第3章18話『俺は――』
「――さあ、カナタ君。僕と、僕たちと一緒にこの世界を滅ぼそうよ」
男のその手を取るか、否か。
取った場合、カナタは男と、【大罪冠】たちとともに世界を滅ぼすだろう。そして男の目的が達成されれば、カナタは故郷に変えれる。
取らなければ、世界を滅ぼす必要はないが、その身はずっと狙われ、さらに元いた世界にも帰れないかもしれない。
「――ッ」
普通に考えるなら、取った方がいい。そしたら、カナタの目的も果たせるのだから。
もし、この世界が昔の地球だというなら、破壊すればそれはもう大変なことになってしまう。
しかし、男もラインたちも「異世界」と言っているし、同じ世界だという可能性は限りなく低いはず。
それならば、この世界がどうなろうと、元の世界には何の影響もない。
「でも……」
だからといって、「じゃあ世界をぶっ壊すか!」などという考えは出来ない。いくら、カナタとは関係ない世界といっても、壊すのは流石に躊躇する。出来ない。
「――さあ、どうするの? 僕たちの仲間になるか、そのまま彼らのもとに戻るか。僕なら、君の望みも叶えてあげられる。だから、君の力を僕の望みのために貸してよ」
畳み掛けるように、男はそう言ってくる。男の言い分にも一理ある。
カナタをこの世界に飛ばした彼なら、カナタを元の世界に帰すことも本当にできるはずだ。
男の話を信じるなら、ラインたちもカナタを帰す力がある。――というか、それはなんとなく信じれる。だって、『権能』を大量に操ったり、色々なことが出来ている。
カナタを異世界に送るなんてことも簡単に出来そうだ。
――なら、どうしてそれをしてくれなかったのか。それだけがどうしても、謎だ。
「俺は、あいつらがなんで俺を帰してくれなかったのか知りたい。だから、俺は戻らないと――」
「僕らと一緒さ。彼らの考えてることはね」
「……え?」
どういう、ことだろうか。男と、ラインたちの考えてることが一緒だと、彼は言った。それはつまり、ラインたちも世界をぶっ壊そうとしているのか?
――いや、それはないはず。それなら男たちと共謀してとっとと滅ぼしているだろう。
なら、「一緒」というのは何についてか。それをカナタが聞く前に、
「僕も彼らも、君の力を狙ってるってわけさ」
「――は?」
「君の持つ、世界を滅ぼせる力を僕らは求めてるんだ。僕は世界を滅ぼすために、四つ子はその力を自分たちが管理するためにね」
唐突にカナタの問いに対する答えが、男の口から出た。
カナタはただ口を開け、ぽかんとする。
それを男は気にせずに、カナタの後ろに回って右手でカナタの肩に手を置く。
「このまま君が帰っても、歓迎してくれないよ。一度こうして、僕らに捕まった。それなら、彼らのもとに戻れても、危険な力を持つ君をまた僕らに捕まるわけにいかない彼らはどうすると思う?」
「それは……」
「君を誰にも会わせないようにするだろうね。僕は彼らの知り合いの顔に変装出来るし、知り合いと同じ顔の部下がいる。僕らが成りすまして君に会いに行く可能性もあるし、かなり厳重に隔離するんじゃない?」
「――――」
確かに、カナタがここから逃げ出してラインたちのところに戻っても、世界を滅ぼせる力を持つカナタが、これから普通に学園生活を送れるわけないと思う。
それは、納得する。
――もうこのまま男に従って良いのではないか。
「じゃあ、仲良くしようよ。カナタ君?」
男の手がゆっくりと、カナタに迫る。
ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと――、
迫る手を、カナタは振り払った。手に強い衝撃を受けた男は、一瞬目を見開き、すぐに表情を戻す。
「僕の提案は飲まない、ってことで良いのかな?」
「ああ」
「良いのかい? こんな世界をすぐ滅ぼせば、君は元の世界に帰れるんだ。早く帰りたいんだろ?」
「それでも、俺にそんなことできない。俺は、この世界の人たちに何度も救われた。それが全部あいつらの思惑通りだったとしても、俺は感謝を忘れて世界を壊すなんてことできない」
これまで一体何人に、誰に助けられたことだろうか。
ラインに、アレスに、セツナに、レンゲに、セレナに、エルフィーネに、アステナに、アッシュに、グレイスに、ミリアに、ロエンに、サフィナに、ミレーナに。
そんな彼ら彼女らがいる世界を、滅ぼすことなんてできない。
――正直、カナタにはないのだ。世界を滅ぼす力を持っているという感覚が。
だがしかし、それを持っているというのならカナタは、
「俺が世界を滅ぼせる力を持ってるっていうなら、俺はこの力で世界を守ってやる」
「世界を滅ぼす力で、どうやって世界を守ると? 君がその力を使えば、世界の崩壊は止まらなくなる。君は僕たちと一緒にいる方が良いに決まってるだろう? だから――」
「それでも、俺は帰る。お前に協力したら、すぐに元の世界に帰れる。でも、だからといって世界を壊す手伝いをするってのは、俺のポリシーに反する」
世界を滅ぼす手伝いなんて、しない。するわけない。絶対に。そのままカナタは真っ直ぐな目で男を見つめる。男の提案を拒否した。このまま、何をされてもおかしくない状況だ。
どうするか。そう悩んでいると、男はため息をついた。
「君が、あなたが世界の破滅を望まないなんて、変な話ですね。僕がいない間に、相当気が変わったんですかね?」
急な敬語が気味悪く感じてしまい、カナタは戦慄する。
そういえば、商店街で戦ったときまで、男はカナタに敬語を使っていた。
王都で襲われたときからは敬語が取れていたのであまり気にしていなかったが……気味悪い。
「ま、良いでしょう。あなたが、君がそっちを選ぶなら、僕は容赦なく君を潰す」
刹那、一気に威圧感がカナタに襲いかかった。左足を一歩下げ、額からは冷や汗が流れる。ヤバい。カナタだけで男と戦えるわけがない。頼みの綱のロエンたちはどこかに飛ばされてしまったし。
マズい。
「《腐蝕の呪い》――」
近づいた男の手が、カナタの顔面に当たる。――それよりも早く、「ヴォイド」と言った、聞き覚えのある女の声が耳に入った。
同時に、男の身体は爆散し、再度その命を終えてしまう。
「――残り、9997か。今の攻撃は……」
《再誕の輪》で残機を使って復活した男は、焦ることなく顎に手を置く。
そうしていると、扉から部屋に入ってくる足音が聞こえた。カナタがハッと振り向くと、そこには――、
「――君が、その力を世界を守るために使うっていうなら、私が助けてあげる」
――白銀の髪と瞳を持った、美しい美女。『知恵の神』アステナが、そこには立っていた。




