第3章16話『信じられない話』
「四つ子は君を元の世界に帰せるのに、わざとそれをしていないって言ったら、君はどう思うかな?」
そう、不気味な笑みを浮かべた男が発言。それにはカナタだけでなく、残りの三人――ロエン、サフィナ、ミレーナも止まった。
どうしてそんなことを言い出したのか。その言葉の意味が、カナタにはそもそも分からない。
「――――」
カナタとロエンたちはそれぞれ同じ驚きを見せているが、本質は違う。
カナタは、男が何を言っているか分からないという驚き、そしてロエンたちの驚きは――、
「――ッ」
なぜ、男がそのことを知っているのかという驚きだ。
ロエンが歯を噛んだ音が、耳に入った。――と同時に、カナタは喉を鳴らす。
「ま、待て待て……俺を元の世界に帰せる、だと? ラインたちが……?」
「うん、そうだよ。そこの三人は知っているかもだけどね。――あ、知ってるかもじゃなくて、知ってるよね」
急に話の矛先が自分たちに向けられ、ロエンたちは声が出なくなってしまう。
「知ってた、のか……?」
「わ、たしたちは……」
怒る、悲しむ、などといった目ではない。ただ、どういうことかを尋ねる目を、カナタから向けられる。しかし、ロエンは答えられなかった。
そこで――、
「――君たちには消えてもらうね」
瞬間、男の右手に漆黒の剣が現れる。それは、理外の力で作られたものである。剣に目を合わせたロエンたちが、一斉に男を無力化しようと――。
「じゃあね。――また、いつか」
襲いかかるよりも、男が剣を振る方が早かった。ただ一度、水平に振った。すると、ロエン、サフィナ、ミレーナの三人が立つ地面の空間が割れ、落ちていった。
「なっ――」
「ロエン!?」
ハッと後ろを見ても、三人が落ちた空間は完全に塞がった。カナタが落ちることも、ロエンたちが戻ってくることも、出来ない。
一気に一人にされたカナタは地面と男たちを交互に見つめ、全身に悪寒が走る。
「――今の僕が、僕として君らと話すわけにはいかない」
――一方、カナタとヴェルドに聞こえない声で、悲しそうな顔をしながら男はただ呟いた。
すると、男は再度カナタを見て、そしてヴェルドに目を向けた。
「僕はカナタ君と二人きりで話したいから、お前は出ていって良いよ」
「はーい了解です。気をつけてくださいよー?」
素直な部下である。ヴェルドは男の言うことを聞いて、そそくさと部屋から出て行った。どうしてあんなやつが、男の許可を得ずにファルレフィア邸を襲ったのか。
男はただ呆れるばかりである。
――さて。
「さてと。こうやって君とちゃんと話せるのは、これが初めてだね」
「……ああ。――さっきの、どういう意味だ……?」
やはり、そこに食いついてきた。男は安堵する。こうやって上手くいくなんて。
「そのままの意味さ。あの四つ子は、君を元の世界に戻せる力を持ちながら、そうしなかったんだ。酷いとは思わない?」
「そんなの言われて、信じられるわけ――」
「四つ子が『創世神』って言ったら、信じるしかないんじゃない?」
信じられるわけない。それは、当然だ。男にそんなこと言われてもカナタが信じるわけがない。もちろんそれは今、男がカナタに被せて言ったことについても、だ。
それを、男は分かっている。だから、だからこそ、カナタの心を壊す作戦を決行する。
「え、はぁ……? 『創世神』って、神様だろ? ラインたちは吸血鬼とほかの種族のハーフで……」
「そう、そうだよ。ほかの種族っていうのが『創世神』なんだよ。この宇宙を創った、神様のことさ」
声が、出なくなる。確かに、ラインたちには何度もはぐらかされている。吸血鬼以外の力のことを、ほぼ何も教えてくれなかった。ただ、結構なんでも出来る便利な力としか。
カナタは、『創世神』という存在をよく知らない。ただ、宇宙を創って、生まれた人たちに『権能』を与えるなどといったことくらいしか。
だが、ラインたちのあの無法な力が一体何なのだと問われるならば、それは神の力と言っていいと、カナタは思っていた。
「あいつらが、『創世神』って言うなら……」
そう思うと、やはり納得する部分はある。死んでも蘇るし、『権能』を何個も使い、バカみたいに強い。本当に出来ることに制限がなく、何でもやっていた。
それは、世界を創れる神の力と言われても十分分かるほどだ。
――だが、そうだとしても、
「あいつらは、俺のために色々やってくれた。俺がお前らと戦えるように、魔法を、『権能』の使い方を教えてくれた。それなのに、俺を元の世界に戻さないわけないだろ。きっとそんな事まで出来ないんだよ」
四つ子はここまでカナタのためにやってくれているのに、わざわざ元の世界に帰さないなどあるものか。きっと、それは出来ないのだ。
だって、カナタの異世界生活二日目の朝、カナタはアレスたちに聞いた。
『あ、もしかして俺を元の世界に帰してくれたり……?』
と。しかし、
『――ごめん。出来ない』
と言ってきた。それにカナタが絶望していたら、
『代わりに手伝いたいんだ。君が帰れるようにさ。そのために、どうやってこの世界に来たのか教えてくれない?』
なんて、優しい言葉を投げかけてくれたのだ。そんな彼らが、カナタを元の世界に戻さないなどといった意地悪をするわけない。――そう、カナタは信じてる。
「――そう。よっぽど信用してるみたいだね。それなら、一つ面白いことを聞いてあげよう」
男はカナタの仲間思いをバカにするかのように鼻で笑い、今度はまた不気味な笑みを浮かべる。それにカナタが「なんだよ」と聞くと、
男は、「《創造》と《破壊》。これは君の『権能』だろ?」と言って、一拍置く。そして、
「――異世界人の君がなぜ、この世界に生まれた者が持つ『権能』を持っているのかな?」




