第3章19話『望んだ力』
「――どうして、ここだと分かった?」
部屋に参戦してきた『知恵の神』アステナを見つめ、男は問う。
自分たちの正体は教えていないし、この場所のことも教えていない。
先程飛ばしたロエン、サフィナ、ミレーナが、ここをアステナに教えた可能性もあるが……、
「きっと、そうじゃないんだろうね」
『知恵の神』である彼女がわざわざ出向いているのだ。何か、決定的なものを掴んだに違いない。
それは――、
「【十執政】」
「――っ」
アステナの紡いだ言葉に、男は反応を見せた。そして全身を落ち着かせ、
「やっぱり、わかってたんだね。僕だって隠し通すつもりはなかったし、そろそろだと思ってたよ」
「君はロエン君たちの『異能力』を使っていた。それで、【十執政】と関係があると思ってね。だから、以前彼らが使っていたこのアジトに来たというわけさ」
この場所は昔――と言うほど長くないが、昨年まで【十執政】という組織が暗躍していた際に使っていたところである。
男が【十執政】の関係者と考えると、もう誰もいなくなったこの場を使うのでは? と思って来たのだ。
「――『異能力』は、【十執政】が一人二つずつ持っていた。なのに、君はいくつも使うというわけだ。私の知る限り、『異能力』をいくつも使えるのは二人しかいない」
「――――」
「片方はこんなことをしないと私たちは思っている。――となれば、私の予想は一つだけ。君は、『第六位』かな?」
アステナの言った「片方」というのは、『第一位』のことだ。しかし、彼はこんなことをしないとアステナたちは信じている。そうなると、敵の正体である可能性があるのは『第六位』だった男なのだ。
だが――、
「さあ? 君の言ってることが良く分からないけど……。僕は僕さ」
腰に手を当て、男は答える。その反応からすると、『第六位』でもないのか。となると、ただ単に【十執政】の関係者だったというだけなのか。
そんな思考が走る中、
「――端的に言うけど、僕は君が嫌いだ。ちょっとした恨みもあるからね」
「人に恨まれるようなことをした覚えは、私の人生を振り返ってもそうそうないんだけどね。私は引きこもり気味だったし」
「ああそう。君の話はしてもらわなくて結構だよ。興味無いし」
――これ、まずいんじゃないか?
二人の緊迫した会話をただ聞いていたカナタだが、そんな感覚を覚える。
今の彼はカナタと話していたときと違って、とっつきにくく冷たい。
過去に何があったか知らんが、そんなにアステナが嫌いなのか。
「さて、『知恵の神』様は僕をどうする気かな? 僕は君に負けるつもりもないし、君らを安全に帰してあげるつもりもないよ」
「正直、君の能力は厄介だし、私戦うのが得意じゃないからね。一人で戦うとなるとしんどいかな。――そう、一人で戦うとなるとね?」
「――ん?」
なんか妙な言い回しだと思い、カナタはアステナを見て、目が合った。
腕を前で組んで、何やら「君が戦ってよ」と言うような瞳を向けてくる。
「いや……」
いや、いやいや、待ってくれ。カナタには荷が重すぎる。一度、「エクスプロード」で男を殺したとはいえ、あれは男が油断してたおかげである。
――油断していたとはいえ一度殺したのは快挙であるが、残りの残機はなんと9997。そんなの、無理に決まっている。
「――なんか話し合いさせるのは良くなさそうだし、僕から行こうか。《腐蝕の呪い》」
それは、触れた相手を腐敗させて殺すといった使い方ではない、もう一つの使い方。
範囲内に呪いを広げ、対象の身体と精神を蝕むという使い方だ。
先程、ファルレフィア邸で『暴食』ヴェルドが披露していたので対処法は分かるのだが、
「クソッ……光魔法か……」
このデバフ状態を解除するためには、全身を光魔法で包み込み続けなければならないのだ。だが残念なことに、カナタは光魔法を使えない。
となると、
「これで良いのかな?」
次の瞬間、アステナとカナタの身体が発光し出す。何事かと焦るカナタだが、それはアステナがかけてくれた光魔法と気づいた。
光魔法を使えないカナタのために使ってくれるとは心優しい神じゃないか。
でも、
「ずっと光魔法を使ってたら、魔力無くなっちゃうんじゃ……」
アステナの魔力が尽きてしまって、そのまま二人共倒れになれば最悪だ。だから彼女の魔力切れを心配したのだが、
「ああ、安心していいよ。私は魔力はそこそこ多いし、効率的に魔法を運用してるからね。魔力切れなんてそう起こらないさ」
さすが、『知恵の神』である。どうやってるか知らんが、そんなことまで出来るとは。――それなら、カナタはやるしかない。自分が出来る、戦い方で。
「――ふぅ」
心を落ち着かせ、深呼吸。どうするか。「シャドウ・エクリプス」で視界を潰し、攻撃するか。
《創造》で武器を作って斬りかかるか。
否、カナタが選んだ手段は、
「――っ」
次の瞬間、紫色のモヤが広がった。




