上がった。
「こう、なったら……」
カナタは右手の指を銃のように男に向ける。そしてそのまま、紫色の力を弾丸のように放った。
「6、7、8。《斥力の王》」
「うえっ!?」
三発目の弾丸が弾かれ、カナタに向かって飛んできた。避けるには早すぎて、回避法も思いつかな――
「……。大丈夫かい?」
「は、はい……ありがとうございます……」
少し離れたところにいるアステナが、カナタに向かって何かしたのだ。防御魔法? なのかわからないが、それが反射されたソレを防いでくれた。感謝しかない。
「――すぅ。はぁぁ!!」
「9。全く芸のない戦いからだね。殴る蹴るくらいしか頭にないわけ?」
「うるせぇ……! はっ!!」
また、《創造》で作った剣に紫の力を纏わせ、男に振った。しかし男はソレを軽々しく手に取って、
「――10か」
とだけ呟く。
「――っ!」
剣を動かそうとしても掴まれたままビクともしない。ならば、左手に力を纏い、それを―― 、
「あ、がっ……!? ぅぅぅ……!?」
だがその前にカナタを襲ったのは、不快感と苦痛だ。
全身から力が抜け、そのまま地面に倒れる。
ファルレフィア邸で『暴食』と対峙したときと同じように、男の《腐蝕の呪い》のせいかとまずは疑った。
「これ、違う……」
だが、これまで感じたことの無い圧倒的な不快感と痛みだ。
頭がぐるぐる回って意識が朦朧とし、さらには先程まで何ともなかった全身が痛い。動いただけでちぎれそうな痛みがする。
「がっ……んっ……!!」
「カナタ君!」
途端に近づいたアステナはしゃがんで、心配した表情でカナタを見る。それに構わず、カナタは痛みに耐えながら男を睨む。
「こっわ。よく身体動かせたね。やるじゃん」
「う、るせぇ……お前、何かしたのか……?」
「酷いなあ。僕のせい? 他ならぬ君自身のせいだろ?」
意味が、わからない。カナタ自身のせいでこうなってると言うのか……?
「うっ……くっ……」
カナタの睨む目付きを見ながら、男は腕を組む。そして、
「――10回」
「……あ?」
「10回。それだけしか、君はその力を使えないのさ」




